とらいあんぐるハート ivory/jANIS

1998年12月18日発売
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 ノーマークだったゲームが、突然脚光を浴びるというケースが稀にあります。そういった事例の1つが『とらいあんぐるハート』。NIFTY SERVE上では、かなりの好評を博し、感覚的以上の理由で批判的な声がほとんどきかれなかった(バグがらみを除く(^^;)ゲームですので、かなり期待をしながらのプレイとなりました。

シナリオ

 主人公・相川真一郎(変更不可)は、風芽丘高校に通う2年生。冬休みを間近に控えた12月、自分が落ちていった本気の恋。それはいったいどのようなものなのか…。

 

 学園ラブコメといっていいのかどうか。学校を舞台に、主人公が、彼の周りの女の子と恋に落ちていく、というお話なんですが、「くっついてHしてはっぴーはっぴー」というわけではありません。むしろ、それからが、けっこう長いんですね。

 

 登場するキャラクターは、かなりトンデモな方々で、周囲に実在するようなパターンはほとんどいません(^^;) 意外性を用いてシナリオの起伏を膨らませよう、という意図はわかりますが、ここまでやらなくてもよいのでは、という気になりました。

 このキャラクター配置は、どのような意図で考えられたのかどうもピンとこないものがあります。それは、ヒロイン相互が知り合いという関係になってはいても、あくまでも「単純な友人」にしかない、ということ。いや、ヒロイン同士がちょっと特殊な関係になるケースは置いといて(^^;)、「とらいあんぐる」というタイトルから類推可能な、複雑な人間関係が展開されることはほとんどありません。ラブラブ一直線ストレートです。

 

 このゲームの主人公は、いろいろな「面」を見せています。相手と真剣にぶつかり合いながらも付き合っていくシナリオあり、相手の動きに(合わせていく、のではなく流されるように)呼応して付き合っていくシナリオあり。あくまでも、一つの駒というキャラクターに徹しているように見えます。

 これは、全体の統一性を欠くという面と、多様さを見せるという面との両面を持つわけですが、この評価それ自体は避けます。しかし、この「動く」主人公の問題は、むしろ、その行動や判断の基準にあるように感じます。

 何よりも、その個々の行動や言動、判断を見るにつけ、かなり独善的で強引な印象を受けました。これが「ヒロインを引っ張っていく」という形でプラスに働けばいいのですが(実際、そう働いているシナリオもありますが)、必ずしもそうなるとは限らず、どちらかといえば多分に幼児性を強く引きずっている点が気にかかります。感情移入しやすくするために徹底的にニュートラルにするという手法がやけに目立つ昨今、恋愛ゲームでこういった主人公を持ち出しているのは一つの方法ではありますが、キャラクターを描くことには成功しているものの、敷居を高くしているのも一面であります。

 

 観念的に「(高校生の)恋愛」というものを想起した場合、適用可能となる記号をできるかぎり多用し、それらを埋め込んでいる、というのが、このゲームを見ると(かなり意図的に感じるほど)明白です。上記のような「内面」の描写も、あくまでもこの路線を忠実にトレースしているため、不快感を感じることはないながらも意外感も覚えることはありませんでした。ほかに類例を見ないのに、特に印象に残ったわけでもない。そんな感じです。

 逆にいえば、「恋愛」観というものをオーソドックスに表現しているため、キャラクター描写(演出などの効果も含めて)に関して嗜好にあった方であれば、かなりヒットするのは間違いないでしょう。

 

 テキストベースで見た場合、描写に「擬態語の多用」「セリフ的な表現」が何よりも目につきます。走るときには「たったっ」歩くときには「てぺてぺ」。さらに「襲撃ー」。こういった表現は、確かにキャラクターの行動を「そういうものだ」と理解させる一助になってはいるでしょう。しかし、流れるテキストの合間に、この種の表現が入り込むと、文章として(あるいは、文語として)見苦しいことこの上ありません。このゲームのプレイを繰り返すごとに言いしれぬ不快感を抱いたのですが、どうやらその根底にはこの表現があったようです。

 さらに、この「不快感」は、テキストの一文一文が、単語をつなぐような形で短く短く書かれており、「描写」が「口先から出る単語を並べた」程度のものに留まっているため、なおのこと増幅されました。

 テキスト表現手法の一パターンとして試みを評価することは可能ですが、文語を口語に際限なく近づけたとして、その結果「メッセージウィンドウの中に流れる文字列」が生き生きとしてくるものでしょうか。口語を口語として自然に表現しようとすれば、文字を使うことは方法として賢明なものとはいえません。音声のみで流すのがベストでしょう。しかし、このゲームのテキストは、口語のみで割り切らないまま綴られているため、上のような不快感を覚えたのだと思います。

 もっとも、ネット上ではこういった反応は皆無だったので、テキストに対する私の反応がやや特殊である、と思っていただいた方がいいとは思いますが(^^;)

 

 シナリオ全体を見た場合のバランスの悪さは、詳細に論じるまでのことではないでしょう。非−日常的な「装置」を随所に配置しているとはいえ、それは「これがあってこそ流れを作る」となっているだけであって、全体的な世界観を構成する記号とはなっていません。逆にいえば、ゲーム全体の「シナリオ」を包括的に論じること自体、かなりの無理を感じます。

 これをネガティブに評価することは可能ですが、むしろ、部分部分のスパークに多くを拠るタイプのシナリオであると考える方が良さそうです。もっとも、このスパークの破壊力は、それを支える演出の浅さなどもあって、そう大したものには感じられませんでしたが。

ゲームデザイン

 前半は移動先でキャラクターと会ってイベントを起こし、ヒロインが事実上決定された後半はイベント発生日のみというスタイルのアドベンチャーゲームです。前半では、どのキャラクターがどこにいるのかが表示されるので、特に悩む必要はないですね。

 Hシーンは、ヒロインが決定した段階で始まりますが、これが何度も繰り返し、しかも丹念に描かれています。

 恋愛ゲームの場合「最後に結ばれて」という形を取る場合が多く、そうなれば必然的に「最後のご褒美」的な色合いを濃くすることとなりますが、経験が非常に少ない相手に、セックスのバリエーションをいろいろと求めるという、非常に無理のある描写が目立ちます。『To Heart』(Leaf)のあかりエンドで白けた思いをした方は、私だけではないでしょう。しかし、このゲームにおいては、身体を重ねることも「恋愛」という営為を表す記号の一つと位置付けられ、日々の交わり(爆)の「積み重ね」というものをエンディングに据えている点で、他の恋愛ゲームとは、ひと味もふた味も違っています。

不具合・修正プログラム

 無限ループとか、グラフィックの抜けとか、そういったバグがいろいろとあります。ジャニス(あるいはアイボリー)のWebサイトにアップされている修正ファイルを用いることが必要です。

操作性など

 インストールすると強制的にフルインストールになるのは困ったものです。CD-ROMなしでも起動可能なのでこれはこれでかまわないのですが。

 基本的にマウス操作が必須ですが、スペースキーを押すと左クリック代替になります(つい最近気がつきました(^^;)。メッセージ表示・画像表示とも、速度切り替え可能。スキップ機能も装備されています。

 また、セーブ&ロードは12個所まで、任意の位置で可能ですが、このほか「クイックセーブ/ロード」機能があります。難易度は低いので、ほとんど使うこともありませんが(^^;) ただ、セーブしたとき、確認メッセージはほしかったところです。

 CGモードはサムネイル表示されますが、マウスカーソルを合わせないと縮小表示が出ないのは「?」。あと、BGMモードもあるにはありますが、非常にわかりにくいです。

サウンド

 BGMはMIDIで演奏されますが、音声の威力が強いために、地味な感じになっています。OP/EDだけがCD-DAとなっています。

 音声は、非常にそのキャラクターの差異化に役立ってはいますが、その癖の強さが半端ではないため、キャラクターへ引き込む威力は充分にある一方、どっと力が抜けるような感じもあります。個人的には性に合わないため、おおむね最初の数分はオン、それ以降はオフにしてプレイしました。

グラフィック

 都築真紀さんの原画。なんか四角形っぽい目が印象的です。『再会 〜卒業旅行98』のときは、なんだか引いてしまったのですが(バグが怖かったのが第一の理由だったのは言うまでもあり…あわわ(^^;)、前作よりもかなりデッサンがしっかりしていますね。個人的には、唯子の照れた表情が好きです。

 表情のバリエーションがかなり生きています。しかし、テキストや音声とリンクしてなんぼのものなので、この2つで「合わん」と相成った私にはさほど魅力が伝わらなかったのは残念。客観的に見ると、かなり変化の仕方は巧みだと思うのですけれど。

 人物に比べ、写真を取り込んだだけの背景は、どうにも悲しいですね。手間がかかるのはわかりますが、シチュエーションを引き立たせるためにも、もっと綺麗に処理してほしかったと感じます。

お気に入り

 特にありませんが、セリフ回しでいえば、井上ななかでしょうか。…って、攻略対象キャラじゃないんですけれど(^^;)

総評

 主人公のメンタルな側面が丹念に描かれており、また「えっちしてはっぴーでおわり」に留まっていないため、高く評価すべき点があるのは確かです。しかし、主人公の設定自体が、プレイヤーを「選ぶ」ものである上、感情移入しにくい形で描かれているため、結果として印象に残りにくくなっています。

 何よりも、個人的に、あのテキストを拒んでしまったのがすべてだったように感じます。手法として認めることもできなくはないと思うのですが、かかる表記のバリエーションを認めないというのは、秋毫の欠点も許さぬごとき不寛容なのでしょうかねぇ?

個人評価 ★★★★★ ★☆☆☆☆
1999年9月25日
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