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介護施設の惨事を繰り返すな

2013/2/14付
ニュースソース
日本経済新聞 朝刊

 認知症の高齢者が暮らす長崎市のグループホームで火災が発生し、4人の命が奪われた。痛ましいとしか言いようがない事故だ。

 これまでも7年前に長崎県大村市で、3年前には札幌市で、いずれも7人が犠牲になったグループホーム火災が起きている。

 高齢者施設の防火体制は火災のたびに議論され、大量の散水で消火するスプリンクラーの設置基準が強化されてきた。にもかかわらず、教訓がなぜ生かされないのか。これらの施設に共通しているのは、夜勤の職員が1人しかおらず、スプリンクラーが設置されていなかった点だ。

 国の基準では、入居者9人までは夜勤の職員は1人でも認められているが、消火と高齢者の避難を1人だけでやるのは不可能だ。介助が必要な高齢者は自力で素早く避難できない。認知症を患っているなら、なおさらだ。

 だが、介護の現場は慢性的な人手不足だ。職員の配置基準が厳しくなると、人員確保ができず、施設の整備も遅れる。人手不足を補う意味でも、早期に消火するスプリンクラーの役割は大きい。

 今回の施設は建築基準法が求める防火扉などの不備があったとされ、その経営責任を問うのは当然だ。しかし延べ床面積は約270平方メートルとスプリンクラーの設置義務のある275平方メートルを下回るため、設置していなくてもいい。

 厚生労働省はスプリンクラー設置の補助金の対象を設置義務のない小規模な施設にも広げたが、約2千の小規模施設は設置していない。面積にかかわらずスプリンクラーの設置を義務付けるなら、補助金の利用促進や融資制度の充実などで設置を進めるべきだ。

 認知症の高齢者は2025年には、現在の300万人から470万人に達する見通しだ。グループホームだけでなく、介護付き有料老人ホームや特別養護老人ホームなどの需要はさらに拡大する。質の高いサービスを提供する施設の建設に税制優遇策を講じることなども施設整備の促進につながる。


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