[18禁] 逆リョナ系SM小説サイト  ~美しき女性たちの狂気~
 血塗れになりながら幸太は謝罪し、許しを乞うた。しかし彼女にとってのそれは、自発的な彼の声、言葉、行動であること以外の意味はもたないようだった。彼女は片方の指先で彼の顎を掴み、口を抉じ開け、舌先を摘む。もう片方の手には、キラリと光るナイフがしっかりと握られていた。
 幸太は涙で顔をグシャグシャに濡らしていた。彼女は無表情のまま、彼の舌先にナイフをそっと近付け、耳元に唇を寄せる。
「……これで、うるさい音も無くなるよね。」
 恐怖心からか、幸太はさらに身体を大きく震わせた。その息遣いは酷く荒い。
「そしたら、また元通りに直るよね……」
 そう言って彼女は幸太の舌にナイフを押し当て、ギリギリとその肉を裂いていった。その時の彼の声は聞くに堪えないものだった。柔らかい肉がじわじわと切り分けられていく。血管の一つ一つがブチブチと音を立ててちぎれていく。それに伴って勢いよく噴き出してくる血液と、後から後から流れ出てくる血液。彼がいくらもがいても、叫んでも、涙を流しても、彼女は決してその手を休めようとはしなかった。
 やがてボトリという音とともに、幸太の舌先が床に転がった。その瞬間、彼の動きが止まった。ブルブルと身を震わせ、恍惚とも苦悶ともつかぬ表情を浮かべている。おそらく絶頂を迎えたのだろう。彼女もそれに応じるように幸せそうな表情を浮かべ、身体を痙攣させていた。しかし、彼女の中に何かが注がれることは決してない。「ソレ」が可能になるのは、おそらくあと何年も先のことだろうから。
 幸太はやがてピクリとも動かなくなった。彼女はそれまでの余韻を味わうかのように二、三度腰を揺らすと、ゆっくりと彼の陰茎を自分の膣内から引き抜いた。
 鶯の声が再び室内に入り込み、部屋は静寂に包まれた。
 彼女は無言のまま、切り落とした幸太の舌先をハイヒールの踵でグリグリと踏み躙る。その瞳はこの上なく冷たい輝きを帯びていた。潰れた肉片から溢れる血液が、床を染め上げていった。
 彼女は、動かなくなった幸太を見つめ、再び愛しそうにそっと抱きしめた。


 今や現代医学は急速な進歩を遂げている。
 ―― 先天的な全盲 ――
 手術によって幸太の瞳に光が差す日も、それほど遠い未来のことではないのかもしれない。
 その時、幸太は自分の見る影もない姿をどう思うのだろう。その元凶である、自分に似た顔の女性をどう思うのだろう。それが実の母親だと知った時、どう思うのだろう。
 その答えを、舌を失った幸太の口から聞くことはもうできない。
 ――尤も、幸太はもう二度と動くことはないのかもしれないが……
 妻に抱きしめられた幸太の小さな口を大量の血液が塞いでいるのを確認し、私は心の中でそう呟く。真実を知らぬままに事切れる。彼にとってはそれが一番の幸福なのかもしれない。
 幸太は確かに彼女を求めていた。その中で得た苦痛や快楽の全ては、彼自身が望んだもの。目の見えない彼にとっては彼女が世界そのものだった。彼の幸せは、彼女の中にのみ存在した。それだけが真実。
 ――もし私が止めていたら?
 自問し、すぐにそれを否定する。妻は決して私の言葉など聞きはしない。いや、もう自分に嘘をつくのはやめよう。偽善者ぶることに意味などない。私はこうやって、妻と我が子が紡ぐ関係をじっと見ていることでしか、もはや性的な興奮を覚えることはなくなっていたのだ。それだけが、私にできたこと。それこそが、私の望んでいたこと……。二人の行為を止めることなど考えられなかった。
 ――しかし、それも今日でおしまいかもしれないな……
 心の中でそう呟きながら、私はドアノブに勢いよくかけた自分の精子を無感情に見つめていた。 

 狂気に満ちた妻の笑顔と幸太の小さな身体を見届けた後、私はそっと部屋を離れた。
 少し古びた結婚指輪が、カラリと音を立てて床に転がった。



END

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コメント
この記事へのコメント

おおう! こんな 結末がまっていたのですね!
驚きです! 感性というか 想像力というか、すごいです!
すごい なんか、世界をもっていますね! だれにも 書けないですよ!

単純でなく、余韻の残る 考えさせられる内容でした!

ありがとうございますo(^-^)o

次も まっています! しかし あたしには 絶対書けない(笑)

2008/04/09(水) 22:52 | URL | あゆみ #-[ 編集]
おはようございます。
今回もまたリアルタイムで作品をご覧いただき、有難うございました。
作品のもつ世界を感じていただけて、大変嬉しく思います。
しかしながら、感性や想像力をお褒めいただくなんて滅相もないことです(汗)
いつも勿体無いほどのお言葉を。恐縮いたします。
あゆみさんのコメントには、いつもたくさんの元気をもらっています。
次作にも、どうぞよろしくお付き合いくださいませ。
2008/04/10(木) 07:16 | URL | ryonaz #mLlZp4Zg[ 編集]
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