ベスト・オブ・ワースト

〜 第6回 〜


「カリギュラ」(1979 イタリア/米国)


絶対的な権力を手にしたローマ皇帝,カリギュラ・シーザーの 傍若無人ぶりを赤裸々に描いた作品,と言えば聞こえは良いかも 知れないが,実態はストーリーや歴史的背景を無視した性と虐待 シーンのオンパレード的作品である.

作品中に登場する性描写はセクシーでも芸術的でもなく, SM,レイプ,近親相姦,同性愛,死姦など,観客にわざと不快感を 与えようとしているのではないか,と思わせるようなシーンが 全編に散りばめられているのである.

暴力描写に関してもかなり激しく,人の頭を切り落とす場面 が必要以上に登場する.性器切断シーン(切断された物体のその後 の処理については触れないでおくが)を筆頭に,虐待 シーンも多数盛り込まれているので,普通の神経をして いる人ならば,間違えなく拒絶反応を示すであろう.

さて,こんな作品ながら,キャストは思いの他豪華である. 主役には「時計じかけのオレンジ」で完璧なアレックスを 演じたマルコム・マクダウエルを迎えている.性的にひねくれており, ダースベーダーの性格全てを持っているカリギュラを驚くほど巧みに 演じており,作品の数少ない見所を作っている. さらに,往年の名優,ジョン・ギルグード(「シャイン」 「オリエント号殺人事件」),ピーター・オトゥール(「チップス先生, さようなら」「アラビアのロレンス」)や将来のカンヌ女優,ヘレン・ ミレンなども出演しているので驚いてしまう.一体,何が彼らをこの作品 に魅き付けたのであろうか.

さて,この作品は米国大手のポルノ雑誌,ペントハウスの編集長 であるボブ・グッチオーネが 1500万ドルという大金を投じた事は有名だが, 完成作にセックスシーン等を追加するなど,製作にかなり手を出した事 も周知の事実.彼の暴挙には監督のティント・ブラス,そして脚本家のゴア・ ビダル(「ベン・ハー」の作者の一人)が作品から撤退してしまった ほどである.

今まで述べてきたことに加え,上映時間が無駄に長く, エンディングもお粗末である.「カリギュラ」は間違えなく 映画史上最低の作品の一つであり, もしも何かの間違えでこの作品を観て,面白いと感じた人は, 今後このコラムを読まないことをお勧めする.

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