Silver Moon R.A.N.Software

1999年2月11日発売
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 このゲームが発売された直後、NIFTY SERVEで「98ベストキャラ投票」などという企画に手を染めたおかげで、人よりも1か月以上遅れてのプレイとなりました。おおむね好評だったようなので、どんな内容なのかな、わくわく、と、久しぶりに、期待しながらのプレイでありました。

シナリオ

 天才を養成する機関、GEOを修了した主人公・日吉亮(変更不可)は、ごく普通の生活を望み、約束されたエリートコースを放棄して一般の高校に入学する。そして、高2の半ばとなったとき、体調に異変が起こるようになった。また、謎の女性が現れ、彼の余命はいくばくもないと告げる。

 残された日々を、彼はどのように過ごすのか。そして、彼を取り巻く少女たちは、どのように生きていくのか。

 

 展開としては、学園生活を基本とし、そこで送る平凡な、しかし何物にも代え難い「日常」を満喫しながら、迫りきたる日を迎えていく、という形になっています。日常生活の描写はなかなか楽しく、交わされている会話も、テキストと演出とがみごとなタッグを組み、非常におもしろいものになっています。その一方で、クライマックスへと緊張を高めていく。まさに、『ONE』(Tactics)と同一の手法を取っています。否、模倣と言っても良いでしょう。しかし、単なる「パクリ」に堕することなく、このゲームならではのオリジナリティを出しているのは、主人公、そしてヒロインという「キャラクターの魅力」でしょう。

 天才(「天才肌」ではない)である主人公はストイックで取っつきにくいという設定。この時点で、プレイヤーは主人公へと感情移入するのがなかなかに難しくなっています。しかるに、彼の行動や会話パターンは、天下り的で単純的な「天才」に留まらず、生き生きと「一人の人間」として描かれています。このため、主人公と同一化するのは無理であっても、そのキャラクターを楽しむことが十分にできます。さらに、サブキャラも含め、各登場人物たちもまた、それぞれ生き生きとした顔を見せてくれるので、少なくとも会話をしているシーンにおいては、何度プレイしても飽きることがありません。

 さらに、ヒロインたちが、大なり小なり悩みを持っており、主人公を媒介としてブレイクスルーを果たしている、という点も指摘できましょう。『ONE』的力技を用いているため、恋愛ものとしては受け止めがたいのが実のところですが、ヒロイン設定がしっかりできているため、ゲームそのもののイロモノ化がある程度緩和されています。シナリオ作成に際してどの程度意図してヒロイン設定がなされたかはわかりませんが、「主人公にとってヒロインとは何か」、あるいはその逆が、実に憎いほどたんねんに描写されています。

 

 ただ、『ONE』のように、シナリオそれ自体が発するメッセージそのものは、さほど強いものではありません。「死」という設定から感動、という手法は非常に類似していますが、主人公の背負う宿命に関して、それがフォローの効かない形で完結しているので、この「設定」そのものが、後に残らないのです。したがってこのゲームシナリオは、あくまでも「設定」が後衛に回ったものであり、前面に出ているのがヒロインとの一対一の恋愛譚である、そう考える方が妥当と判断できます。

 

 ストーリーの長さ自体は非常に的確で、イベントの発生タイミングなどもよく考えられています。張られた伏線はきちんとケリがつけられているなど、展開も顛末も明確なものなので、不可解な謎に強い違和感を覚える方でも、まず心配はないでしょう。設定上、ファンタジックな力技はありますが、特に気にはなりません。エンディングの御都合主義的色彩は否定できませんが、上記のごとく「恋愛」第一と考える方がよさそうですし、これはこれで良いと判断できます。

 

 問題は、そのシナリオを描いているテキストが、どうにも稚拙であること。シナリオの水準は、テキスト描写を上回る水準で評価できるものですが、それ以前に「読む気が起こらない」という状態になりかねません。

 一例を挙げれば、主人公は生徒会長の外見に関して、少し堅いイメージの眼鏡をかけているが、体型的にはモデルのような比較的整った顔立ちと、長身でスラリとした身長が特徴的な女性だと綴っています。一読しただけで実に読みにくい文ですが、それだけでなく、日本語として無茶苦茶です。「いるが」とある以上、それは対比または逆接を意味しているはずなのに単純接続になっている点。「体型的」といいながらその叙述は「長身でスラリとした」の部分しかない(「顔立ち」は「体型」には入りませんよね)点。「モデルのような(=最上級表現)」「比較的(=中庸表現)」と、矛盾した修飾語が重なっている点。「身長」は高さの尺度であるのに、「スラリとした」という縦横のバランスを示す表現を修飾語としている点。

 ほかにも、似たような「非−日本語」的文章を見掛けます。もう少し精進してほしいものです。

ゲームデザイン

 いくつかのイベントを経由することがフラグとなり、各ヒロインごとのシナリオへと分岐していくタイプのアドベンチャーゲームです。

 難易度はそれほど高くはありませんが、おまけモードでヒロインごとのヒントがもらえます。

 各ヒロインごとのシナリオは、それぞれ独立したものとなっていますが、その相違はいずれも「ヒロイン側の相違」であり、主人公サイドでの相違はありません。要するに、主人公の独自行動、あるいはモノローグなどの部分は、どのシナリオにおいても完全に共通のものとなっています。このため、2回目以降のプレイでは、会話部分以外でかなり退屈を覚えたのが実情でした。例えば、GEOへの潜入などの部分に関しては、やよいとそれ以外のキャラとで少しシナリオを変える、といった工夫がほしかったと感じます。

不具合・修正プログラム

 見たはずのCGが、グラフィックモードに一部登録されない、という不具合がありました。修正ファイルが、R.A.N.SoftwareのWebサイトからダウンロードできます。

操作性など

 動作対象OSはWindows95/98です。WindowsXPでも一応動作はしますが、フォント表示などが非常に不安定なので、避けるほうがよいでしょう。

 エンディングロールには、「メインプログラム (株)アクティブ」と出てきますが、その通り、『くすり指』シリーズでおなじみのアクティブと同様のユーザーインタフェースです。基本的には、『GONE』とほとんど同じといってよいでしょう。

 インストールの際には、最小・標準の2通りが選べます。標準インストールをすれば、CD-ROMなしでゲームを起動することが可能となりますが、音声なしでもかなりのHDD空き容量が必要となります。

 キーボード・マウス・ジョイパッドを使用できます。また、基本的な操作は、キーボードだけでも大半が済むようになっています。これは、私のようにキーボードプレイをする人間にはありがたいところです。

 画面は、640×480とフルスクリーンから切り替え可能です。立ちCGとは異なったキャラが話している場合は、そのキャラの顔CGが出ます。メッセージ速度表示の調整はなく、すべてノーウェイト表示。メッセージウィンドウの下側にあるボタンをクリックすることで、それぞれ、メッセージウィンドウ消去・システムメニュー呼び出し・メッセージ読み返し・メッセージスキップが可能です。また、いつでもヘルプを見ることができます。

 セーブ&ロードは、任意の位置で10個所まで可能です。また、選択肢を選んだ直後の時点でオートセーブが行われます(が、使ったことはほとんどありません)。セーブを「F2」キー、ロードを「F3」キー一発で可能というのも嬉しいところ。また、オープニング画面に戻ることもできます。

 メッセージ速度調整はありませんが、メッセージの自動再生機能があるため、テキスト表示をノーアクションで読み進めることが可能です。個人的には、スピードがかなり遅いので、使う気にはなれませんでしたが。メッセージスキップもありますが、既読・未読の判別はありません。

 CGモードは当然のように装備され、各ヒロインごとに、一枚絵CGがサムネイル形式で表示されます。残念なことに、立ちCGは表示されません。ころころ変わる表情が、実に楽しいのですが……。回想モードがないのは残念。

 あと、BGMモードもあり、各曲ごとに簡単な解説があります。

 さらに、ゲーム操作そのものとは直接関係ありませんが、ゲームをクリアすると、各ヒロインの設定などのちょっとした話を見ることができるようになります。

サウンド

 BGMは、『くすり指の教科書2』なども担当されている、アーティスティックコンセプツの担当。ピアノ曲が、実にしっとりとしていい感じを出しています。ゲーム全体が、音楽に包み込まれながら流れていくようなところもあるのですが、その雰囲気を、実にうまく演出しています。特に、やよいや真琴のテーマは、個人的に大いに気に入ってしまいました(^^) MIDI・PCM(DirectSound)のいずれかを選択することが可能ですが、PCMで演奏される曲は、MIDIのそれと比較した場合、クオリティが段違いに低いので、極力MIDIでBGM再生をする方が良いでしょう。私は、CD-ROM内のMIDIファイルをすべてHDにコピーし、しばしばBGMとして流しています(^^)

 オープニング・エンディングのボーカル曲は、CD-DAで演奏されます。これも非常にいい曲です(^^)

グラフィック

 目線が低く、やや幼い印象を受けますが、こういったキャラデザも好きなので良し。『ONE』の絵が気に入らない、という方は、やめた方がいいかな?

 塗りは、非常にていねいに仕上げられていますが、背景がイマイチという印象。

 それにしても、人物の表情が、実にいきいきとしています。ころころ変わる表情は、どのキャラクターをとってみても、非常に楽しいですね。忍など、どアップそれ自体がすばらしい演出になり、表情と胸元のボタンとが連動していたりと、細かい演出が実に利いています。また、真琴は、夕焼けをバックとしたシーンを筆頭に、背景で光線を用いているため、キャラの輝かしさを増しています。この点、やよいなどは、少しく演出的に損をしているという印象が否めません。

お気に入り

 メインヒロインである、真上やよいですね。大きめの制服の裾から手が半分のぞいている、という、2年生にはあまりにも不自然なキャラデザが気になりますけれど、関係なし。非常に素直にとけ込めました。NIFTYの会議室で、「幼なじみであることが、必要不可欠な設定となっている」点がいきているのではないか、と指摘されたことがありますが、まったく同感です。主人公にとって「必要なヒロイン」であることが、何の無理もなく出せています。

 この他、真琴や忍といった他のヒロインはもちろん、サブキャラも捨てがたいものがあります。寺谷みずほなど、主人公と対等に話しているのがなかなか微笑ましく、脇役に徹しながらもいぶし銀のような味を出しています。巴よりも、みずほを膨らませた方がおもしろかったのではないか、という気もするのですが。

総評

 シナリオ自体の「ひねり」は、非常に淡泊なものです。特に、シナリオの軸となる設定など、プレイを終えてしばらくたってから考えてみると、平凡以外の何ものでもないといっていいでしょう。

 展開の巧みさについては、まさに一級品です。しかしながら、情感に訴えて引っ張っていくタイプのシナリオであることも絡んでくるのでしょうか、相応の時間をおいてからリプレイしてみると、ファーストプレイ時に受けた、衝撃的ともいえる感激が、かなり色褪せてしまったのが実情です。結局、各イベントを憎く使いこなしていた結果であり、一歩下がってシナリオを眺めるというスタンスになると、とたんに冷めてしまうというのが、このゲームの弱点といえましょうか。NIFTYの某所(FCGAMEX以外の場所です)でも書いたのですが、官能的情動という「長続きしない」要素に支えられているわけで、しばらくしたら飽きがきてしまうのは避けられないでしょう。

 次回以降では、演出効果やテンポのよさ、イベントの並べ方などの優れた点を踏襲した上で、各キャラクターのシナリオにおける存在感の確認(全キャラがやよいなみの存在感になれればベスト)、そして、マクロ的に見た場合にイベントの位置づけがどうなるかを再確認してほしいところです。現状では、キャラゲーとしての評価に留まらざるを得ません。『ONE』を消化した上での模倣に、ある程度成功しているという時点で、高い潜在力を感じますから、次なるブレイクスルーに期待したいところです。

個人評価 ★★★★★ ★★★☆☆
1999年8月22日
(11月11日、大幅に加筆・修正)
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