しろばんば:井上靖ゆかりの小学校閉校 静岡・伊豆の湯ケ島小、少子化で3月末に

毎日新聞 2013年02月15日 東京夕刊

閉校する湯ケ島小の正門近くにある「しろばんばの像」=静岡県伊豆市湯ケ島で2013年2月9日、西嶋正信撮影
閉校する湯ケ島小の正門近くにある「しろばんばの像」=静岡県伊豆市湯ケ島で2013年2月9日、西嶋正信撮影

 作家・井上靖(1907〜91)が通い、自伝的小説「しろばんば」でも描いた静岡県伊豆市立湯ケ島小学校(旧・湯ケ島尋常高等小学校)が3月末、過疎・少子化のため140年の歴史に幕を閉じる。主人公のブロンズ像や井上の資料室など、ゆかりの施設があるが活用方法は決まっておらず、閉校を惜しむ声が上がっている。【西嶋正信】

 井上は1914年4月、湯ケ島小に入学し19年12月まで在籍。当時の思い出は、豊かな自然の中で友人らとかかわりながら成長する少年を描いた「しろばんば」に結実した。子どもたちは夕方に綿毛をつけて飛ぶ虫を、しろばんばと呼んだ。

 <小さい校舎は八つの教室を持っていた。一年から六年まで、各学年がそれぞれ一つの教室を持ち、その他に高等科の教室が一つと裁縫室が一つあった>

 作中でこう描写された同小の歴史は1873年に端を発する。移転した今の学校は、正門前の庭に少年らのブロンズ像▽校舎2階に、登場人物を紹介し、井上の書斎の模型も展示する資料室−−がある。学校だよりの名称も「しろばんば」だ。

 井上は故郷への思いを強く抱き続け、81年には同小に自作の詩「地球上で一番清らかな広場」を贈った。子どもたちが児童集会で必ずこの詩を暗唱するなど、学校を挙げて井上作品に親しんできた。

 児童数は1948年に556人だったが、今は87人に減少。4月から市内の他の2校と天城小(同市青羽根)に統合される。市によると、湯ケ島小跡地に市内の文化施設を移転し「文学の里」とする構想もあるが、活用方法は未定という。

 3月23日に閉校式がある。同校出身の杉山宗治校長(58)は「卒業生として偉大な文豪を生んだ母校がなくなるのは寂しい」と惜しむ。井上靖文学館(同県長泉町)の松本亮三館長は「伝統を継承するのは最終的には物ではなく人。学校が統合されても、子どもたちには古里を大切にする気持ちを持ち続けてほしい」と話している。

 ◇「地球上で一番清らかな広場」(全文)

 地球上で一番清らかな広場。北に向(むか)って整列すると、遠くに富士が見える。廻(まわ)れ右すると天城が見える。富士は父、天城は母。父と母が見ている校庭でボールを投げる。誰よりも高く、美しく、真直(まっす)ぐに、天にまで届けと、ボールを投げる。

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 ◇井上靖

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