トップページWEB特集

WEB特集 記事一覧

  • 読み込み中

RSS

WEB特集

体罰を生まないために その模索は

2月12日 17時30分

笠原純也デスク

大阪市立桜宮高校で部活動中に体罰を受けた生徒が自殺した問題以降、各地の高校でも次々と体罰が明らかになっています。
こうしたなか、NHKはスポーツの全国大会に去年出場した150余りの高校を対象に緊急のアンケートを行いました。
その結果、回答した高校の40%近くで、これまでに部活動の指導で体罰が問題となるケースがあったことが分かりました。
同時に多くの学校では、体罰のない指導方法を確立しようとさまざまな模索を続けています。
アンケートの結果と学校現場の取り組みについて、社会部の教育取材班の笠原純也記者が解説します。

緊急アンケートの概要と結果

NHKの緊急アンケートは、大阪での体罰問題を受けて、高校で部活動をする生徒が多い野球・サッカー・バスケットボールの3つの競技で去年、全国大会に出場した高校、合わせて154校を対象に行いました。
先月から今月初めにかけて実施し、全体の68%に当たる105校から回答を得ました。
それによりますと、これまでに部活動の指導で体罰が問題になったことがあると答えた高校は全体の39%に当たる41校に上り、その半分近くが今から5年未満に起きていました。
体罰をした理由を複数回答で尋ねたところ、63%の高校が指導のためと答え、37%が生徒に違反行為があった、32%が士気を高めるためなどと回答しました。

ニュース画像

アンケートに答えたすべての高校に、大阪の体罰問題の背景に何があると思うかを複数回答で尋ねたところ、71%が試合に勝つことを優先しすぎる指導方法、いわゆる勝利至上主義を挙げたのをはじめ、53%がある程度の体罰は許されるという風潮があると答えたほか、20%が同じ顧問が長期間在籍していることと答え、スポーツ推薦など進学制度の問題を挙げる高校も5%ありました。

ニュース画像

体罰を生まない対策は

アンケートでは体罰を生まないための具体的な対策も記述してもらいました。
その中では、生徒との対話を重視して生徒と指導者が納得したものを作り上げる。
指導者が科学的なトレーニング方法を身に着ける。
教師が生徒を尊重する意識を持つため名前を呼ぶときに「くん」や「さん」づけを徹底するといった対策もありました。
アンケートに答えた高校を取材してみると、部活動での体罰のない指導方法を確立しようと、さまざまな模索を続けている姿がうかがえました。

ニュース画像

かつて体罰をしたこともある教師は

このうち4つの部活動が去年、全国大会に出場した新潟県の帝京長岡高校。
バスケットボール部の顧問・柴田勲さんは、かつて部活動の指導で体罰をした経験がありました。

ニュース画像

みずからも学生時代に体罰を受けていたこともあり、厳しい指導が生徒の技術を向上させ、意欲を引き出すと考えていたといいます。
ところが、こうした指導に限界を感じる出来事が10年ほど前にありました。
ある大会で格下のチームに敗れたとき、柴田さんは試合のあと、気持ちを奮い立たせようと生徒に厳しく当たりました。
しかし、生徒はついて来ませんでした。
このときのことを柴田さんは、「子どもたちのバスケットを楽しもうという気持ちを摘み取ってしまった」と振り返ります。

手をあげなくても

この出来事をきっかけに、柴田さんはそれまでの指導方法を見直すことにしました。
コーチングの講習会に参加したり、指導に定評があるほかの学校の監督に話を聞いたりしました。
そして、今取り組んでいるのが生徒にどんなプレーを期待するのか、一つ一つ丁寧に伝える方法です。
このやり方で本当に強くできるのかという戸惑いもあるといいますが、柴田さんは「なかなか難しいですけど、少しずつ生徒との接し方も変わってきました。何かプラスになるものを伝えられればいいなと思っています」と話していました。

ニュース画像

生徒主体の指導で全国優勝

おととし、高校選手権で全国優勝を果たした兵庫県の滝川第二高校のサッカー部。
体罰によらず、生徒を主体とする指導方法でチームを強くしてきました。
監督の栫裕保さんは、練習の前に必ず生徒一人一人と握手を交わします。
教師と生徒という主従関係ではなく、共に勝利を目指すチームメートだということを確認するためです。
生徒みずからが考えて動く「自主性」を育てたいと、栫さんは紅白戦でもほとんど指示を出しません。
ハーフタイムにも、まず生徒たちだけで話し合わせるようにしていて、栫さんが生徒に声をかけたのは1回だけでした。

ニュース画像

生徒がみずから課題を見つけていくという自主性を重視した指導方法を徹底してから、チームは1段高いレベルで戦えるようになったといいます。
栫さんはこうした環境を作りさえすれば、教師が生徒を力で従わせる必要はなくなると考えています。
栫さんは、「恐怖で選手を動かすというのは昔からある1つの方法だとは思いますが、それでは子どもたちが楽しくないと思います。子どもたちは楽しいから勝ちたくなるし、頑張りたくなるもので、私はその勝ちたいという思いを助けてやりたいだけなのです」と話していました。

ニュース画像

体罰を断ち切るには

それぞれの学校を取材して強く感じたのは、部活動が楽しくなくては生徒やチームは強くならないということ、そして体罰は、楽しいという気持ちを奪ってしまうということです。
アンケートには体罰を受けて育った人が指導者になって体罰を繰り返すという指摘も多くありました。
今回取材した学校の取り組みは体罰の連鎖を断ち切る1つのきっかけになりえるのではないかと感じました。

ニュース画像