異性の幼なじみが複数登場し、募る思いと友情との間で揺れ動く女心。こういう部分の描写について、『With You』(カクテル・ソフト)のメインシナリオに対して大いなる不満を抱いていましたが、それを軽々と、なおかつ見事に扱っていたゲームがありました。秀逸なサウンドでも知られる、ぱんだはうすの別ブランド、Melodyがリリースした、その名もズバリ、『Melody』。ブランド名をそのままゲームタイトルに使うとは大したものですが、その中身は、看板に偽りのないだけのものを見せてくれました。
また、NIFTYの会議室などでは、「音楽が秀逸なゲーム」という話題になると、必ずといっていいほど言及されるゲームでもあります。誰が言及しているのかといったヤボなツッコミをすると、メロディに嫌われますよん(^^)
ある晩、夢の中に出てきた少女「メロディ」。「夢のメッセンジャーガール」を自称する彼女は、主人公、柳生慎太郎(変更不可)に、いつも彼のことだけを思い、見つめてくれている女の子がいることを告げます。そして、彼女の気持ちを届けるために、現実で、また夢の中で、不思議な世界を展開していきます。主人公は、彼女の気持ちを受け取ることができるのでしょうか。そしてまた、彼自身の想いを、彼女に伝えることができるのでしょうか。
現実と夢幻との間をシームレスに行き来するという設定の上に成り立つシナリオが大半なのですが、登場するキャラクターそれぞれのうち、影響の強い組み合わせはあまりなく、多くは個別のシナリオから構成されます。すなわち、フラグが立って各ヒロインのシナリオに入り、さらに、小分岐がいくつか出るわけです。
登場するキャラクターは、対照的な性格の幼なじみ2人、義妹、女教師、外国娘、売り出し中のアイドル、謎のマドンナ(笑)と、バラエティに富んでいます。プレイにあたっては、彼女たちとのイベントを発生させながらシナリオを進行させるので、必然的に「女の子を追っかける」パターンになるのですけれど、シナリオ自体は、「誰か判らないけれど、自分に想いを寄せる女の子がいる」ことからスタートしているので、ヒロイン側の戸惑いを主人公がどう受け止めるか、という視点で進みます。決して、主人公サイドで作り上げられる恋物語でもなければ、女性の視点で書かれたラブロマンスでもない。ヒロインが主導権を握りながらも、それを追う主人公の目線、このスタイルでシナリオが紡ぎあげられています。そして、この「一風変わったシナリオ」の演出に一役買っているのが、現実と夢幻との行き交い。一歩間違えれば「わけわからん」で終わってしまうスタイルであり、また、今後別の形で応用が利くとは思えないパターンではありますが、実に憎い輝きを放っています。いうなれば、既存の文法を壊し、ハーモニーを破りながらも、そこに新たな世界を作り出してしまう、ポエムの威力。これを、ゲームのシナリオが実現させた、と言い切れるケースとしては、私は他に類例を挙げられません。この点に関して言えば、『夢幻夜想曲』も真っ青でしょう。
バッドエンドとなっても、そこで出される、グイと力のあるコトバの列に、思わずくらっときてしまいました。
さらに、2人の幼なじみシナリオで演じる、メロディの役割。「メッセンジャーガール」としての役割を語るのはゲーム内容の具体的なところに踏み込んでしまうので避けますが、結構「粋」な登場の仕方をします。メインシナリオとなっているのは、やはり、春シナリオでしょうね。ただ、メインヒロインとしての役割を演じているキャラとなったら、こずえというべきでしょうし、このあたりの「ねじれ現象」も、個人的には非常に好意的に受け止めています。
また、キャラクターの設定も、よくあるパターンのようで、その実、微妙にポイントをずらしており、しかもキャラクターごとの主人公への対応や関係が非常にユニークであるのもポイント高いですね。
女の子は、メロディを除き、6人登場します。数回プレイすれば、どこに彼女らがいるのかは見当がつきますし、フラグの立て方もおおよそ見当はつくのですが、妙なパラメータのせいで、ゲームがなかなか進まずにバッドエンド一直線だったり、はたまた、一瞬でハッピーエンドに到達してしまったりと、難易度が高いんだか低いんだかさっぱりわかりません…こういうゲームって、コメントに苦しみますね(^^;)
ここで出てくる「パラメータ」は、シナリオ中、ときどきチェックが入り、それ以降のシナリオに進めるかどうかが決まり、進めない場合は、そのままバッドエンド直行と言うことが多いようです。しかし、バッドエンド、ハッピーエンドを問わず、ゲーム終了時のパラメータを、次回プレイに継承することも可能ですので、相手によっては、数度のエンディングでパラメータを稼いでからでないと攻略が難しい…もとい、事実上攻略が不可能というケースもあります。
それにしても、セーブ&ロードで確認したら、同じ選択肢を選んだとしても、パラメータの上下幅が毎回違ったりするんですけど…こんなので「運命」を決められちゃかなわんぞ。ゲーム性を出すため、といえばそれまででしょうが、選択肢の数は決して多くないのですから、シナリオに没入しているプレイヤーの興を削ぐような演出には感心できません。単純な選択肢分岐スタイルの方がいいと思うのですけれどね。
インストール先のディレクトリは任意に変更可能です。
キーボード、マウスの双方で操作可能。メッセージスキップ可能、セーブ&ロードはいつでも可能、セーブは10個所までOKでセーブした章やシーンの名前が入る、キーボードでのメッセージスキップもマウスでのプルダウンメニューも有効、など、ユーザーインターフェースに関してはいうことありません。面白いのは、「Escキーで最小化」。この手のゲームって、「見られたくないシーン」が出ているときに家族が来た、なんてときの対処法を考えなくてはいけないのですけれど、このゲームなら大丈夫(^^;)
CGモード・サウンドモードあり。CGモードでは、各ヒロインごと(メロディも含む)に表示され、全体の達成率も表示されます。また、サウンドモードでは、BGMの他に、効果音もあります。
BGMは、言うことないですねぇ。こんな曲をゲームBGM程度に…といったら失礼ですが、かなりクオリティの高い曲が並び、中には、バッハの管弦楽組曲をそのまま使っていたりします。いやーびっくり。しかも、曲の水準が高いと、ゲームとずれて、曲だけが浮いてしまう、ということがしばしば起こりがちなのですが、このゲーム中では、BGMに違和感を覚えたことは、ただの一度もありませんでした。CD-DAであるため、マシンパワーや環境に依存することなく、CDプレーヤーでも年中聴いてもいい曲がずらり…。
また、ヴォーカル曲が2曲はいっています。メインテーマの「メロディー・ガール」は、ゲームCD同梱のヴォーカル曲としては、比較的水準の高い方でしょう。やや歌唱力に難ありかもしれませんが、ハッピーエンドでのポップな雰囲気にうまく合っています。
ですが、それよりも、最終トラックの「あしたへ…」の方が、やっぱりいいですね。しんみりとした雰囲気にさせてくれます。基本的にバッドエンドの時に流れる曲なのですが、それ以外、とあるシナリオのメインルートでこれが流れるシーンが1個所だけあります。このシーンにこの曲、はまりまくり。「あしたへ…」は、私的ゲームヴォーカル曲ナンバーワンの地位を独占しています。
また、効果音も、実に効果的に使われています。セミの鳴き声、路面電車の「チンチン」音、波の寄せてくる音…。
宗方こちさんの原画。「かわいい」感じの原画です。目がチャームポイント、という雰囲気の女の子がいっぱい出てきますが、個人的には、なんか髪型が妙なのが気になりました。デッサン云々、というのではないのですけど。ただね、メロディ、一枚絵CGと立ちグラとで、顔もリボンの位置もまるっきり違うんですが(^^;)
塗りは、かなり豪快な感じはしますが、活き活きとした雰囲気を作り出しています。
また、最初に驚いたのは、男性キャラはすべて真っ黒に塗りつぶされて登場していること。主人公の目の前に立つのはすべて女性のみという徹底ぶりは、このゲームで「余計な要素はすべて抽象的存在に消化する」という役割を果たしており、好感を持てました。これが『暗闇2』あたりにいくと、「やり過ぎだ」と思ったものですが。
夏海こずえでしょう。シナリオのボリュームそのものは春に負けますけれど、回想シーン、そこで使われる「メロディ」という装置。そして何よりも、彼女の「想い」というものは、春のそれと対比した場合、どれだけ爽やかなものであることか。これに次ぐ、となれば…やっぱメロディでしょう(^^)
鷹月ぐみなさんのLemontic Palace(閉鎖)が、独自の視点とトーンで楽しめました。
ゲームのシナリオそのものへの評価もさることながら、むしろ、このゲームが作り出すサウンドなどのもろもろの演出効果の結果、プレイヤーは、その視点をストーリー中のある一点に集中させてしまうため、不思議と細部には気が回らなくなります。ゲームの中で紡がれている物語世界では、その主体となるオブジェクト(思い切りヘンな表現だけど気にしない気にしない(^^;))が核となり、それ以外の不要なものはまったく目に入りません。この手法では、リアリティの欠如、ひいては物語世界への、半ば本能的なまでの拒絶という副作用がもたらされるケースが考えられ、実際、「わけわからん世界」に辟易したという方もいらっしゃるようです。端的に言えば、人を選びます。私の受け止め方は、「自分に筆力がないゆえの憧れ」といった要素も多分に入っている、と考えていただく方がいいかもしれません。
しかし、演出効果に多くを依存しているゲームであるにもかかわらず、ファーストプレイ直後の鮮やかなイメージがなかなか消えず、ふと気がついたらリプレイしたくなる、というゲームは、私がプレイしたゲーム中では、『痕』と肩を並べるだけの力を持っています。
一見「引いてしまう」タイプのパッケージが難ありですが、個人的にはぜひともプレイして欲しいゲームです。最悪でも、音楽CDにはなります。
気がかりなのは、こういうタイプのシナリオと演出とのミックスは、2度同じものを作ることが非常に困難であること。詩の二番煎じなど、楽しくも何ともありませんから。しかし、他のソフトハウスで出すことが期待できないタイプのものであるだけに、『Melody2』を出して欲しいものです。拙速は望みませんから。