【参考資料 国際法−4】
陸戦の法規慣例に関する条約・前文
マルテンス条項・寛典を勧奨する
マルテンス条項・軍隊指揮官の裁量

 


 

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 陸戦の法規慣例に関する条約・前文
■解説 条約集 〈第7版〉 編代/小田滋・石本泰雄 1997年 三省堂 P657
独逸皇帝普魯西国皇帝陛下〔以下締約国元首名省略〕ハ、平和ヲ維持シ且諸国間ノ戦争ヲ防止スルノ方法ヲ講スルト同時ニ、 其ノ所期ニ反シ避クルコト能ハサル事件ノ為兵力ニ訴フルコトアルヘキ場合ニ付攻究ヲ為スノ必要ナルコトヲ考慮シ、 斯ノ如キ非常ノ場合ニ於テモ尚能ク人類ノ福利ト文明ノ駸駸トシテ止ムコトナキ要求トニ副ハムコトヲ希望シ、之カ為戦争ニ 関スル一般ノ法規慣例ハ一層之ヲ精確ナラシムルヲ目的トシ、又ハ成ルヘク戦争ノ惨害ヲ減殺スヘキ制限ヲ設クルヲ目的トシテ、 之ヲ修正スルノ必要ヲ認メ、千八百七十四年ノ比律悉会議ノ後ニ於テ、聰明仁慈ナル先見ヨリ出テタル前記ノ思想ヲ体シテ、 陸戦ノ慣習ヲ制定スルヲ以テ目的トスル諸条規ヲ採用シタル第一回平和会議ノ事業ヲ或点二於テ補充シ、且精確ニスルヲ必要ト判定セリ。
締約国ノ所見ニ依レハ、右条規ハ、軍事上ノ必要ノ許ス限、努メテ戦争ノ惨害ヲ軽滅スルノ希望ヲ以テ定メラレタルモノニシテ、 交戦者相互問ノ関係及人民トノ関係ニ於テ、交戦者ノ行動ノ一般ノ準縄タルヘキモノトス。
但シ、実際ニ起ル一切ノ場合ニ普ク適用スヘキ規定ハ、此ノ際之ヲ協定シ置クコト能ハサリシト雖、明文ナキノ故ヲ以テ、 規定セラレサル総テノ場合ヲ軍隊指揮者ノ擅断ニ委スルハ、亦締約国ノ意思ニ非サリシナリ。
一層完備シタル戦争法規ニ関スル法典ノ制定セラルルニ至ル迄ハ、締約国ハ、其ノ採用シタル条規ニ含マレサル場合ニ於テモ、 人民及交戦者カ依然文明国ノ間ニ存立スル慣習、人道ノ法則及公共良心ノ要求ヨリ生スル国際法ノ原則ノ保護及支配ノ下ニ立ツコトヲ確認スルヲ以テ適当ト認ム。
締約国ハ、採用セラレタル規則ノ第一条及第二条ハ、特ニ右ノ趣旨ヲ以テ之ヲ解スヘキモノナルコトヲ宣言ス。
締約国ハ、之カ為新ナル条約ヲ締結セムコトヲ欲シ、各左ノ全権委員ヲ任命セリ。
 〔全権委員名省略〕
因テ各全権委員ハ、其ノ良好妥当ナリト認メラレタル委任状ヲ寄託シタル後、左ノ条項ヲ協定セリ。

赤文字が一般的にマルテンス条項といわれている部分です。


 マルテンス条項・寛典を勧奨するの意を含めるもの
■「戦時国際法論」 立作太郎 日本評論社 1931年 P45〜46
 但しハーグ陸戰法規條約の前文に於て、『一層完備したる戦争法規に關する法典の制定せらるるに至る迄は、締約國は、其 採用したる條規に含まれざる場合に於ても、人民及び交戰者が、依然文明國の間に存立する慣習、人道の法則、及び公共良心の要求する 國際法の原則の保護及び支配の下に立つことを確認するを以て適當と認む』と爲し、而して陸戰條規第一條第二條につき、右の趣旨を以て 之を解すべきことを特言せるを以て見れば、上記の第一條の条件を備へざる民兵及義勇兵團所屬の人々及第二條の條件を充たさざる未占領地 の人民の占領軍官憲に反抗する者につき、寛典を勸奬するの意を含めるものと解すべきである。

マルテンス条項の趣旨はハーグ陸戦法規第一条、第二条の条件を充たさない軍人、人民に対して「寛典を勸奬する」(寛大な処分をすすめる)ものということですから、強制ではないことになります。


 マルテンス条項・軍隊指揮官はその裁量にて
■戦時国際法講義 第二卷 信夫淳平 丸善株式会社 1941年 P14〜15
戰鬪手段の中には、成文の交戰法規の上に規定するに至らざりしものも多々あり、その當然違法行爲を以て論ずべきもの にして、明文の上には特に禁止又は制限されてないものも少なくない。然しながら、その規定が無いからとて、違法が化して 適法となるに非ざるの理は銘記するを要する。陸戰法規慣例條約の前文には、『實際二起ル一切ノ場合二普ク適用スベキ規定ハ 此ノ際之ヲ協定シ置クコト能ハザリシト雖、明文ナキノ故ヲ以テ規定セラレザル總テノ場合ヲ軍隊指揮官ノ擅斷二委スルハ亦 締結國ノ意思二非ザリシナリ。』又、『締約國ハ其ノ採用シタル條規二含マレザル場合ニ於テモ、人民及交戰者ガ依然文明國ノ 間二存立スル慣習、人道ノ法規、及公共良心ノ要求ヨリ生ズル國際法ノ原則ノ保護及支配ノ下二立ツコトヲ確認スルヲ以テ適當ト 認ム』と特に宣言した。即ち苟も文明國間の慣例に反し、將た人道に悖戻すること明白なる行爲は、たとひ法規に明文なしと雖も、 之を戒飭すべきは當然である。第二囘海牙平和會議に於て、追て海戰編にて述ぶる無?維自動觸發水雷問題の討議の際、各國代表 の意見殊に英獨のそれが容易に妥協せざるや、英國代表は『幸にして一條約の締結に到達するにもせよ、將た不幸にして之に到達 するを得ざるにもせよ、人道的要求は之を無視するを許されない。特定條約が禁止せずとの單なる理由に於て或行動を適法なりと 論ずるは當らず。』と云へるに、独逸代表も勿論なりと述べて之を肯定した。曾ては海牙諸條約を以て單に徳義的拘束力を有する に過ぎずと放言したる独逸のその代表者ですら尚ほ且之を肯定せるに於て、この理の何人も反論を容れ得ざる當然のことたること 以て知るべきである。ただ成文法規の上に何等規定なく、而して國際法の原則に違反せず、人道上の要求に悖戻せざる行爲たる 限りは、適法の手段として交戰國の之に訴ふるに妨げなきこと勿論で、軍隊指揮官はその裁量にて適當に之を取捨すべきである。

軍隊指揮官の裁量で判断してかまわないということですから、明文規定で明確に禁止されていない非人道的行為が例外なく マルテンス条項違反ということにはならないでしょう。
もちろん軍隊指揮者の擅断は許されませんが、これを書いた信夫淳平自身が違法な民衆軍の即決処刑を認めていますし、かなり柔軟な対応が可能と考えられます。

■国際法講座 第三卷 【第二節 陸戦 信夫淳平】 国際法学会・編 有斐閣 1954年 P139
戰鬪手段の中には、成文の交戰法規の上に規定されてないものが少なからずあり、當然違法行爲として論ずべきもの で禁止または制限されてないものもある。けれども、その規定がないからとて、違法が化して適法となるわけではない。 陸戰法規慣例條約の前文には、『實際に起る一切の場合に普く適用すべき規定は、この際これを協定し置くこと能わざりしと雖も、 明文なきの故を以て規定せられざる總ての場合を軍隊指揮官の擅斷に委するは締結國の意思にあらざるなり』、また『締約國はその 採用したる條規に含まれざる場合に於ても、人民及び交戰者が依然文明國の間に存立する慣習、人道の法規、及び公共良心の要求より 生ずる國際法の原則の保護及び支配の下に立つことを確認するを以て適當と認む』と特に宣言した。すなわち苟も文明國間の慣例に反し、 また人道に戻ること明白たる行爲は、たとい法規に明文なしとするも、これを戒むべきは當然である。ただ成文法規の上に何等規定なく、 そして國際法の原則に違反せず、人道上の要求に戻らざる行爲である限りは、適法の手段として交戰國の之を利用するに妨げないこと言を俟たずで、 軍隊指揮官はその正しき裁量にて正しく取捨すべきである。

これは、戦後書かれた文献ですが、ここでも軍隊指揮官の裁量を認めています。


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