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壮大な夢の果てに
豊川工陸上部の体罰問題を考える


(8)柔らかな感受性 歪んだ愛情・広い意味のDV

 教諭(50)の行為は広い意味でドメスティック・バイオレンス(DV)ではなかったか。
 教諭の体罰の特徴は、第一に激しく発作的なこと、第二に体罰の直後に、一転して優しい言葉で包み込むこと。第三に、暴言を吐くときは部員の保護者に対する否定的な評価が添えられること。第四に体罰を与えているという意識が極めて低いことなどだ。
 これは何を意味するのか。
 大阪市立桜宮高校のバスケ部顧問の体罰と比べてみよう。新聞報道で知る限り、バスケ部顧問の体罰は誰もいない体育館に呼び出し、前口上を述べた後、数十発の平手打ちをお見舞いし、捨てぜりふを残して去っていく。
 ひと言で表現すれば、嗜虐的な体罰だ。体罰に愉悦を覚えてしまった人間の一種の倒錯した行為でしかない。
 一方、豊川工教諭の体罰には愛情がある。ただ残念ながら、それは部員を静かに温かく見守る愛情ではなく、自分の理想を体現した人格になってもらいたいと熱望する一方的な愛情だった。
 理想が体現されない場合は、カッとなって手が出る。本人は、指導と思っているから反省を伴わない。保護者の批判は、保護者の存在が理想の部員に育てる障害と感じられるからつい吐かれる。
 DVに陥る人間は、神経過敏で傷つきやすい人が多いという。
 今も印象に残る教諭の言葉がある。大学生だった教諭は箱根駅伝を走りたくて、来る日も来る日も練習に明け暮れた。選手に選ばれる手応えはあった。だが年末のある日、風邪をひいた。駅伝部のマネージャーが来ていった。「ほかの選手に感染ると大変なことになる。悪いけど、布団と一緒に合宿所から出て行ってくれ」。
 この傷つきやすく柔らかな感受性が、教諭を一流の指導者に押し上げた。部員たちに胸襟を開き、わが子のように接し、人間性と競技力を伸ばした。しかし、強豪校になるにつれ、部員との関係に少しずつ軋(きし)みが生じ、指導にも歪(ゆが)みが出始めてきた。

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豊川工陸上部の体罰問題を考える メニューへ 2013年2月11日紙面より抜粋



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