ロストメモリーズ ヌーヴェル

1998年12月11日発売
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 記憶。それは、経験の累積が、その人によって「再現可能な状態で留められていること」。それは、その人がどのような人物なのか、ということだけでなく、その人自身が、自分をどのような存在なのかを認めるために、不可欠な要素です。当然のコトながら、ここに異常をきたしているという場合、そこにドラマを演出することは難しいことではない「はず」ですし、バラエティにもいろいろと期待可能な「はず」なのですが…。

シナリオ

 主人公・桐生尚人(変更不可)は、一人暮らしの予備校生。ある雨の日、ビルの谷間で、無表情にうずくまっている女の子と出会う。とりあえず彼女を自分の家に連れ帰った主人公。彼女は記憶喪失なのだが、「アリサ」という名前に反応したことから、彼女の名前は「アリサ」なのであろうと判断される。主人公は、亜里紗との同棲生活に入ることとなるが、彼女の記憶を取り戻すために日々奔走することとなる。彼女の記憶に隠された秘密とは、そして真実はどこにあるのか。

 

 シナリオによってかなり内容面での相違がありますが、要するに「彼女の正体は何か」ということ、あるいは「その後、主人公は誰とハッピーになったか」ということは確かに書かれています。しかし、「記憶を失っている人間」の心理状況、あるいは、記憶を回復したうえでの混乱、そういった記述はすっぽりと抜け落ちています。特に、「自分」への認識に関する描写は非常に少なく、「記憶喪失」という設定をあえて行っている意味はほとんど感じられません。

 では、ヒロインから離れて、「真実」を詰める、というサスペンスとして解釈しても、これもおもしろくない。緊迫感というものがまったくうかがえないのです。「判明」すると、いかにもな記述が「説明」してくれるだけ、という印象です。

 しかも、テキストの描写も断片的としかいいようがなく、特に主人公の心理描写など、わけがわからないままプレイヤーが引きずられていく、そんな感じです。

ゲームデザイン

 マルチエンド式のストーリーなのですが、メインヒロインが1人で、ほかにも数人の攻略可能キャラがいるという格好です。

 基本的なゲームシステムは「移動式」です。マップ移動式ではなく、カーソルを文字に合わせてクリックするというタイプで、まだ移動に応じて時間が経過するので、要領よく移動しないと、時間切れ・ゲームオーバーになります。また外出に際しては、亜里紗と一緒に行くか、1人で行くかを選ぶことができます。

 しかしねぇ、この「移動」システム、かなりかったるいものがありまして…移動先がそんなに多いわけじゃない(8個所ほど)んだから、マップ移動方式にしてくれた方が楽なんですが。おまけに、異常に低いイベント遭遇率。ちょっと判断を誤れば、すぐに「どこへいっても誰もいない状態」に陥ります。

 それだけでなく、ゲームのテンポ自体もかなりダレを感じます。攻略データがあってもコンプリートする気になれなかったゲームというのは少ないのですが、これはその稀少な一例でした。

操作性など

 表示は、中央にグラフィックが表示され、下部にテキストが表示されます。日付やパラメータなどのサブウィンドウも表示されます。右クリックで、テキストウィンドウを消去可能ですが、それ以外のサブウィンドウは消すことができません。困ったもんです。

 セーブ&ロードは、移動の選択肢が出た場所でのみ、5個所まで可能です。メッセージの量そのものが少ないこともあって、速度調整の機能はなし。ただ、画面切り替えからメッセージ表示まで、妙に時間がかかります。CGモードは、「イベントシーン」「Hシーン」「エンディング」の3つに分かれます。なお、このCGモードは、CGを見た後、セーブしたりゲームをクリアしたりしただけでは表示されず、1回ゲームを終了して再起動する必要があります。

サウンド

 CD-DAでBGMが演奏されますが、全然印象にありません。BGMモードがないことから、あまり力が入っていないのもよくわかります。

グラフィック

 人物原画については、緊迫した感じの表情は悪くありません。しかし、登場する大半のシーンである立ちCGでは、ことごとく、目が死んでいます。確かに、メインヒロインが記憶を失った状態で脳天気にケラケラ笑っていては困るのですが、能面というのも非常に嫌なものがあります。

 背景は、写真を取り込んでいます。場所は、ほかのゲームでもよく出てくる、新宿東口。

 Hシーンは……ところどころ、まさしく「唐突」に訪れますが、あんまりそそりません(^^;) 私がクリアしたシナリオでは、メインヒロインとのCGはわずか2枚で、それも、「抱いて」→「いいんだね、いくよ」→合体、という、まぁ安直ねぇという状況でした。こっち方面に濃いのを求める方は、間違いなく失望なさると思います。

お気に入り

 なし。

総評

 シナリオ重視のゲームを作ってみたかったのでしょうが、とにかく「記憶喪失」という設定が全然いかされていないうえ、サスペンスとしても非常に不満が残ります。おまけに、ゲームそのものが高難易度(イベントが起きない…)および単調、さらにいちいち神経に障るようなのんびりとした画面切り替えなどが相まって、ゲーム意欲を継続させるのはなかなか大変でしょう。シナリオがウリのゲームだったと思うのですが、肝心の「シナリオ」ができていません。

 忍耐力に自信のある方以外には、とうていお勧めできません。バグらしきものは一応ないみたいなので、それが救いでしょうか(^^;)

個人評価 ★★☆☆☆ ☆☆☆☆☆
1999年9月5日
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