畳み掛けるように何度も回答してすみません。
あれだけ長い回答を書きながら言い忘れたことがありました。
「汚名」という言葉の意味です。
「汚名」の「名」とは自分に付けられた「印」のことです。「レッテル」と言ってもいいでしょう。英語で言う bad name (“ボン・ジョビ”の歌の歌詞にもありますが)が「汚名」に当たります。
「汚名」は自分に付けられた「悪い印」ですから「すすぐ(洗い落とす)」あるいは「そそぐ(取り去る)」という言葉がそれに続くのです。
一方「劣勢」は、例えば天秤ばかりの針が「劣っている」方向に傾いただけであって、“「劣っている」という「レッテル」を貼られた状態”とは違うのです。針の傾きを「優勢」の方向に持っていけば「優勢」にすることも可能です。だから「劣勢挽回」が使えるのです。もっと単純に言えば、「挽回」するのは「劣」ではなくて「勢」なのです。「劣っている“勢い”を取り戻す」というのが「劣勢挽回」の意味です。
しかし、「汚名」という言葉の中には「劣勢」と違って、「取り戻す」べきものがありません。「汚名」の場合は一旦それを洗い流すか、取り去るかしないと「名誉」が挽回できないのです。もちろん順番が逆になって、ほかのことで「名誉」を挽回することによって「汚名」を取り去ることもできます。とにかく「汚名」は洗い流すか取り去るかしないと「挽回」というところまではいかないので、「汚名」と「挽回」を直接くっつけるわけにはいかないのです。
また「汚名返上」の「返上」は謙譲語であることからして、自分より目上のもの、あるいは自分より強いものに「お返しする」という意味です。なぜ「返上」かというと「汚名」というものが世間から与えられた「悪い評判」であることから、それを「世間」にお返しするという意味で「返上」という言葉が使われているのです。
たぶん、質問者さんの頭の中には、先ほど上述した「劣勢挽回」のように「汚れた“名(名誉の名)”を取り戻す」のだから、正しいのではないか、という疑問があるかと思います。それは元々の意味から離れてしまっていて間違った解釈ですが、私もそういう拡大解釈の可能性は「言葉の変遷」という意味においては否定はしません。しかし現状では、No.17の最後の方で書いた理由によって「汚名挽回」がすぐに一般化した表現になるとは思えないのです。
投稿日時 - 2004-10-25 11:57:51