昨年九月に発足した原子力規制委員会の事後承認人事が国会同意された。異常事態は脱したが課題は山積だ。目に見えない圧力も増すだろうが、国民の安全と環境を守るという使命に徹してほしい。
国の原発政策に重大な影響力を持つのに国会の同意を得ていない異常な事態。「仮免許」のまま、高速道を走り続けるような状態が五カ月も続いていたのである。
田中俊一委員長と規制委委員四人の人事案は、昨年七月に当時の野田佳彦首相が国会に提示した。しかし、「原子力ムラ出身ばかり」との批判が上がり、脱原発を主張する議員も多い民主党から造反が出るのを恐れて採決を先送りしたままになっていた。政権交代後、安倍政権が速やかに事後承認を国会に求めたのは評価する。
ただし、内実はそう単純でもない。規制委が策定中の新たな原発規制基準は田中委員長自らが「世界最高水準」と胸を張るように相当に厳しい。再稼働を急ぎたい自民党内の勢力にとっては不満が募り、委員の差し替えを求める声が出たほか、実際の国会採決では党の方針に反して棄権も複数出た。
規制委は気をつけないと、七月までの規制基準づくりの中で規制を骨抜きにする「猶予措置」の拡大や、運用面の抜け道などを求める圧力が強まる可能性は大である。国会には一月に国会事故調の提言を受ける形で、規制委を監視する目的の「原子力問題調査特別委員会」が自民党主導でできた。
事故調提言は、かつての原子力安全・保安院のような政官業なれ合いをけん制する狙いだった。しかし、自民党からは、出席を義務づけられる田中委員長らへの“政治的圧力”の場と勘違いする声も漏れ聞こえてくるのである。
電力業界の海千山千ぶりも要注意なのは言うまでもない。田中委員長は昨年八月の衆院議院運営委員会で「独立性、透明性を守ることで事業者と一線を画した規制行政ができる」と所信を述べたが、半年もたたないうちに、規制委の事務局である原子力規制庁の幹部が敦賀原発の活断層評価報告書案を公表前に事業者に渡していた問題が発覚した。
絶大な権限を握る以上、高い倫理観が欠かせないことは言をまたない。国会同意で「本免許」となったのを機に、規制委はいま一度「何ものにもとらわれず、科学的・技術的な見地から、独立して意思決定を行う」とうたった原則を見つめ直すべきだ。
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