本誌独占インタビューノーベル経済学者は指摘するポール・クルーグマン「1ドル100円超え、アベよ、これでいいのだ」

2013年02月14日(木) 週刊現代

週刊現代経済の死角

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世界の常識を覆す

 日本は過去20年にわたりすでに多額の公共投資を行ってきたが、日本経済が前進する兆しが見えると、すぐに急ブレーキをかけてきた。財務大臣が出てきて、「借金の懸念がある」と言って財政出動を抑えてしまうのだ。

 日本銀行も金融緩和—つまり紙幣を多く刷ること—によってデフレ退治をすべく立ち向かおうとしたが、ここでも同じく、少しでも経済が回復し始めると、緩和の手を緩める方向に舵を切った。紙幣をばら撒きすぎると、急激なインフレの恐れが出てくると言ってきたのだ。

 さらに、財政刺激策をやる際には金融面でのサポートがなく、金融緩和をやる際には財政面でのサポートがない。日本の政策当局はいつもそんなことを繰り返し、自らの手で、経済が持続的に改善するという望みを潰してきた。結果、長くデフレから脱却することができず、国民は苦しみ続けてきたのだ。そしてこれは、欧米を含めた世界の先進国にも同じことがいえる。

 しかし、昨年末に再登板した安倍首相は、こうしたいままでの世界の政策当局がやってきたのとはまったく違う政策を唱えている。なんとしても経済の長期低迷を終わらせるという決意をもって、金融・財政両面で大胆な政策を打ち出しているのだ。

 私はこのアベノミクスを評価している。これこそが日本がデフレから脱却するために必要な処方箋となりうると思っているからだ。そしてこれが成功を収めれば、日本が先進国の中で先んじて、経済低迷から脱する方法を示すことになるだろう。もちろんそれは、世界の経済政策担当者が過去20年間信じてきた原則が間違っていたことが証明される時の訪れも意味するのだ。

 アベノミクスの恩恵はすでに日本経済にもたらされている。いままでデフレが続くと予想していたマーケットが考え方を変え、インフレを期待する方向へと転換を始めているからだ。

 つまり、いま日本では名目金利が大きく動かない中で、インフレ期待が高まっている。それは実質金利が下がることを意味し、実質金利低下の噦副産物器としてすでに日本で起きているのが「円安・株高」である。これが日本経済にとって非常に多くの恩恵を与えている。

 たとえば日本の製造業。多くの日本企業はいまだに国内にhub(拠点)を置き、製品を輸出する態勢を取っているので、円が安くなればそれが輸出増を牽引することになる。

 かつて日本が圧倒的な地位を誇っていたモノづくりの技術力に対して、アジア諸国などがキャッチアップしているのは確かだろうが—ちなみに私は、サムスンの携帯電話を使っている—日本企業がかつて持っていた多くの噦技術的創造性器は、円高などの悪いマクロ経済要因によって妨害されてきた面が否めない。アベノミクスによる円安で日本の製造業が強さを取り戻すきっかけをつかめるようになるだろう。

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