7月9日
6:30
ベッドで大きく伸びをした男。
彼は、枕の横においてあるリモコンを手に取り、テレビの電源を入れた。
画面に、人気の女子アナウンサーが映された。
男は、小さな声で呟いた。
「今日未明、**県**市の国道で、大型トラックと乗用車が正面衝突をし、乗用車に乗っていた……」
ワンテンポ遅れて、女子アナウンサーが全く同じ事を喋った。
「今日の1位は、おひつじ座のあなた!何もかもが順調に行く日。自分から積極的に行動していきましょう。
ラッキーアイテムはペンライト」
男が呟くと、数分後、全く同じ音声が、女の子向けの映像と共に流れた。
「何が『何もかも順調に行く』だよ。全然だよ」
彼は舌打ちをした。
月曜日だが、男は全く仕事に行く準備をしようとはしなかった。
月曜日休業というわけでもなく、無職というわけでもない。
35歳の、ごく普通のサラリーマンである。
「これで何回目だっけか……」
彼は左腕を見た。
そこには、サインペンでたくさんの「正」という字が書かれていた。
―「正」が、1つ2つ3つ……
全部で35個あった。
ということは……
「もう175回目か」
ぼそりと呟いた。
もう喋る気力があまり無く、呟くのが癖になってしまった。
しかし、独り言の癖はいつまで経っても抜けない。
男は、近くにあったサインペンで、35個目の「正」の隣に「一」と書いた。
「これで、176回目……と」
男はベッドに寝転んだ。
―朝起きると、絶望的な気分になる。
―もう、外には出たくない。
―動くのも面倒だ。
―いつになったら、このループから抜け出せるんだ。
今日は、176回目の7月9日である。
7月10日になる直前(7月9日0:00)になると、何故か9日の6:30に目を覚ます。
これを、彼は176回も繰り返したのである。
別に、これといって特別な日でもない。
彼女と別れたわけでもなく、流れ星に「明日が来なければいいのに」と願ったわけでもない。
彼は、何度も自殺しようとした。
首吊り、飛び降り、練炭、飛び込み、リストカット……
基本的な方法は全て試してきた。
しかし、もう死ぬ!と思ったときに、またベッドの上で目を覚ますのである。
まるで、今までやってきたことが全て、悪夢であるかのように。
死ねない、抜け出せない。
それは、彼にとって相当なストレスになった。
白髪が増え、肌は荒れ、目は充血し、やせ衰えた(どうやら、自分の体の状態だけは、保存されるみたいである)。
男は、全く外に出なくなった。
食料は、朝目を覚ますと、元に戻っているので、毎日同じなのを我慢すれば、買いに行く必要もない。
―もう、いいや。
男は、寝返りを打った。
最初は抜け出そうと足掻いたが、50回目辺りから、もう寝て過ごすだけになっていた。
だが、そんな彼が知らない事実。
7月10日の0:01に、地球に巨大隕石が衝突。
人類はあっけなく滅亡。
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