〜 第6回 〜
作品中に登場する性描写はセクシーでも芸術的でもなく, SM,レイプ,近親相姦,同性愛,死姦など,観客にわざと不快感を 与えようとしているのではないか,と思わせるようなシーンが 全編に散りばめられているのである.
暴力描写に関してもかなり激しく,人の頭を切り落とす場面 が必要以上に登場する.性器切断シーン(切断された物体のその後 の処理については触れないでおくが)を筆頭に,虐待 シーンも多数盛り込まれているので,普通の神経をして いる人ならば,間違えなく拒絶反応を示すであろう.
さて,こんな作品ながら,キャストは思いの他豪華である. 主役には「時計じかけのオレンジ」で完璧なアレックスを 演じたマルコム・マクダウエルを迎えている.性的にひねくれており, ダースベーダーの性格全てを持っているカリギュラを驚くほど巧みに 演じており,作品の数少ない見所を作っている. さらに,往年の名優,ジョン・ギルグード(「シャイン」 「オリエント号殺人事件」),ピーター・オトゥール(「チップス先生, さようなら」「アラビアのロレンス」)や将来のカンヌ女優,ヘレン・ ミレンなども出演しているので驚いてしまう.一体,何が彼らをこの作品 に魅き付けたのであろうか.
さて,この作品は米国大手のポルノ雑誌,ペントハウスの編集長 であるボブ・グッチオーネが 1500万ドルという大金を投じた事は有名だが, 完成作にセックスシーン等を追加するなど,製作にかなり手を出した事 も周知の事実.彼の暴挙には監督のティント・ブラス,そして脚本家のゴア・ ビダル(「ベン・ハー」の作者の一人)が作品から撤退してしまった ほどである.
今まで述べてきたことに加え,上映時間が無駄に長く, エンディングもお粗末である.「カリギュラ」は間違えなく 映画史上最低の作品の一つであり, もしも何かの間違えでこの作品を観て,面白いと感じた人は, 今後このコラムを読まないことをお勧めする.