「ニュースを斬る」

「オリンピック選手に体罰」が行われる謎を解く

甲野善紀×小田嶋隆 アウトサイダー対談

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2013年2月14日(木)

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小田嶋:え? そうなんですか?

甲野:掴むとどうしても腕の付け根が浮いてきて、体幹(編注:この場合は胸から腹にかけての体の中心部にある筋肉を指す)から離れてくるんですね。ですから体幹の力を腕にそのまま伝えられなくなる。

 先ほど例に挙げた国井師範なども、柔術では掴まない方法を修行させられたエピソードが残っています。それに、武術の感覚で言えば、相手が刃物を持っていた場合、うっかり掴みにいったら、腹を刺される危険性が大きいのです。

小田嶋:ああ、そりゃそうですね。

甲野:警察官が柔道、剣道をやるのは、本来は犯人逮捕のためですよね。しかし、警察で逮捕術の師範をしている人たちは、単に競技としての剣道、柔道のトップでしかなく、逮捕術について何も知らないという事を私の知り合いの警察官に聞いて驚きました。そのせいでしょう、柔道で腕に覚えのある警官が、現場では刺されてしまうということがしばしば起きるようです。

 剣道についても同じです。例えば木刀を持って剣道の「正眼の構え」をしても、覚せい剤などで痛覚が麻痺した相手に木刀を掴まれて引き寄せられ、やはり刺されてしまうようなことが起こる。

小田嶋:手に取りやすい場所に、木刀を差し出してやるようなものなんだ。

甲野:ですから、ルール無しの現場で戦闘する場合には、棒や木刀などを下段に落とし、相手に奪われない構えから自在に使えるようにする必要があるのです。しかし、現在の警察の剣道では、まるでそうした際の訓練はしていないようです。考えてみれば、これはとてもおかしな事ですよね。

小田嶋:うーむ。

甲野:警察官が柔道や剣道の全日本の大会で優勝したとか、そんなことは国民にしたらどうだっていいんです。犯罪者をちゃんと取り押さえてくれる、そういう警察官を望んでいる筈ですから。

「きれいごとを言う桑田真澄氏は裏切り者だ」

小田嶋:今回の問題の前には、大阪の市立高校で部活動中に体罰があり、生徒が自殺してしまった事件があり、さまざまな識者がコメントしていました。その中で気にかかったのが、甲野先生ともご縁の深い(※)桑田真澄元投手が朝日新聞に寄せた寄稿と、それに対する反応のキツさ。

※桑田真澄氏は巨人軍に投手として在籍していた当時、成績不振で引退がささやかれていた最中、甲野善紀氏の古武術を自身のトレーニングや投球、守備などの身体の動きに取り入れ、2002年には見事復活、最優秀防御率を達成した。以降も、甲野氏とは交流が続いている。

 例えば「週刊文春」では「反体罰の旗手、桑田真澄への違和感」という記事が掲載された。この記事を見て思ったのは、桑田投手が出した真っ当なコメントに対して「きれいごと言いやがって」という空気が、「週刊文春」編集部、というより、スポーツ業界全体にあるんじゃないか、ということ。野球界は言わずもがな、スポーツマスコミも含めた業界全体が、「そういうきれいごとを言う奴は裏切り者だ」という空気を共有している。

 桑田投手だけでなく、落合や江川といった、高い能力がありながらも集団になじまないタイプの選手について、スポーツマスコミは熱心にスキャンダルを見つけて攻撃してきた。これは、「いじめ」あるいは「体罰」と同じ体質に起因しているんじゃないか。

甲野:それは間違いなくそうでしょうね。桑田さんも現役時代「投げる不動産屋」などと言われていましたが、あれも、ただ姉さんと結婚した相手に「俺に金を預けてくれ」と言われて預けただけで、ほとんど実体がない話なんです。それなのにとことん叩かれた。あれは、スポーツマスコミが「こいつを悪役にして売ろう」と決めたかららしいですね。


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小田嶋 隆(おだじま・たかし)

小田嶋 隆 1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。近著に『人はなぜ学歴にこだわるのか』(光文社知恵の森文庫)、『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社)、『9条どうでしょう』(共著、毎日新聞社)、『テレビ標本箱』(中公新書ラクレ)、『サッカーの上の雲』(駒草出版)『1984年のビーンボール』(駒草出版)などがある。ミシマ社のウェブサイトで「小田嶋隆のコラム道」も連載開始。

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