瑠璃色の雪 アイル

1997年3月7日発売
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 私事で恐縮ですが、私が自分用のPCを導入することにしたのは、1997年3月のことでした。論文作成にはやっぱりワープロ専用機と化している父のDOSマシン(IBM PS-55 NOTE)ではちと苦しい、というのが第一の理由で、消費税が5%にアップする直前だったというのも大きな要因(^^;)でした。その当時、あれこれとPCに関する勉強や情報収集を兼ねて新宿や秋葉原のショップをあちこち見て歩いたのですが、そこかしこで見掛けたのが、『瑠璃色の雪』のポスターでした。今から思うと、果たしてどの程度のセンスだったのかはわかりませんが、ともかく印象に残っていたのは確かです。

 AT互換機購入後1ヶ月余り後、Xゲームに手を出し、この『瑠璃色の雪』を思い出しはしたものの、PC-98シリーズでしかプレイできないと知って愕然。当時、NECのマシンはまだPC-9821を守っていたこともあって、「そっかー、Windows95が動くPC-98の方がよかったんだなー」と後悔したものです。その後、『デュアルソウル』『脅迫 〜終わらない明日〜』といったゲームが移植されていきましたが、そんな「ATユーザーの悲哀」を感じていたのは相変わらずでした。

 しかし、98エミュレータの進歩もあってプレイ可能となったゲーム。すでに数多くのゲームに触れてきたこともあり、かなりスレてしまった私にとって、その中身はどのように映ったのでしょうか。

シナリオ

 主人公・真鍋博士(変更不可)は、父を失ったばかりの高校生で、幼なじみの家が大家をつとめるマンションで1人暮らしをすることに。引っ越しのどさくさに見つけた壺を開けると、光とともに金髪の雪女「瑠璃」が現れた。触れることもできない彼女との奇妙な同居生活が始まる。

 

 一応、学園ラブコメ、とカテゴライズするべきでしょうか。主人公は学校に通い(といっても、試験期間&冬休みのため、授業はほとんどない)、あとは町中を歩いてキャラクターと会い、シナリオを進める、というタイプになっています。ヒロインも、メインヒロインの瑠璃が雪女であるほか、幼なじみ、双子の姉妹、後輩、女教師、子持ちのOL、うぶな退魔師、不幸な娘など、バラエティに富んでおり、引きつけどころはうまく押さえている…ハズなのですが、キャラクターが見事に立っていません。

 まず、ヒロインである瑠璃ですが、「雪女」という設定が、単に「物珍しい」という以上の存在になっていません。強いてポイントをあげれば、綾霞のようなキャラクターを関係させるという程度で、ポジティブな意味をほとんど持っていないのは問題です。「あやかし」なる存在であれば、相応の「立場をいかしたイベント」があってしかるべきですが、飛んだり、消えたり、変な弁当を作ったりするだけでは、設定倒れもいいところです。さらに、「雪女」という面を除いたとしても、ヒロインとして活躍しているかというと、そんなこともなく、外出すると、オープニング付近でドジを見せてくれる以外、出番がずいぶんと少ないのが実情。ほかの女の子と話をしても反応なし。折に触れて、主人公の幸せが一番の望み、といったセリフを出してはくるものの、そういう感情をうむだけの盛り上げも背景描写もなく、「なんとなく」がなし崩しに突き進んでいるだけのように感じられます。

 しかも、瑠璃とハッピーエンドを迎えるためには、ほかの女の子も追っかけ回す必要があり(陽子など楽勝キャラもいますが)、「ヒロインのためにナンパにいそしむ」という、妙な状況になってしまいます。

 さらに、エンディングである瑠璃END1も、苦労に見合ったほどの内容ではない、など、期待はずれもいいところです。瑠璃シナリオに「ちょっと切ない純愛物語」を求めても、空振りだった、といったところです。

 

 瑠璃以外のヒロインを見ても、設定、あるいはイベントが用意されていながら、それを演じきっていないという印象です。町中でキャラクターとあっても、毎回毎回、似たようなパターンの会話を繰り返すだけ、という状態で、単調さがまず鼻につきます。

 イベントの多くが半強制で、しかも中身が毎回異なっている綾霞は、例外とみなして良いでしょう(あのEND2は思い切り白けましたが…)。しかし、2パターンの会話を繰り返すのみの幼なじみ、見分けるだけで喜ぶ双子の姉妹、一緒に帰るだけで話が進む後輩。これだけで愛情度(好感度)が勝手に上がっていくのですから、プレイの際には緊張感も何もありません。真名ちゃんという反則破壊兵器(^^;)を抱える雪那さんにしても、イベントの大半がギャグで占められ(瑠璃の特訓とか酔っぱらい事件とか)、どうも盛り上がりに欠けます。盛り上げ方があったハズなのに、それをわざわざ回避してしまった観があるのが、美弥。悲惨なキャラだからきれいに決めてあげよう、ということだったのでしょうが、せめて悪役(悪人とは言い切れないけど)との対決をしっかりと書いて欲しかったものです。

 主人公の側には、基本的にナンパする理由がない以上、ヒロイン側のアプローチは非常に重要だったのに、そこがすっぽり抜け落ちているため、どうにも盛り上がりませんでした。

 

 さらに、キャラクター同士の連関の弱さも指摘できます。かなり関係の深そうなキャラクター(陽子と若葉など、同時に登場するシーンもあります)が、シナリオ上ではまったくの無関係で終わっていたりします。フラグ管理が難しいのは確かにわかりますが、これの少し前に出されている『卒業写真2』(JANIS)などは、複数キャラ同士のリンクをスムーズに実現させていたことを考えると、キャラが生きていないのをつくづく感じさせられます。

 

 詳細は「ゲームデザイン」欄で触れますが、基本的に、各女の子ごとに2つずつのエンディングが用意されています。それらのエンディングを比較すると、「END1」は「瑠璃の影が残るもののいい雰囲気のエンディング」、「END2」は「豪快力技的エンディング」という対照が感じられます。

 オンリープレイで進める(私は基本的に1人狙いのみで進めました)と、まず間違いなく「END2」に到達することになります。この場合、恵END2に代表されるように、とにかく笑いを取らせているのがハッキリわかります。双葉&若葉ENDも、確実にこのグループに入ると言えましょう。

 ところが、「END1」の場合、かなり雰囲気が異なります。陽子END1などは、ノリがほとんど変わりませんが、基本的に「瑠璃の影」がどこかしら残っているため、感傷的な雰囲気にさせるエンディングとなっています。恋愛譚、という視点で見た場合、「切なさ」を残すというエンディングがどの程度まで広く容れられるか、を考えると、これらのエンディング「だけ」で終えない、というのは、かなり憎い「作戦」に思えます。しかも、オンリープレイを重ねれば、必然的にEND2が埋まり、エンディング確認モードで「END1がまだまだ」ということに気付く、というプロセスを経ます。このことから、制作者サイドは「END2→END1の順でプレイさせ、その対照を見せよう」と思ったのかも知れません。いずれにせよ、「END1」の方が、恋愛モノとしてはしっくりくるものが多いように感じます。

 中でも白眉は、若葉END1。ヒロインの影(亡霊)をどうこうするとか、裏切るとか、そういったネタをエンディングに用いたゲームはほかにもありますが、ある程度以上の年齢になってくると、激情に身を任せることにリアリティを感じることはなくなり(非現実的というよりは、作為を感じさせるという方が近いか)、また感情の表現方法もしだいに枯れたものとなっていきます。この若葉END1には、そんなことを思わせる、落ち着いた雰囲気が漂っています。瑠璃のいた当時のドタバタした時代から成長した主人公と若葉、その2人の会話は、短くとも、なかなかに「味」を感じさせます。さらに、本編をいったん精算し、切り離した上でのエンディングなので、本編を引きずっていません。こういうエンディングを「思いもかけず」見せられ、ホロッときました。内容の詳細には触れませんが、「ちょっとせつない」とは、こういうシーンを目にしたときによくあてはまるフレーズなのではないでしょうか。ちょっと感傷的になるけど、でも前向きで、それでいて美しいエンディング。恋愛ゲームのエンディングの理想型の一パターンだと思うのですが、類型化が難しいのか、こういうエンディングはほとんど見ないですね。一般受けしないのかなぁ。

 ほかにも、たとえば双葉END1なども、本編のシナリオがしっかりしていれば、それなりに「美しい」ものになったでしょうが、なにぶん「本編の結果としてのエンディング」(本当はこれで当然なのですが)であるため、インパクトが弱い。恵END1も、平凡ながら悪くはないですが、「ラストイベント」という感じで、「そして、それから、2人は…」という物語が欠落しているのが弱いですね。この2つが、若葉END1に次いでいるでしょうか。逆に、美弥END1などは、「素直に幸せ」なので、どうも薄い感じ。

 いずれにせよ、瑠璃END1よりも若葉END1の方が、はるかに印象的だった…というのは、私だけなのかな?

 

 このゲームで魅力を感じた点は、こういった「ひと味違うエンディングの味わい」に尽きたのですが、そこにあるのは、瑠璃以外のキャラクターがヒロインとなり、そして瑠璃が「存在していた」という記憶が幾ばくなりともある、そういう状況です。言葉を換えれば、瑠璃が「引き立て役」にまわっている、と言えます。

 突然出てきて、突然消えても、そこまででなんら盛り上がるものがなければ、ラブコメにはなりようがありません。別れたとしても、そこで「切なさ」を感じろ、と言われても、私はそこまで感性が鋭敏でないようです(以前、『WHITE ALBUM』(Leaf)の感想でも、こんなこと書いた記憶が…)。それよりも、他者という「鏡」によって「自分」(正確には、「自分」の拠って立つ座標上の位置)を再認識する、という方が、はるかに「切なさ」を感じられます。

 したがって、ヒロインが引き立て役となっていたために、若葉END1などはよいエンディングになった…ということになってしまいますが、これは狙ってやったのじゃなくて、「怪我の功名」ですよねぇ、やっぱ(^^;)

ゲームデザイン

 一定期間内に場所の移動を繰り返し、人と会ってイベントを発生させ、こなしたイベントと「愛情度」(一般的に言われる「好感度」と同じです)によって、エンディングが決定されます。移動は、マップ上で行き先をクリックして行いますが、キーボードの「Tab」キーも使えます。

 マップ移動方式のゲームでは、多くの場合、イベント発生は順序が相対的に決まっているものの、日時固定のイベントというのは決定的なものがいくつかというのみで、あとはアバウトに発生時間帯が想定されている程度、といったものですが、この『瑠璃色の雪』は、基本的にイベントの発生時刻が固定されています。プレイ当初はこれに気付かず、いくら町を歩いてもなかなかキャラクターと出会えない「ゴーストタウン状態」でした。その後のプレイでは、まず誰がどこに出現するかを、セーブ&ロード、そしてタイムテーブル作成によって、なんとかしましたが、とうてい漠然たる記憶でプレイすることはできません。オンリープレイであっても、記憶に頼ってプレイすると痛い目にあう可能性が高いため、メモを取る、あるいは初めからタイムチャート類を用意してプレイするのがよいかも知れません。さもなくば、「暇潰し」コマンドとセーブ&ロードとを併用しないと、おそらくゲームにならないでしょう。

 また、「ヒント」「こたえ」両モードがあります。キャラクターに出会えないと役に立たないのが難点ですが、これを用いれば、各キャラクターの愛情度を見ることができます。

 このように、「一定以上の作業」を義務的に押しつける仕様は、個人的にはなじめませんでした。一般的には、システムの親切さを指摘する声が多いようですが、要領を掴むまでには相当回数のリプレイをさせられましたので(--;)

 各キャラクターには、エンディングが2つずつ(瑠璃は3つ、双葉・若葉は変則的なエンディングあり)用意されており、それぞれ性質の異なるエンディングとなっています。瑠璃以外の場合、愛情度、イベントの双方をクリアすれば、Hを2回する事ができ、その場合は強制的にそのキャラのEND2となります(2回目のHシーンは回避できるキャラとできないキャラあり)。一方、2回目のHをしてはいないもののキーとなるイベントは押さえている場合、END1となりますが、愛情度がもっとも高いキャラのエンディングになるので、時間のかぎり手を出すのは禁物です。また、愛情度が低いキャラに対しては「レイプ」することも可能ですが、別にこんなもんいらないと思うのですが。

不具合・修正プログラム

 25日夜、綾霞が登場済みであっても、なぜか「初対面」として再登場するというバグがあります。無視すれば、シナリオ展開には関係ないようですので、別に問題はありませんが、あまり気持ちの良いものではないですね。

 修正ファイルが、アイルのWebサイトにアップされています。

操作性など

 ゲームを起動すると、「初めからする/続きからする/操作説明/おまけモード/マニュアル補足/スタッフロール」というメインメニューが表示されます。

 プレイ画面では、背景画面(基本的にモノトーン)+立ちキャラ(カラー)が中央に、メッセージウィンドウが下部に、日付・時刻が右側に表示されます。一枚絵CGが出る画面(たいていはHシーン)では、メッセージウィンドウが透明表示されますが、暗い背景の場合にはテキストが読みにくいことこの上ないのが難ありでしょう。

 マップ上では移動先の文字表示を左クリック(あるいはカーソルをあわせてEnter)することで移動します。

 時間の概念は、「午後2時頃」「午後7時過ぎ」など、表記がわりとアバウトですが、実際のイベント発生はあまりアバウトではありません。時間飛ばし機能がありますが、それまでに入っている予定、あるいはイベントがはさまる場合は、自動的にストップするという親切設計がありがたいですね。また、『卒業写真2』のように、ランダムで寝過ごしたりということはありません(^^;)

 マウス操作の他、キーボードだけでも全操作が可能となっています。カーソル移動は、カーソルキーの他、「Tab」キーでも行えます。

 セーブ&ロードは、選択肢が出ている任意の位置で50個所まで行えますので、実に便利です。セーブすると、セーブ時の実日時、ゲーム中の日付、該当イベントの説明が表示されるのはありがたいですね。

 「操作説明」「おまけモード」および「スタッフルーム」では、ゲームに登場する各キャラクターがガイド役を務めてくれます(美弥などは立っているだけですが…)。特に、「おまけモード」内のHシーン鑑賞モードは必見モノでしょう。やっぱり、双葉&若葉姉妹、怖いです(^^;)

 「おまけモード」から、CGモード・Hシーン鑑賞モード・エンディング確認モード・BGMモードに入れます。

 CGモードでは、キャラクターごとに、今まで見たCGを見ることができます。各CGに名前がついており、一覧表から選択するという形を取っているので、どんなCGが残っているのかが一目瞭然です。Hシーン鑑賞モード、エンディング確認モードも同様。BGMモードでは、各曲ごとにコメントがついています。

サウンド

 PC-98エミュレータ上でのプレイなので、音質は例によってノーコメント(^^;) メロディラインだけでは、「夢見るように」が一番好きですね。また「氷結の夜」の清冽な音色も雰囲気がよくでています。

グラフィック

 リバ原あきさんの原画。タレ目と巨乳がやたらと目につくのですが(^^;) もうちょっと髪がきれいに描けていれば、という気がしますが、DOS環境では致し方がなかったのかも。

 16色ということを考えると、なかなかのものがありますね。また、目パチなどの小アニメが多く、なかなか工夫されています。

 それにしても、Hシーンの濃いことといったら(^^;)

お気に入り

 真名ちゃんで決まりですな。『デュアルソウル』ではリーファを挙げたりと、「そーゆー趣味なんですねぇ」というツッコミが入るのも無理はないかも。でもいいんです、あのつぶらな瞳で下から見上げられたら、もうダメ(^^;)

 雪那さん自体は、可も不可もないキャラクターなんですけど、真名ちゃんの力は凶悪なまでに強いス。Hシーン再生モードで雪那さんを選ぶと、なぜか画面が玄関に移って(^^;)、

お兄ちゃんは、どのママが見たい?

 シーンを選択すると、

お兄ちゃん、がんばってね

 頭の中で、ぴきぴきっ、という、ヒビが入るような音を感じました(^^;)

関連リンク先

 蓼原シュンさん、SHEOさんの各サイトが、簡潔ながらよくまとまっています。すでに枯れたゲームということもあって、あまり活発な議論がある気配はないですが(^^;)

総評

 シナリオと切り離してエンディングを見た場合、なかなか味のある、いいものが用意されています。これを見れば、「切ない恋物語」とは言えるでしょう(「純愛」は、さすがにムリがあると思いますが)。

 しかし、ユーザーインタフェースとプレイアビリティとの乖離がここまで大きいゲームは、過去に経験がありません。タイムテーブルを作らないと事実上プレイできないとか、イベント回収のために相当の時間を必要とするなど、かなり問題も多いと感じます。このゲームの全CGを自力だけで回収できたとすれば、相当な忍耐力の持ち主と考えます。私は、END2だけは全部自力でなんとかしましたが、END1orCG補完には、NIFTYにアップされたタイムチャートに、全面的に依存してしまいました。

 悪いゲームではないのですが、どこに魅力があるか、と言われると、なかなか答えにくいんですよね(^^;)

 すでに枯れた旧作に対して、そのまずい点を辛辣に書くというのは趣味じゃないのですが、リメイク版が出る、という特殊事情もあり、少し気になったことも、そのまま書いてみました。

個人評価 ★★★★★ ★☆☆☆☆
2000年2月19日
Mail to:Ken
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