(1) 金融政策でデフレは終わり、デフレ終焉は自動的に成長率を高める
脱デフレで日経平均2万円、改革進展すれば3~4万円視野に
日本の「失われた20年」の原因は、長期円高と資産(株・不動産)価格下落が、企業に賃下げ圧力をかけ続けた事にある。その是正に照準を合わせたアベノミクスは妥当である。円安と資産価格高で企業採算が向上し、正常な賃金上昇が復活すればデフレは終わる。
デフレ終焉はそれ自体が構造政策である。20年間続いたデフレは、価格メカニズム(市場価格の変動によって最適資源配分を行う機能)を麻痺させ、潜在需要が大きな成長分野への資源配分を阻害した。ハイエクは「恐慌の原因は部門間の相対価格の歪みによる資源配分不全」としているが、日本はそれが20年近く続いたのである。つまり「金融政策だけでは成長は戻らない」、「デフレだけが日本停滞の原因ではない」、等のアベノミクス批判は間違いである。金融政策でデフレは終わり、デフレ終焉は自動的に成長率を高める。
今後の日本を二段階で考えるべきだろう。先ずアベノミクスで円高デフレ脱却、その先の改革で世界の経済大国日本復活へ、である。日本の成長分野である医療、教育、農業は既得権益の巣窟、それらを規制緩和・自由化し、競争を導入し、資源を誘導しなければならない。TPP参加を梃子とした構造改革、社会保障と労働の規制改革推進が実現できれば日本は再度世界に冠たる、高生産性経済大国になるであろう。第一段階だけでも日経平均は20,000円、第二段階が進展すれば日経平均は30,000円から40,000円への展望が開けていくだろう。
(2) デフレ=長期賃下げの原因、過剰円高と過剰株安の是正を
デフレの根源は過剰な円高、株と不動産暴落
日本だけがかかった病ともいえる「失われた20年」の特徴は長期デフレであり、その二大原因は円高と株・不動産の過剰値下がりであった。為替も資産価格も本来は循環的なもの、それが20年間、一方向に進み続けたことは日本にだけ起こった特異な現象である。長期円高と長期資産価格下落が世界中で唯一日本においてだけ20年に及ぶ賃金下落をもたらし、長期停滞を形づくった。
図表1:購買力平価と実際の円ドルレート
図表2:日本の土地+株式時価推移
円も株価・不動産価格も1990年のバブルピーク時においては行きすぎであり、是正は当然であった。1980年代末、日本の特異な産業競争力の高まりの結果、円は不当に安くなった。また戦後の土地担保金融と過剰貯蓄が自己実現的にもたらした資産バブルも、どのような理論によっても正当化できないものであった。つまり1990年代前半の円高と資産価格下落は、戦後日本経済の過剰成功がもたらした歪みの是正であり、正当な意味があった。しかしその是正が行き過ぎた。過剰な円高と過剰な資産価格下落の継続が、相乗効果となって日本企業に異常な賃金下落圧力をかけ続けた。
円高が賃金下落圧力を定着させた
世界の労働市場は一物一価、同一労働同一賃金の原則が貫徹しつつある。生産性を上げぬままに賃金を引き上げても、それはインフレ→通貨安となって逆襲される、つまり世界賃金に回帰する。同様に生産性を上げぬままに通貨高になっても、国内賃金下落を引き起こし世界賃金に収斂する。過去20年間の執拗な円高は国内賃金の下落圧力を定着させ、日本に世界唯一のデフレをもたらした。一般的な通貨変動は購買力平価と比べてプラス・マイナス30%程度の為替変動が限度なのに、円の場合は一時2倍という異常な評価が与えられた。それによって国際水準に対して日本企業のコストは2倍となり、賃金も2倍となったために、企業は雇用削減、非正規雇用へのシフト、海外移転などを進めた。この結果、労働コストは大きく低下し、かろうじて競争力を維持できたものの、日本の労働者の賃金はいわばその犠牲となり、長期にわたって低下し日本にデフレをもたらしてきたと言える。
図表3:主要国通貨の購買力平価からの乖離率
図表4:主要通貨の対円レート
「実質実効レートでみれば円高ではない」論の無意味さ
ちなみに、多くの経済学者が「実質実効為替レートで見れば歴史的円高ではない」と主張するが、それは因果関係をはき違えた議論であろう。そもそも実質実効為替レートで90年代前半ほど円高になっていないのは、円の名目為替レートがドルなどの主要通貨に対して上昇する中で、製造業を中心に単位労働コストが相対的に低下したためである。実質実効レートは事後的に均衡したにすぎない。むしろ、円高が進行したことで、日本の労働者の賃金は、他国に劣らない労働生産性の伸びが続いたにもかかわらず、大幅に下落してきたと捉えるのが正しい理解だろう。図表5は現地通貨ベースとドルベースで見た時間当たり賃金およびユニットレーバーコストの比較(製造業)だが、日本の賃金は大きく下落したのにドルベースでは大きく上昇し、日本の競争力を阻害したことが鮮明である。円高は修正するべき対象であり、容認するべき対象ではないと言える。
なお、アカデミズムで大きな影響力を持ち、2012年時点での円はことさら円高ではないと主張している吉川洋東大教授は、近著「デフレーション」(2013年1月刊、日本経済出版社)で「インフレは金融引き締めによる不況で抑制できるが、デフレは金融政策では抑制できない(何故ならゼロ金利下での超過準備引き上げに効果はないから)、つまりデフレは原因ではなく結果である」と述べたうえで、「日本のデフレの原因は1990年代に起こった大企業の雇用システム変貌、賃下げに原因がある」と主張している。確かに企業の賃下げはデフレの原因(というよりデフレそのもの)であるが、なぜ企業が賃下げを余儀なくされたかの原因究明がなされていず、隔靴掻痒の議論である。
図表5:主要国製造業時給、単位労働(ユニットレーバー)コストの比較 (2002年=100)
株・不動産価格下落もデフレの一因
資産価格の下落による負の資産効果の影響も大きかった。バブルのピーク1992年の日本の株式と不動産の合計時価総額は3100兆円(対GDP比6倍)に達したが、それが2011年には1500兆円(対GDP比3倍)へと半減した。この下落は年間平均80兆円に達し、それは名目GDPの16%に相当する。この資産価格下落は、直ちに企業と金融機関の問題資産償却コストや担保価値下落による信用収縮となり、企業の収益とアニマルスピリットを奪った。負の波及効果は金融や不動産など内需関連業種に連鎖し、企業のコスト引き下げ=賃下げ圧力を高めた。今日、企業が空前の貯蓄余剰を抱えているのも、資産価格下落に際しての財務バッファーを確保するためという面が強い。
あわせて読みたい記事
ドイツ証券グループアドバイザー。埼玉大学大学院客員教授。
話題の記事をみる - livedoor トップページ
意見
2012年06月18日 ガイドラインを変更しました。