女郎蜘蛛 〜呪縛の牝奴隷達〜 PIL/ストーンヘッズ

1997年1月24日発売(DOS版)
1997年4月18日(Windows95版)
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 このゲームを堂々とゲームリストに出しておきながらこういうのもアレですが、私は「女を縛ってなぶる」というのは好きではありません。ゲーム上のフィクションとはいえ、やはり「縛る」のであれば、その心を落とすのが筋というものでしょう。鬼畜な展開であれば、いろいろと手練手管を弄して追い込んでいくという手法があります。そのプロセスを楽しむ自分がいることは、百も承知です(そこまで偽善者になってはいません(^^;)。しかし、「道具」を用いるSMというのは、そこに愛があろうがなかろうが、どうも嫌なんです。このため、PILのゲームはほとんどプレイしていないのが実情です。

 そんな中、「AVG部分でのシナリオがなかなかいい」という話を聞き、取りあえず入手したのが、『女郎蜘蛛 〜呪縛の牝奴隷達〜』。それほど古い作品ではないというのに、もはや市場から姿を消しつつあるのは、それほどのヒット作ではなかった証左なのでしょうか。このゲームの存在を知ったのが1999年になってからのことだったので、当時の状況はさっぱりわからないのが残念なところですが、NIFTYでの「98ベストゲーム投票」の歴代部門では17位と、十分に健闘していることを考えると、コアな方にはある程度受け入れられている模様。

シナリオ

 時は大正。帝大生の蒲生鉄哉(変更可能)は、破格の報酬にひかれ、北畠家という財閥当主の屋敷で住み込みとなって働くことになる。表向きの業務は書類の整理であったが、実際には、北畠家の後見人から、親の借金を盾に、前当主の娘を調教することを求められる。

 

 ゲームの表面に流れているものは、「縛り」をキーワードとした緊縛の空間です。もちろん、そこにある「現実」は、平凡かつ容易に想像可能な「現実」とは大きくかけ離れています。ここで、「大正時代」という、華麗な、しかしある意味では相当程度歪んだ時代設定が利いています。

 最初は「日常」の世界に身を置いていた「主人公」。彼は、将来を嘱望されている帝大生であり(社会的ステータスを考えれば、現在の東大生など比較になりません)、いうならば「陽の当たる世界」の象徴ともいえましょう。しかし、その彼が、北畠家という空間の中に籠もる妖気に当てられ、女たちを縛っている自分が、逆にその世界の中で縛られていく。この、能動と受動とのコントラスト、そして、そのシフトの描き方については、まさに秀逸の一言で語るほかありません。

 シナリオの「流し方」を考えた場合、主人公の語り口に、馬脚を現すような「妄言」がなかったのが、非常に有利に働いたように見えます。すなわち、帝大生という身分の人間(自分がそういう身分になることを想定するのは非常に困難ではありますが)である主人公が吐くセリフにしてはあまりにも陳腐、そういったシーンがあまりなかったのが良かった点でしょう。独白についても、抽象的な観念を用いることを注意深く避けています。

 

 キャラクターの描写も、なかなか秀逸なものと感じます。イベントの量自体はさほど多くなく、また「縛り」以外でのCGもさほど多くはないのですが、それだけに個々のイベントの存在感が非常に大きくなっています。キャラクターの発言も、彼女たち・彼らの性格(あるいは表情)を描写するのにうまく役立っていた、と言ってよいでしょう。

 

 テキスト表示には、一部旧字体をも織り交ぜ、当て字表記やルビを多用するなど、独特の方式を採っています。また、蔵書室での書物のバラエティがなかなか楽しめます。

ゲームデザイン

 調教SLGというべきなのでしょうが、実際には、さまざまな条件によって発生するイベントによってエンディングが変わるので、AVGとしての要素がかなり強くなっています。

 四週間のゲーム期間、午前中が移動によるイベント発生、午後が調教となりますが、調教の方は、パラメータを上げるのは非常に楽です。ただ、「縛り」のバリエーションにこだわった場合、まさに自縄自縛に陥ります(^^;)ので、ほどほどにするのが賢明か。序盤、調教で手抜きをしていると、解雇されますのでご注意を(←初回プレイがコレでした)。

 

 調教パートでは、女たちを縛っていき、場合によっては「特別調教」というメニューが用意されます。ただ、「縛りにこだわる」という割には、どうにも「その場の雰囲気」が今ひとつという印象があります。「堕ちていく」などの反応描写が非常に弱く、絵的な楽しみにとどまっています。キャラクターあってこそのものなので、縛った直後の短いセリフだけでなく、もう少し工夫がほしかったというのは、多くを望みすぎでしょうか。

 縛りのパターンが実に多様で、しかもそれらの1つ1つに名前が書かれているので、勉強に…といっても使う機会などないでしょうが(^^;) それ以前に、あまり「縛り」自体に興味がない場合、この「縛り」そのものが「作業」と化し、中盤がだらけてしまう点は否定できません。ゲームの終盤付近でたたみかけるような展開が待っているとわかりながらも、単調な「縛り作業」の連続には退屈、と思ったことは確かです。

 

 イベント発生に関しては、ランダム性も若干ありますが、基本的には狙ったキャラを追いかけていれば大丈夫のようです。また、このイベントに際し、各キャラクターのパラメータによってセリフなどが微妙に変化します。このバリエーションが非常に多いので、たとえCGが全部埋まったとしても、このゲームを「コンプリート」できた、とは、容易に宣言できないでしょう。とにかく、イベントの組み合わせ、そしてエンディングともに非常に豊富です。

 

 ただ、疑問なのは、各エンディングを終わらせるごとに明かされる「事実」の量が少なく、いろいろなパターンをプレイしてしだいに見えてくる、という構造になっていること。

 もちろん、マルチエンドという方式を採っている以上、次回以降のプレイ意欲を維持させるための手法として評価することは可能です。プレイヤーが、主人公と離れたり重なったりしながら、ゲーム世界を漂うAVGでは、特に効果的でしょう。また、エンディングを終えるごとに、各キャラクターごとのパラメータも表示されるようになっているため、セーブデータをうまく活用して別個のエンディングを見やすくするといった、システム的な配慮も行われている点も、指摘しておきます。

 しかし、このゲームは、SLGという要素が第一であり、したがって、プレイヤー側が「望む」エンディングのパターンはかなり限定されてくると思われます。あえてマルチエンドにして謎を小出しにするよりも、各エンディングごとでシナリオを並列的に用意するスタイルの方が良かったのでは、という気がします。

不具合・修正プログラム

 ところどころで、「不正な処理」で落ちることがあります。インストールされたデータのファイルをコピー&リネームすることで対処できますが…ほかにも何か起こりそうで不安です(^^;)

 私の場合、中古購入なので、メーカーにどうこう言うわけにもいかんし…。

操作性など

 全般的に、「かゆいところに手が届きにくい」レイアウトとでもいいましょうか、いろいろと考えていることはわかるものの、実際のプレイアビリティにはさほど寄与していないユーザーインタフェースになっているという印象です。

 インストールオプションはあるものの、BGMを鳴らすためにはフルインストールが必須です。この場合、インストール先ディレクトリは変更不可(ドライブのみ変更可)なのも、ちょっと嫌です。

 操作は、マウスのみで、キーボードは受け付けません。メッセージが表示されている画面でのみ、既読文を早送り可能ですが、この速さがどうにも半端で、速すぎたり止まらなかったりと、どうにも困りものです。また、256色環境でないと、遅くてとうていプレイしていられません。

 画面表示は、クライアント領域(640×400固定)以外の部分は壁紙表示されます。フルスクリーンも、またウィンドウ表示もできないこの方式は好きじゃないのですが。下部にメッセージウィンドウが表示されますが、これを消すためには、いちいちマウス右クリックからメニューを呼び出す必要があるのも、難あり。

 セーブ&ロードは、1日の終わりまたは初めで行うことができますが、セーブ8個所だけというのはどうにも少ないところ。また、セーブの際、実日時と技術パラメータが表示されます。ゲーム途中の任意の位置で、右クリックで「オープニングに戻る」を選択可能なので、セーブ&ロードもさほど苦にはなりません。

 CGモードは、サムネイル表示され、見ていないものは「秘密」と表示されます。また、BGMモードもあります。ともにトップメニューから入ることができますが、それぞれ「思ヒ出ノ寫眞ノ間」「追憶ノ蓄音機演奏」というネーミングになっています。残念ながら、エンディングの回想モードはありません。

サウンド

 BGMは、CD-DAで演奏されます。シーン間でのメリハリがあり、なかなか味のあるアレンジかと思います。個人的には、「月光=蝶子のテーマ=」でしょうね、やはり。また、効果音も、縄が「ぎゅ〜っ」と締まる音がしっかりと入っているなど、憎い演出と感じさせてくれます。

 音声はありません。

グラフィック

 256色ですが、通常シーンではあまりパッとしたものではありません。表情変化も乏しいですし。ただ、一枚絵になると、急に綺麗になります(^^;)

 あと、背景の処理があまり美しくないですね。あのニジミを消すのは難しいのでしょうか。

お気に入り

 北畠蝶子で決まり。精神を持った人間としての限界を常にさすらってきたキャラクターであり、なおかつ、一生癒えることはないであろうものを帯びている彼女を救わないわけにはいきませんでした。

 また、ゲームという次元で見ても、「SMゲームでも萌えタイプのキャラクターを作れる」というのは、別の意味で驚きでした。

関連リンク先

 まずは、泰斗たる蓼原さんのサイトの論評が第一でしょう。このゲームに対する氏の思い入れは半端なものではないようです。また、USGさんのサイト(閉鎖)にもレビューがありました。

総評

 女を縛って調教する「SM-SLG」に見えますし、実際そのように楽しむことも可能なのですが、このゲームは、主人公の行動選択の「結果」としてのバリエーションを実に多く用意し、さらに、それらエンディングが、実に細かく描かれています。シナリオ展開も間を感じさせることがありません。従って、シナリオ面で、高く評価することができましょう。こういったスタイルのゲームは、ほかにほとんど例を見ないのではないのでしょうか。

 その反面、SLGとして見ると、それほど楽しくもなかったのが事実。冒頭で書いたとおり、私自身がもともと興味薄ということもさることながら、やはり「SLGとして」は、中だるみ感が強いものに留まっています。

 また、「帯に短し襷に長し」といった感じのするユーザーインタフェースなど、不十分と思われる個所もかなりありますが、もう3年近く前のゲームですし、それらを指弾しても建設的ではないでしょう。

 

 新品はおろか、中古でもほとんど見ることがなくなった作品ではありますが、「このゲームならでは」という「味」を感じさせる逸品です。好みのキャラがひどい目にあう(あるいは、あってきた)としても、ある程度は耐えられる、という方なら、プレイされてもよいかと。

 最後に、よねのセリフから。

俗世間俗世間と教養人ぶった方はおっしゃいますが…俗世間が一番で御座いますよ

個人評価 ★★★★★ ★★★☆☆
1999年12月11日
(2000年10月19日、加筆・修正)
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