18禁ゲームしては異色の「主人公が遊女」という設定に興味を惹かれたものの、パッケージが醸し出す雰囲気があまりにも妖しいので購入を見送ったという記憶がかすかにあるゲーム。その後、何をどう血迷ったか、ずいぶん時間が経ってから改めて購入してみました。
ゲームのタイトル名は「夜華の褥(やかのしとね)」。まず通常では読めませんね(^^;)
18禁ゲームしては異色の「主人公が遊女」という設定に興味を惹かれたものの、パッケージが醸し出す雰囲気があまりにも妖しいので購入を見送ったという記憶がかすかにあるゲーム。その後、何をどう血迷ったか、ずいぶん時間が経ってから改めて購入してみました。
ゲームのタイトル名は「夜華の褥(やかのしとね)」。まず通常では読めませんね(^^;)
漁師の網元の娘であった藤原こずえ(変更不可)は、父親と2人暮らしであり、幼なじみと結婚を約していたが、父親が海難事故で負った借金を返済するため、女郎屋に身を沈めることとなる。そこで繰り広げられる、遊女たちの宴の数々。その果てにはどのようなできごとが待っているのか。
戦前における遊郭というものは、もはや想像の範囲内でしか描くことはできませんが、私のイメージとしては、性が商品化される──それも、男性が一方的に女性に対して優位に立つ形で──場所として、そして「粋」と「艶」とが行き交う場所、といったところでしょうか。そういう場を担う「遊女」が、日々の営みの中でどのような行動を取らされていたのか、その苦しみ、辛さ、そしてしたたかさを描いています。客の要求があれば、それを拒むことが許されない世界。落語の廓話などでは、客と遊女との駆け引きがおもしろく表現されているものの、それはあくまでも「性を売り物にしながら、人間としてのプライドをどのようにして維持していくか」を、遊女が必死に探った結果、うまれた習慣といえましょう。
もちろん、戦前までの売春制度というのは、「強姦の制度化」とでも言うべきものです。落語などで語られる明の部分だけに目を向けるのは間違っているのは当然のことでしょう。その一方、「社会で抑圧される被害者として同情される存在」として説明するのも間違っていることと思います。実際に存在した「社会環境」に身を置く「人間」の生きざまを見ようとすると、そういった視点だけでは大事なものを見落とすことになります。
しかし、このゲームでは、そういった「型」を使わず、遊女=女性を主人公に据えることで、「渦中から見る」ことを実現させています。「社会」を意識しすぎると女郎哀史になってしまいますが、そういう失敗は犯していません。
そして、私が非常に好感を抱いたのは、悲惨なゲームにありがちな「何が悪いんだ」という悪者追究パターンを取っていないこと。運命を運命として受け止めるということから逃げないという、非常にシビアなことを、淡々とやってのけています。意味づけをすることに意味があるのは、その現状が突き抜けられる場合に限られるわけです。平凡な環境であれば「現状追認」という水準に留まってしまうのですが、「自分がいることを認識しながら希望を抱き続ける」という、(これを失えば絶望に陥るという)いうなれば人間として最低限の意識をいかに持ち続けるか、という状況下で、そんなコトを言えるものでしょうか。否、というべきでしょう。そういう点で、実に誠実なシナリオになっています。
このゲームの中では、登場するキャラクターそれぞれがみな訳ありというのは当然として、さまざまな客の求めに身を任せざるを得ないことをどう受け止めるか、それをきちんと描いています。客を初めて取らされる日の遊女の心境。他人事として受け止めていた「運命」が残酷に現実を見せつけるさまを、生々しく見せつけています。しかし、そのエグさを白々しく強調したりすることはありません。かなりバランスを取りながら、女性が「遊女」という身分にされることを、本当に「生々しく」描いています。
また、遊女どうし、あるいは客との関係も、心理描写をうまく出しています。奇妙なまでの連帯感がうまれたり、ドス黒い何かが心に沸き立ったり、そういう心理を、微妙な行動のひとつひとつに表しています。
さらに、ハッピーエンドも用意されているとはいえ、どうしても後味の悪さが残るエピソードが中に含まれます。主人公の行動が直接の原因となっているのではなく、すべてが予定調和的な運命の必然的帰結に過ぎないので、かなりマイナス面での衝撃を受ける可能性があります。
非常に独特のスタイルであるのは間違いありません。こういう書き方もあるのか、とうならされたしだいです。
基本的に一本道のアドベンチャーゲームです。中途の選択肢によってフラグ立てが行われ、終盤のエンディングを決定するというスタイルになっています(まだ見ていないCGなどもあるのですが…)。ややフラグ立ての基準となる選択がわかりにくいものの、中途でゲームオーバーということはなく、シナリオも単一です。
主人公であるこずえの視点「だけ」から描かれているわけではなく、別のキャラクターの視点での描写も時折まざるので、小エピソードのつなぎ合わせ、というスタイルといえましょう。
なお、ハッピーエンドを終えると「完」、それ以外のエンディングを終えると「終」という文字が、スタッフロール後に出ます。
インストール先ディレクトリは変更可能です。操作の基本はマウスですが、キーボードでの操作も可能になっており、エンターキー押下で左クリック代替になっています。CD-ROMなしでも起動できます。
ゲーム中、マウス右クリックでシステムメニューが呼び出され、メッセージウィンドウの表示・非表示、スキップのオン・オフ、エフェクトのオン・オフ、メッセージ速度調整、BGMのオン・オフ、効果音のオン・オフ、背景パターンの切り替え、セーブ&ロード、タイトルへ戻る、そしてゲーム終了の各メニューを選択できます。
グラフィックは、基本的に640×480ドット表示で、別途、不透明のメッセージウィンドウが表示されます。このため、(一枚絵画面も含め)640×480画面だとメイン画面の一部が隠れてしまうため、実質的には1024×768ドット画面でのプレイがよいでしょう(ゲームプログラムには切り替え機能がないので、Windowsで切り替えることになります)。また、強制的に背景画像が固定され、ウィンドウ表示はできません。
セーブ&ロードは、任意の位置で30個所まで行え、セーブ時の実日時が記録されます。
メッセージスキップは高速ですが、既読・未読の区別がないので、選択肢を変えてリプレイした場合などには、ちょっと困ります。また、ワンアクションでスキップを止めることはできず、再度右クリック→スキップをオフに切り替え、という手順を踏むのはちょっと疑問。
CGモードは、サムネイル表示されます。BGMモードはありません。
BGMは、PCMで再生されます。和風の物寂しげな感じのサウンドですが、あまりパッとしません。
音声はなし。あったら…おどろおどろしい雰囲気になりそうですね。暗めの展開となる部分がかなり多いうえ、気が触れるキャラがいたりするので、音声をあてるのは至難の業でしょう。
グラフィックはまずまず、とでもいったところでしょうか。ゲームの雰囲気という面も考慮するべきでしょうが、少し重たげな感じの絵です。枚数は割と多く、またHシーンのバリエーションも当然のごとく豊富です。縛りからレズシーンなど、アブノーマルなパターンがかなり網羅されています。鞭や蝋燭など、身体に傷をつけるタイプのものは、当然入っていませんけれど。
そして、画面効果のよさを、なによりも指摘したいと思います。立ちキャラが、横へ縦へすすすっと動き、また会話のたびに、右へ向き左へ振り向き、と、活発に動いてくれます。人形劇や影絵を見ているような動き方は、こういったタイプのゲームではほとんど見ないだけに、非常におもしろいものと感じました。
特にありません。具体的なキャラクターについてあれこれ語るよりも、キャラクターの「背景」がその個々人に押しつけている「運命」ゆえの悲劇の方が、はるかに印象に残っているので、イベントやセリフ単位での方がよさそうですし。
本当に地味なゲームだったのでしょう、良い評判はもちろん悪い評判もほとんど聞きません。「ゲーム購入への道」にも掲載は皆無です(^^;)
「売春婦」イコール「汚れた女」という視点、これが、特に「女性の側で」強固に据えられてきたという現実があります。また、あくまでも「対象」としての「遊女」に付せられた意味は、男性の場合、それが限定されたものであることは言を待たないでしょう。そういった「遊女」を生み出してきたのが、男性の視点で構築されてきた家父長制社会であるのは間違いありません。
しかし、実際に「生きていた」遊女たちは、そういう社会的要因以前に、さまざまな面を「見て」「生きて」いるわけです。「社会の被害者」あるいは「保護・更正の対象」という面を取り除いた上で、彼女たちがどう「生きて」いるのか。それを、アダルトゲームという媒体を通じて、新たな視点で見直すキッカケを出してくれるゲームだと感じます。
エンターテインメントとして「楽しめる」か、となると、少なからぬ疑問は残りますが、「セックス」と「嫌でも向き合わざるを得ない」環境を、かなり実直に扱っている佳作と感じます。キャラの魅力で引っ張るゲーム、あるいは単なる陵辱ゲームに留まらず、「女性の視点」として「女性主人公」を持ち出し、そしてある程度成功させている点を、まずは評価したいと思います。
ただ、このブランド、ほとんど聞かないんですよね。全然売れなくて潰れた…なんてなったら、少し悲しいものがあります。