「後ろに避難してください」‐。傾いた電車内に、落ち着いた声が響いた。高砂市の山陽電鉄荒井駅西側の踏切で12日に起きた脱線事故。ホームに乗り上げた特急電車の1両目に乗車していた高砂市の主婦(51)は、角銅祐也(かくどう・ゆうや)運転士(34)の冷静な対応に感心する。「おかげで取り乱すことなく行動できた。自分は大けがをしているのに…」
主婦は姫路で買い物をし、高砂駅前の自宅に戻る途中だった。「もうすぐ着くな」。そう思った瞬間、すさまじい衝撃と揺れを感じた。車内は粉じんが充満し、視界も悪くなった。
「どうすればいいです?」。若い女性の声が車内に響いた。すると「後ろの車両へ」と運転席から返事があった。
運転席の角銅運転士はこのとき、車両に挟まれて右脚を骨折。動けない状態だった。「苦しむ様子もなく、けがをしていることすら感じさせなかった」と主婦は振り返る。後ろの車両には行けず、乗客は割れた窓から脱出したが、「もし運転士が動揺していたら、私たちも混乱するところだった。乗客を最優先し、立派だった」とたたえる。
主婦は「衝撃の激しさから(運転士が)命を落としてもおかしくないと思った。一日も早い回復をお祈りしたい」と語った。
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