Aethyr 〜天使の領域〜 LOVE-GUN

1997年7月25日発売
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 首に鎖をつながれた少女の表紙。そして、背面には、やや謎めいたフレーズが踊ります。「Aethyr(アエティール)」なる単語が何語なのか、そしてどういう意味なのか、まるで見当もつかず、ふらふらと手に取ったCDケースサイズのゲームです。「中身の見当がつかない」ということは何を意味しているのか、となると、概して好結果とは無縁のものを見出すのみというのが通常なのでしょうが、意外なものを中に含んだゲームであったことは確かでありました。

シナリオ

 主人公は、女性ばかりの下宿に、いわばお情けで住ませてもらっている医大生。監視の厳しい管理人が不在の隙に、女の子を口説こうとあれこれ行動するが、なかなかうまくいかない。そんなお気楽な彼だが、夜ごと訪れる悪夢に悩まされる。この悪夢の正体は何なのか、そしてまた、真実はどこにあるのか。

 

 明るい面と暗い面とが交互にあらわれ、「真実はいったい何なのか?」と突っ込みたくなる設定自体は、なかなか面白く、また、登場する女の子に秘められたエピソードなどの出し方も、それなりに楽しめるものではあります。一見「なーんだ、先が読めるじゃないか」と思っても、それをあっさりと裏切ってくれるなど、意外性も示してくれます。

 評価するべきは、その「脳天気な明るさ」と「シリアスな暗さ」とのコントラストを出すという、典型的なパターンを使っているように見えながら、それにとどまらない「プラスα」を置いている点でしょう。内容の詳細に立ち入るのは控えますが、ストーリー描写そのものは非常に粗っぽいものの、それが描き出そうとしている方向性を見るかぎり、なかなかセンスの良さを感じます。やや暗めのシナリオでも問題ない、という方向けでしょう。

 ただ、1つ1つのストーリーが短いとはいえ、全体の構成自体はどのストーリーでも基本的に同じパターンとなっているので、話を無理に引っ張っているという印象は否定できません。さらに、どんでん返しを何度も何度も食らっていると、シナリオの数の多さがだんだん気に障るようになってきます。操作性が悪いことも相まって、プレイヤーの感性が完全に麻痺してきます。新しいストーリーが出てきても「ふーん……さ、次のエンディングさがそ」というスタイルになってしまうでしょう(って、オレだけか?)。

 

 少し気になったのは、主人公の行動原理が当初なかなか掴めなかったこと。もちろん「よくわからない雰囲気」をまず最初に持ってきている以上、特に不自然なスタイルではない、ともいえますが、それを差し引いたにせよ、どうしてこういう行動を取るのか、というのが不明瞭だったため、「…はい?」と思ってしまうケースがちらほら。不親切とはいいませんが、「下宿」というフィールドの中だけで彼が動くということの意味づけくらいは何らかの形でしてほしかったところではあります。

 その反面、「不可解な閉鎖空間」特有の「息苦しさ」を伝えるという点では、意外にもなかなか高い効果を出していたと感じます。キャラクターの表情自体に、やや「作り物」とさえ思えるような独特のカラーが付加されていることも相まって、どことなく「異様な世界」をあれこれ思わせてくれます。

 

 エンディングを迎えると、そのエンディング名が表示されますが、私にはさっぱりわからない、謎なネーミングのオンパレードになっています。その1つ1つにこめられた意味の解説ぐらいはほしかったところです。よほどマニアックな人でないかぎり、何もわからないと思うのですが。

 この点にかぎらず、シナリオのベースとなった「既存の」世界観があるはずなのに、それに対する説明はなく、「参考文献」がズラリと出されるだけ。理解したければコレを読め、という姿勢、エンターテインメントとしてよろしいものではないでしょう。独自の世界観を呈示するのなら、唯我独尊も1つの方法ですが、これはいただけません。

 

 細かい話ですけれど、エヴァのネタがけっこう入っていましたね。ご愛敬といえばそれまでですが、今となっては時代を感じさせます。

ゲームデザイン

 コマンド選択によってシナリオが分岐していくタイプのアドベンチャーゲームです。

 基本的に、「下宿」パートではメッセージウィンドウにテキストが表示されるオーソドックスなスタイル、そのほかのパートではテキストが全画面に表示されるビジュアルノベルスタイルとなっています。

 エンディングの数が非常に多く、それらをすべて見ていくことで、シナリオの全体像を明らかにしていくタイプのゲーム。さらに、舞台が二転三転するため、注意深くシナリオを追っていく必要がありますが、実際には分岐がどこか、に目を追われてしまいがちになります。シナリオ自体は悪くないと思うのですが、いかんせん分岐が激しすぎて、とうていシナリオを熟読する余裕などできません。どうしても「エンディング探し」が目的となったプレイとなってしまうので、中途で挫折しがちであると思いますが、全エンディングを終えて初めて「真実」が明らかになる、という体裁を取っているので、攻略データを参照して、ひとまず最後までプレイされることをお勧めします。

 下宿の中をうろついて行動し、その結果がエンディングを左右するわけですが、「下宿」と「悪夢」との関係が把握できるようなエンディングを迎えるころには、疲れ果てているのではないかと思います(^^;) ある程度心してかかったほうが良いでしょう。

 救いは、1回のエンディングに到達するまでの時間が、さほど長くないことですね。これで、ダラダラと続かれた日にはたまったものではありませんが、そういう「だれ」はありませんでした。

不具合・修正プログラム

 致命的な不具合はありませんでしたが、とにかく画面の切替が非常に遅く、かなりストレスが溜まります。

操作性など

 WindowsとMacintoshとのハイブリッド仕様になっています。任意のディレクトリにインストールできます。起動すると640×480ドットの画面表示となりますが、ゲームのクライアント領域以外は真っ黒となります。

 それにしても、処理の重さ、操作性のマズさといったらありません。反応がかなり鈍く、MMX Pentium200MHzのPCでは、人物の立ちCGが現れるのに2秒弱を要しました。

 さらに、鬼のように分岐が激しいくせに、セーブできるのはただの1個所だけで、ロードするにはトップメニューに戻らねばならず、それも、ロードすると、「セーブした1つ前の選択肢直後」に戻ります。メッセージスキップは一応ついてはいますが、下宿パートではほとんど意味がありません(^^;)

 CGモード・エンディング確認モードあり。ただし、CGモードは、見たCGを1枚ずつ表示するだけで、達成率もなにもありません。エンディング確認モードでは、見たエンディングが一覧表示されますので、ここでチェックする形になります。

 とにかく、操作性においてこれほどまでにストレスを溜めてくれるゲームは、そう多くありません。これからプレイされる方は、ある程度覚悟された方がよろしいでしょう。

サウンド

 BGMは、WAVE、MIDI、CD-DAから選択できます。あまりパッとした音楽ではありません。それよりも、効果音がいちいち耳障りで、ドアを閉めるたびに「ぐぁたん!」と、ものすごい響きがします。木造の下宿に、鉄の厚い扉がついているはずなかろうに(^^;)

 音声はありません。まぁ、このゲーム世界で音声があったら、非常に怖いものがありますが。

グラフィック

 河澄翔さんのキャラ原画。目がくりくりと丸く、そのぶんキャラが幼い印象を受けます。そのため、実際に幼いキャラは、実にいい感じです。その反面、大学生が中学生くらい、オトナのお姉さんがハタチ程度にしか見えませんけれど(^^;)

 ただ、人物原画がわりと良い反面、背景のショボさといったらありません。ベニヤ板にペンキを塗って、人のバックに立てたような感じです。あまりにものっぺりしているため、逆に「現実感を薄める」という効果を出している、という見方も可能ではありますが。

お気に入り

 堂本桜子(^^;) 桃子は却下(爆笑) 私にはロリの気はないと自分では思っているのですが、傍目にどう映っているのかはわかりません。まぁ、この種の嗜好は自分で判断できるものではないでしょうからヾ(^^;

関連リンク先

 成瀬せりあさんのレビュー(閉鎖)では、私とは対照的に(^^;)プラス面がうまく書かれていました。私自身も納得のいく評価ではあるんですが…システムがシナリオを殺していると思うなぁ、やっぱり。

総評

 目の付け所はなかなかいいと思いますし、シナリオの進め方も悪くはありません。ストーリーの展開に相当無理があったりしますが、それはそれで笑って済ませられると思います。

 しかし、シナリオの根幹部分がわかりにくい上に、トゥルーシナリオへ入るまでに要する手間の膨大なこと。エンディングの分岐つぶしというのはヒマな完璧主義者に任せておけばよい、というのも、それはそれで一理あります。しかしながら、全エンディングを終えないとトゥルーシナリオへ入れないという構造は、プレイヤーに無駄な労力を強いているとしか思えません。

 シナリオづくりのセンスに光るものがあっても、それを組み立てる段階でまず失敗、さらに、異様に重くてセーブ&ロードのやりにくいプログラム。

 良い点が多々ありながら、マズい点がすべてを台無しにしてしまっているとしかいいようがありません。

個人評価 ★★★★★ ★☆☆☆☆
1999年9月17日
(2000年7月3日、加筆・修正)
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