本と映画と政治の批評
by thessalonike5
アクセス数とメール

access countベキコ
since 2004.9.1

ご意見・ご感想



最新のコメント
最新のトラックバック
一億のインスタント妖怪た..
from NY多層金魚 = Conce..
以前の記事


access countベキコ
since 2004.9.1


















六カ国協議の真実 - 米国はなぜ外交に敗北したのか
昨夜(2/13)、田中均が報ステに出演し、北朝鮮に対して臨検と金融制裁が行われるだろうという見通しを述べていた。今回の事態は新しいフェーズに入ったもので、米国のみならず日本にとって重大な脅威だから、一段レベルを引き上げた措置である臨検と金融制裁が必須で、それに中国を協力させることが必要なのだと言う。一昨日も、昨日も、テレビ報道の解説は、この国際政治の動向を客観的に整理、考察するジャーナリズムの提供ではなく、北朝鮮に対する非難と糾弾のアジテーションの散布のみに終始している。登場する論者も、武貞秀士とか、森本敏とか、田中均とか、政府で政策に関与してきた権力的高官による上からの説諭であり、辺真一のような民間のジャーナリストが顔を出す場面がなく、下から収集分析した情報と見解が紹介されるということがない。番組のスタジオが完全に国家機関と化し、国家による洗脳目的のプロパガンダで塗り潰されている。結論は一つで、日米同盟絶対論の確認と回収だ。戦時中そのものの暗黒報道。おそらく、韓国のマスコミはもう少し中身のある情報を伝え、多角的で立体的な報道を提供しているのだろう。私は、日本のマスコミの論調とは全く異なる見方をし、別の予測を持っている。北朝鮮が何を考えているのか、緊張を孕む中国と北朝鮮との間で事態がどう動くのか、この二日間の報道を見ながら、何となく見えてきたものがある。キーワードは六カ国協議だ。


落としどころは六カ国協議(六者協議)ではないか。中国は、六カ国協議に北朝鮮を復帰させることを狙っているのだ。そこへ着地させれば成功なのであり、中国が議長国である六カ国協議を開催し、各国代表と世界のプレスを北京に集め、六者で合意形成するプロセスを回せばそれでいいのである。それが中国のゴールだ。北朝鮮はそれを熟知していて、最後はそのセーフティゾーンに逃げ込める政治を知っている。どれほど国連制裁で窮地に追い詰められても、そこが最後の仕置場ではなく、中国が六カ国協議という別次元の場で救済してくれることを知っている。甦生できる。つまり、北朝鮮はいざとなったら「六カ国協議に戻る」と言えばよいのである。そうすれば、そこから中国の仕切りとなり、中国と韓国が合意し、韓国が米国を六カ国協議に引き入れる進行になる。ロシアは言わずもがな。国連(NY)では北朝鮮は孤立無援であり、周囲から袋叩きにされる身だが、六カ国協議(北京)では堂々たる主役であり、悠然と椅子にふんぞり返る立場だ。そして、国連では最も強硬に北朝鮮を叩きまくる日本は、六カ国協議では借りてきたネコのように静かに恐縮する身である。六カ国協議では対北タカ派の日本は浮いていて、全く主導権を発揮できず、中韓米が作成して北が合意した文書に署名するだけの端役でしかない。北朝鮮を体制崩壊へ追い込むような厳しい決定は六カ国協議では出ず、あくまで中国主導で解決方向が模索される。

現在、中国が北朝鮮に要求しているのは「六カ国協議への復帰」の表明である。その諾否で二国間関係に亀裂が入っていて、原則主義者の習近平はその一線をを譲らないのである。逆に、何でもカードに濫用する北朝鮮は、中国新政権との駆け引きに「六カ国協議」を使っていて、それを切り札にする思惑なのだ。瀬戸際外交の最後の土壇場でエースを切り、中国の面子を立てる戦略なのである。仮に臨検や金融制裁が国連決議で追加されるとする。すると、北朝鮮は人民軍全軍に戦争指令を出し、号令一下で韓国領内に侵攻する突撃態勢を敷く。ソウルを砲撃する国境の高射砲の射角を上げ、実弾を装填して兵員を貼り付ける。軍事境界線付近で不穏な行動を見せる。そうして、緊張がエスカレートして極限に高まり、すわ米韓軍が出動して開戦という直前に、中国が間一髪で割って入り、六カ国協議の開催を呼びかける。潘基文とロシアがエンドースし、北朝鮮と米国がホストである中国の招請に応じるという算段になる。プロセスが始まる。で、また何か合意声明のようなものに辿り着き、国際社会がホッと安堵するというシナリオで収束する。平和が保たれる。核放棄の合意ができなくても、あるいは、合意の後に北朝鮮が再びそれを反故にするいつものパターンが反復されたとしても、2013年の戦争は避けられる。要するに、同じことが繰り返されるのであり、戦争を回避する韓国と米国は、六カ国協議という緊急避難の場に即くしかない。六カ国協議は循環系の位相だ。

このように動き、仮に国連で決議採択されても、臨検や金融制裁は解除される顛末になる。六カ国協議は、目的は朝鮮半島非核化のためのスキームだが、実質的には、半島で戦争が起こらないように抑止する最終的な安全装置である。事実上、(北朝鮮問題に限っては)国連安保理の上に六カ国協議がある。国連安保理の次のステージとして機能している。イラク戦争でも、もし中東に六カ国協議のような安全弁の機構があれば、戦争を未然に防ぐことができただろう。そしてこれは、本質的には、米国が北朝鮮と国交正常化して平和条約を締結するまで、半永久的に同じ機能をする地域の安全保障システムだ。米国と北朝鮮がぶつからないようにする危機回避システムであり、開戦に直面して緊迫したときに、ミーティング・コールされてワークするプロセスである。米国は東アジアでの中国の影響力の拡大を牽制しつつ、この六カ国協議の意味と効能を知っていて、いざとなったらこの臨時スキームに頼るという外交方針を組んでいる。六カ国協議のプロセスに逃げるという一手で、米国は北朝鮮との国交正常化に追い込まれず、屈辱的な外交敗北をしなくて済むからである。北朝鮮の瀬戸際外交に押しまくられたときは、六カ国協議に避難し、中国に責任を委ねればいいのだ。そうすれば体面を維持できる。唯一の超大国であり、「自由と民主主義の価値観」の守護神である米国にとって、小国で独裁国の北朝鮮の要求に頷いて平和条約を結ぶ選択は、まさに屈服以外の何ものでもない。

昨日の記事を書いてから、私は、なぜ米国は北朝鮮との外交戦に敗北したのだろうかと考えた。外交とは、国家と国民の平和と安全を保障するためのもので、国益を最大化するためのものだ。であると定義したとき、北朝鮮との20年にわたる外交戦の結果、米国が得たものは、米本土を射程圏とする長距離核弾頭ミサイルの脅威でしかなかった。これを外交戦の敗北と言わずして何と呼ぶべきか。騙し続けた北朝鮮が悪いとか、無法者の北朝鮮を庇って守る共産中国が悪の根源とか、感情的な悪玉論はいくらでも言えるし、それは右翼の幼稚な議論でしかない。もっと深いところに理由があり、問題の正解がある。すなわち、社会科学的な問題要因があり、政策科学の概念と方法で誤りがあるように思われる。米国は北朝鮮の政治社会を理解できなかったのであり、政策設計に失敗したのである。あれだけの飢餓があり、残酷で暴虐な独裁体制があり、民衆の絶望と忍苦と怨念があり、そういう社会で、反体制勢力が内部に根を張らないはずがないし、どこかで暴動や蜂起が起きないはずがないと、米国の政府やアカデミーの人間は考えたのだろう。そう考えるのは自然だ。時間をかけ圧力をかければ、我慢できずに内部から崩れていくだろうと、そう推断したのに違いない。東アジアの諸社会に特有な、全体への同調圧力の強さという要素を捨象したか、科学的な評価を落としてしまったように思われてならない。欧米中東の社会を認識するのと同じ尺度で、北朝鮮を前提し予測してしまったのではないか。

丸山真男がどこかで、戦前の日本について、ヒトラーも羨むほどの自然な全体主義の社会的同一性ということを言っていたが、同じ本質的性格が北朝鮮の社会的現実の中に看取できる。それは、われわれ日本人なら、丸山真男を持ち出さなくても理解できる問題だ。金王朝の独裁国家は、実に戦前日本に酷似した全体主義国家であり、戦前の天皇制や軍国主義の狂気をそのままスライドした景観に見える。戦前日本は、どれほど空襲で人々が大量死しても、市民社会から戦争をやめようという声は上がらず、軍部の支配に従い、天皇の赤子として国民全員が死ぬまで戦争を続けようとした。私はこう書きながら、何を誰に言いたいかというと、米国の政策担当者に対日政策を間違うなと言いたいのだ。今、次第に日本が北朝鮮化している。全体主義のファナティックな右翼国家になっている。国の体質は容易に変わらない。北朝鮮への政策で犯したミスを、再び日本で繰り返してはいけない。この国の同調圧力は激しく、どれほど民主主義の法制度があり、言論の自由や思想の自由がタテマエ上あっても、実質的にそれは機能しなくなるのである。加藤周一が言ったように、この国は、「私はこれをする」という国ではない。「みんながやるからやる」国である。「みんながやることを私もする」国である。3人いれば、その中の1人は2人に反対意見を言う国ではない。少数派は多数派に立場を変え、全会一致で物事を決める国である。だから、戦争が始まれば、局地戦で止まることはないのだ。ズルズルとエスカレートするのである。止めようと立ち上がって制止する者がいないのだ。

個は全体に吸収され、果てしなく同調するのである。無条件降伏で終戦するまで。


by thessalonike5 | 2013-02-14 23:30 | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://critic5.exblog.jp/tb/19995964
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
名前 :
URL :
※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。
削除用パスワード 
昔のIndexに戻る 北朝鮮の核実験 - 米国の外交... >>