学園恋愛ものというジャンル。そこで描かれるスタイルというものには、どうしても一定程度の「限界」が見えてきたような気がする。結局、突き詰めていくと『To Heart』に行き着くのではないか。そんなことを考えながら、何気なく手に取ったのが、『さくらの季節』でした。その、まさに神をも恐れぬ中身に驚くことになるとは、夢にも思わず…。
学園恋愛ものというジャンル。そこで描かれるスタイルというものには、どうしても一定程度の「限界」が見えてきたような気がする。結局、突き詰めていくと『To Heart』に行き着くのではないか。そんなことを考えながら、何気なく手に取ったのが、『さくらの季節』でした。その、まさに神をも恐れぬ中身に驚くことになるとは、夢にも思わず…。
4月の入学式。主人公・修司は、そのずば抜けた運動神経ゆえに、極力目立たない行動を取ろうとしていたが、新学期早々、先輩、後輩、同級生たちの部活勧誘合戦にあう。破天荒極まりない担任教師が醸し出す賑やかそのもののクラス。その後の高校生活を送る中で、主人公は、自分がかけがえのない友人たちに囲まれていることを自覚する。そして…。
シナリオ以前の大問題として、出てくるキャラクターの大半が、既存のアニメなどに登場したキャラのパロディ、否、パクリといっていい点が指摘されます。私は、アニメ関係の知識は非常に乏しいのですが、それでも、「豪快で酒飲みの女教師、持ってる酒瓶には「使徒ごろし」茶碗にはペンギンの絵柄」、「プライドがやたらと高くて「あんたバカァ」が口癖の娘」、「寡黙で無表情で「わからないわ」と語る娘」、…挙げていったらキリがありません。万事、この調子です。
あまりにも広く知られているアニメなどであれば、シーン単位で使われることもあるでしょうし、それはそれでご愛敬でしょう。しかし、ゲームの骨格の1つといえるキャラクターが、出典まるわかりそのまんまという状態では、もはや「ご愛敬」で済ませるわけにはいきますまい。
古いゲームですし、もし何らかのいざこざがあったのであれば、その決着はとうについているのでしょう。したがって、ソフトハウスに対し、道義的にどうのこうのということは差し控えます。
しかし、この「肝要な部分」が、どうしようもない欠陥を抱えているといえる状況では、残念ながら、このゲームは、「商品として売られる資格があるゲーム」とはいえまい、というのが、私なりに出した結論です。プレイヤーが支持するゲームこそ、ゆくゆくはゲーム制作の方向性を決定する一要因となりうることを考えれば、良い点があるからといって、帳消しに出来る水準の欠陥とはいえません。従って、このゲームに対する評価は、現時点では、相当低いものにせざるを得ません。もっとも、この評価は、私内部でも二転三転しているので、最終的にどうなるかわかりませんが…。
しかし、登場しているキャラクターは、元ネタをずるずる引きずることなく、それぞれの個性をいかんなく発揮してくれます。いつも酔っぱらってばかりのちゃらんぽらん教師が、実際には受け持ち間もない時期に教え子の自宅まできっちり把握しているなど、各キャラクターの性格描写を行う「方法」も、実に洗練されています。「このキャラはこういうキャラだ」という具合にコトバでうだうだと書かれているマニュアルの記述が頼り、というゲームが多い中、このスマートさは、他のゲームにはほとんど見られないでしょう。
主人公をとりまく彼ら彼女らとの会話は、プレイ中に「退屈」という言葉をすっかり忘れさせてくれます。爆笑渦巻く学園生活。涙が出るほど大笑いを重ねられます。しかも、このゲームはかなり長いのですが、最初から最後まで笑いの種があちこちへと蒔かれており、それが次々とはじける様は、まさに見事の一言につきます。いわゆる「バカゲー」ではなく、全年齢対象のギャグともいえる話題を惜しみなくぽんぽんと出してくる技は、他のゲームで類例を見ることはできません。
シナリオ全体を通してみても、もろもろのイベントがバランス良く配置されており、最後まで飽きることがありません。主人公と、各登場人物との関係も、過不足なく描き込まれていて、非常に好感が持てます。シリアスで重厚なものでは決してありません。しかし、まとまりのあるものを出すのが難しいことは、それこそ『Kanon』(Key)あたりを見ればよくわかることで、このゲームは、それを実に器用にこなしていると感じました。
1年弱という期間ですが、進行は月単位・日単位ではなく、個別のイベントごとに進んでいきます。したがって、「日々是鍛錬」という必要はありません。そして、各イベントでは、コマンド総当たり、全部のキャラクターと会話を重ねることで進んでいきます。かったるい面があるのは確かですが、話すたびに笑えるので、これが意外と苦にならなかったのはおもしろいものです。
ラストで結ばれる候補となる女の子は8人います(マニュアルには6人しか書かれていませんが)。恋愛ものゲームの場合、初めからオンリープレイを要求されて他の女の子には冷たくする、あるいは、取りあえずつまみ食いしておいて最後に1人選ぶという外道タイプか、このどちらかに分かれるのが常ですが、このゲームの場合、「つまみ食い」ということはありません。確かに、ラスト付近で選ぶという形になりますが、あくまでも「結ばれるのはラスト」となっています。
さらに、進行の方法によっても違ってきますが、ある女の子を選ぶ場合、ほかの女の子に「ゴメン」と言わなくてはいけなかったりします。主人公が不自然なまでのモテモテ野郎である場合、「あとに残された女の子はどうなるのか、なんてことは考えてはいけない」というタイプのゲームが主流であるだけに、こういった潔さは、非常に気持ちの良いものがあります。
難易度も、やさしすぎず難しすぎず、というところで(約1名、けっこう難しいキャラがいますが)、ほどよいところでしょう。
CD-ROMをドライブに挿入すると、テンポラリファイルがHDにコピーされ、そこから起動するので、やや初動に時間がかかります。
キーボードが使えず、操作はマウスのみで行ううえ、そのマウスクリックの反応もかなり遅く、焦れてもう一度クリックしてしまうと次のメッセージに飛んでしまったりします。操作はコマンド選択だけなので、マウスよりもキーボードの方がはるかに操作しやすいのですけれど。さらに、メッセージスキップなどという気の利いた機能は一切ありません。また、やや画面切り替えが遅いのも気にかかりました。
このあたり、DOS版の方が操作性ははるかに良さそうなので(NIFTY SERVEでの情報より)、両方プレイ可能であり、かつDOS版を見受けたら、そちらをプレイされる方が良さそうです。
CGモードやBGMモードはありませんが、クリアすれば「登場人物紹介」(クリア前から参照可能)の部分に「済」の印が押されます。わかりやすいといえばわかりやすいのですが、ロコツな印象を受けるのは私だけでしょうか(^^;)
CD-DAで流れるBGMの音質は、あまり良くないです。しかし、そんなことはまったく気になりません。なぜなら、ゲームの雰囲気に見事マッチした、ノリの非常に良いサウンドが流れてくれるからです。「ちゃん、ちゃん、ちゃんかちゃんか、ちゃんちゃんちゃ、ちゃんちゃんちゃ……」お祭り的なノリの、宴会シーンでのBGMなど、CD-DAで可能なクオリティをまったくいかしていない音質ではありますが、そこはかとなく「ちーぷ」なBGMは、むしろこのゲームの雰囲気にみごとにあっていたりするから、世の中不思議なもの。ゲームプレイ時以外では、間違っても聴く気になれるBGMではありません。気が抜けてしかたがないので(^^;) でも本来、ゲームのBGMって、こういうものなんでしょうね。あと、川のせせらぎの音なども、なかなかみごとなものと思いました。
ただ、1つのトラックが終わると、シーンが変わらなくても次のトラックへと移るのは、ちょっと感心できませんね。
このゲームには、1枚絵CGというものは、オープニングを除いて1枚も存在しません。とにかく、「小さいのが残念」なんですよ、ホントに。
古めかしいゲームにしては、デザインなどけっこう頑張っている面もあると思いますし、シーンによって別人のようにキャラが豹変したりといったこともありません。これも、やはり「バランスがしっかり取れている」と感じました。
女の子の表情が変わるタイミングは、なかなかいいですね。時折顔を赤く染めたりして。
あと、服装を、シチュエーション別に描き分けているのも楽しいですね。冬服から夏服へと替わったとき、最初「何が起こった?」と思ってしまいましたから。
やはり一番は、今日子先生でしょう。豪放磊落というコトバはまさにこの人のためにあるのではないか、と思えます。アルコールをもって学級閉鎖を実現させるという時点で、腹の皮をよじくりかえさせてくれましたが、それ以降も、期待にそぐわぬいい味を、最後まで出し続けてくれます。不良教師と誠実な教師との二面性を持ち、そこに嫌みを残していないのがたまりません。攻略対象でないのが残念ですが、攻略可能としてストーリーを作ると、ほかのキャラとのバランスが崩れそうですね。こういった「バランス感覚」がすぐれているゲームだけに、この設定は仕方がないでしょう。
攻略可能キャラの中では、中野恵依美が個人的に好き。あまり深くは突っ込みませんが、「素直でない」という性格をこういう風に、なんのけれんもなく表しているのは、やはりキャラ描写のみごとさというべきか。これに次ぐのが吉田星愛かな。あと、ゲーセンの娘が妙に気になります(^^)
非常にバランスの取れた、緻密で飽きのこないシナリオは、追っていくのが非常に楽しく、これを超えるだけの「楽しさ」を味わわせてくれるゲームは、そうそう見当たりません。
しかし、「このゲームは商品として流通している」ということを前提として考えると、残念ながら、このゲームを高く評価することは無理でしょう。
このゲームであるからこそ味わえる魅力があるのは確かなのですが、「いいからやれ」と素直に勧める気には(倫理的に)なれない。そんな、非常に複雑な心境にさせてくれるゲームです。