Xゲームにもある程度慣れてくると、タイトルのセンスの良さだけで買ってしまったりするケースが少なくないものです。この『はるあきふゆにないじかん』は、まさに個人的にツボぴったりのネーミングセンスだったため、迷わず購入リストに入れていました。さらに、記憶、過去、運命、別れ、奇跡、いまむかし、邂逅、成長……こういったキーワードに魅せられたこともあって、かなり図柄に癖があるというのはあらかじめ承知の上、細かいことは気にしない、と考えたのですが…。
Xゲームにもある程度慣れてくると、タイトルのセンスの良さだけで買ってしまったりするケースが少なくないものです。この『はるあきふゆにないじかん』は、まさに個人的にツボぴったりのネーミングセンスだったため、迷わず購入リストに入れていました。さらに、記憶、過去、運命、別れ、奇跡、いまむかし、邂逅、成長……こういったキーワードに魅せられたこともあって、かなり図柄に癖があるというのはあらかじめ承知の上、細かいことは気にしない、と考えたのですが…。
主人公・タケシ(固定)は、現実の世界と、「非−現実」の世界を行き来し、その双方における体験をする。「非−現実」の世界とは、主人公が、その恋人を失った過去の時空だが、この世界における主人公の行動は、現実の「現在」にも影響を与える…。
まず、個人的に惹かれるところの多かったタイトルについて。ひらがな表記をとったのは、「こども」のころを舞台としている、というのは、当然のことですね。しかしながら、パッケージに出てくる女の子たちは、いずれも、学生鞄を持っていますから、おそらくは高校生と推測できます(実際、そうですが)。ここで、「高校生の主人公が、「こども」時代のなにかを回想する、あるいは、「こども」に回帰する」というシナリオを想像させます。これはその通りなので、くだくだしくいうほどのことでもないでしょう。
続いて、「季節」でなく「じかん」という表記をした点ですが、これは、「いま」と「むかし」とを明確に分けるという意味を持たせているのでしょう。極端な話、季節なる舞台が「夏」である必然性があったわけではなく、「秋」であっても大差なかったでしょう。もちろん、秋には休みなどありませんから、シナリオ的に無理だぁ、といったツッコミは却下(^^;) ここで「はるあきふゆにないきせつ」だったら、どうしたって「夏物語ぃ!」というニュアンスになって、どうもうまくありません。ここで「じかん」いうコトバを使ったセンスの良さは、なかなかのものだと思います。
これを踏まえた上で、シナリオそれ自体については、「過去」における主人公のトラウマを克服できるか、そして、「現在」をどう作っていくか。これがゲームのストーリーとみてよいでしょう。あえて、詳細に立ち入るのは、ここでは控えます。
実際にプレイして感じた第一印象は、「わけわからん」、この一言に尽きます。
これは、ゲーム中で展開されているイベントなどの内容がすぐに切り替わり、それぞれ相互の関係がよく見えないことが、その理由の第一に挙げられます。ゲームのベースとなっている世界それ自体がよくわからないうえ、頻繁に状況が変わり、また(選択にもよりますが)登場人物が入れ替わり、それらが「ぶつ切りの情報」として垂れ流されていくため、状況を把握できません。すなわち、複数並列で行われている世界(この「複数」の組み合わせ自体も複数あります)が、それぞれのコントラストを不明瞭にしているので、相当注意して読んでいかないと、その相違を把握することは、まずできなくなっているのです。
また、実際には存在しているはずの時間という概念がまったく表面に出ておらず、ゲーム内での「流れ」を掴めないスタイルを取っていた点も致命的でしょう。
設定の狙い自体は悪くないと思います。しかし、その設定を埋め込むことも、そして表現することもできていません。ひとえに、シナリオライター氏の力不足でしょう。
そしてまた、テキスト自体の水準も、あまり高いものとはいえません。ビジュアルノベルという体裁を取っていながら、画面に表示される個々の語彙に、それが使われる必然性が乏しいと思わせるシーンが幾たびもありました。さらに、キャラクターのアクションに関する描写も、どうにもパッとしません。
ただ、一部でのHシーンにおける描写などは、自分が肉欲のままに相手を犯しているような、砂のごとき乾ききった文字の洪水を起こしており、なかなかの演出と感じました。ちょうど、『雫』(Leaf)で、月島拓也が壊れかかったときの独白のような感じです。
画面全体にテキストが表示されるビジュアルノベルで、行き先を決定してキャラクターと会い(あるいはキャラクターを発見し)、その時の選択肢によってフラグ立てがなされ、シナリオが進むというタイプのアドベンチャーゲームです。
ゲームバランス自体はさほど悪くはないはずなのですが、もともと世界観がゲームプレイ中ではまったく見当もつかない(否、全シナリオをオールコンプリートしないとわからないでしょう)のに、用意されている選択肢が、この点をまったく考慮していないのは致命的でしょう。行動パターンとして「洋館に行く」「商店街に行く」「住宅街に行く」「自宅に行く」といったものが出るのですが、これらのパターンごとの傾向はいくたびかプレイしていればわかるものの、そこに「行く」ことの必然性がわかりません。当然ながら、その場で発生するイベントの「意味」を把握することができず、しばらくして急転直下の自体変貌に際しては、目を白黒させるのみとなります。シナリオの力不足もさることながら、この無神経そのものというべき選択肢が、このゲームに対する違和感をさらに増幅させていると感じます。
エンディングフラグに異常がある、BGM再生が正常に行われない、といった不具合があります。トラヴュランスのWebサイトから、修正ファイルをダウンロードできます。
インストールの際、ディレクトリは任意に変更可能ですが、インストールオプションの選択などは特にないので、HDがギチギチの方は諦めましょう。また、全般的に処理がかなり重いので、ある程度のスペックのPCでないと苦しいと思います。
入力デバイスはマウスのみで、キーボードは受け付けません。プレイ時間が長くないからさほど気にならないとはいえ、そんなに複雑な操作をするわけじゃないんだから、キーボード操作も可能にしてほしいところです。
画面表示は、ビジュアルグラフィックの上にテキストが表示される、ビジュアルノベル方式です。テキスト表示は、一画面で最大11行。テキスト表示のフォントは、任意のTrueTypeFontに変更可能です。
セーブ&ロードは、任意の場所で27個所までセーブ可能です。セーブすると、プレイ時の実日時と、セーブしたゲーム内での場所が記録されます。
メッセージ速度は5段階で設定できます。既読文のメッセージスキップも可能です。自動メッセージ送りも装備されています。このあたりの細かい設定が可能になっているのは、ビジュアルノベルスタイルのゲームとして、非常に進んでいるように思います。特に、メッセージ自動表示というゲームはさほど多くないうえ、あってもストレスが溜まるほどの〜んびりとテキストが流れていくのが難ありですが、これは、それほど遅くはなく、実用的です。
1回なんらかのエンディングに到達すると、各キャラクターごとに分かれたCGモードに入ることができます。CGはサムネイル形式で表示され、達成率も出ます。CG達成率は、ゲーム中、いつでも右クリックメニューから確認可能です。また、これとは別に、エンディングだけの回想モード(エンディング確認モード)もあります。また、BGMモードでは、5人のちびキャラたちが、白い制服を着て唱ってくれます(^^) かわいいのですが、ほかのタスクに切り替えると、ゲームアプリケーションが止まるので、何らかの作業中にBGMとして使うことができないのが残念なかぎり。
BGMは、CD-DAで演奏されます。ほのぼのした感じの曲が多いですが、日常パートでの曲では、もう少し練り込みがほしいと感じました。最初に聴いたときは特に不満は感じなかったのですが。
音声はありません。
まずキャラデザ。かなり子供っぽく見える感じの絵柄ですね。卵に目鼻を描いたような印象を最初に受けましたが、この「非−現実」の世界を動くにあたっては、主人公が子供だったとき、ということが絡んでくるため、なかなかいい味を出してはいます。ただ、クセが非常に強く、違和感はかなりのものがありますね。
それ以外の部分については、まずまずといったところでしょうか。
特にありません。というよりも、キャラクターに対して思い入れが出なかったので(^^;)
ADVとして「こういうものを作ろう」という意気込みは伝わってきますが、揃えた材料を前に途方に暮れているさまが目に浮かぶようです。巷では地雷呼ばわりされることが多かったのは、おそらく秀逸なタイトルと派手な広告戦略の反動でしょうが、「見るべきものは持っている」程度の評価には値すると思います。
難解なシナリオ、複雑なシナリオで攻めるのであれば、プレイヤーを「引きつけて逃さない」工夫をするのが当然なのに、ここが絶対的に欠落しています。『ONE』(Tactics)のように「考えてやろう」という気にさせる味付けがなく、「ほい考えろ」というのは、作成者の傲慢な姿勢と言われても仕方がないでしょう。
返す返すも、シナリオ・システムの両面において、テーマを料理しきれなかったのが敗因。志の高さに期待しつつ、一層の精進を望みたいところです。