「中国国盗り物語」

中国共産党も知っていた、蒋介石が「尖閣領有を断った」事実

バックナンバー

2013年2月14日(木)

3/4ページ

印刷ページ

 1943年12月1日に出された「カイロ宣言」には以下のような文言がある。なお、文中にある「同盟国」というのは第二次世界大戦で日本・ドイツ・イタリアと戦った連合国側を指す。

●同盟国の目的は日本国が1914年の第一次世界戦争開始以降に奪取または占領した太平洋における一切の島嶼を剥奪すること、および満洲,台湾および膨湖島の如き、日本国が清国人(中国)より盗取したる一切の地域を中華民国に返還することにある。

●日本国はまた、暴力および貪欲により日本国が略取した他の一切の地域から駆逐されなければならない。

●(カイロ会談に参加した)三大国が朝鮮の人民の奴隷状態に留意して朝鮮を自由かつ独立国家とさせることを決意する。

●日本国と交戦している諸国と協調して日本国の無条件降伏を目指すこと。

 この宣言はあくまでもコミュニケに過ぎないが、しかしここで宣言された内容自体は1945年7月26日に出された「ポツダム宣言」に受け継がれている。日本との終戦協定であるサンフランシスコ平和条約にも、このポツダム宣言が盛り込まれているので、カイロ宣言はサンフランシスコ平和条約の中で生きていることになる。

 重要なのは、ここに書かれた「一切の島嶼」「一切の領域」の中に、「琉球群島」は含まれてないことが、「カイロ密談」で明確になったということだ。琉球群島とは言うまでもなく沖縄県のこと。1895年の時点で、尖閣諸島は沖縄県に編入されていた。その沖縄県を「中国にあげるよ」とルーズベルト大統領が蒋介石に言ったのに、蒋介石は再三にわたって断っているのである。

 なぜか――。

共産党との戦いを優先した蒋介石

 様々な理由が考えられる。私は、国民党の蒋介石は日本と新たな摩擦を起こすより、毛沢東が率いる中国共産党を倒すことに全力を注ぎかったかたらではないかと思う。

 ちなみに中国の二つのウェブサイトは、この部分の記述に関して「日本を恐れるあまり、二度も断る」という小見出しがついている。

 国民党と共産党の間で戦われた「国共内戦」は、第二次世界大戦中も何度か戦われていたが、終戦後(特に1946年以降)から激化して1949年10月1日に中華人民共和国が誕生した。惨敗した蒋介石は台湾に逃亡し、亡命政府である「中華民国」を継続、国連にも創立時から加盟していた。しかし1971年にはついに国連から脱退している。「中華人民共和国」が国連に加盟したからである。

 蒋介石は結局、国共内戦に敗れ去る。しかしルーズベルトと秘密会談をした時点では、日本との揉め事が起こるリスクを避け、全ての力を中国共産党打倒に注ぎたかったのだろう。彼は中国の覇者になることを優先して、明確に「尖閣諸島を含んだ琉球群島=沖縄県の領有を拒否した」のだ。

 しかし「カイロ密談」の後、実は蒋介石は琉球群島領有を断ったことを、ひどく後悔した。密談後、「果たしてこれで良かったのだろうか」と悩み、王寵恵にこっそり悩みを打ち明けたというのだ。

 「中国共産党新聞網」と「新華網」の情報の、最も興味深い部分はここにある。

 二つの記事は続ける。以下は、新聞記事の後半部分の紹介である。

王寵惠:琉球の戦略的位置は非常に重要だ。もし軍事的視点から言うならば、われわれには必要だ。

蒋介石:でもそんなことをしたら、将来、日本といがみ合うことになると思う。そうなったら、どうするんだ?

王寵惠:いや、いろんな角度から見て、琉球は歴史上われわれの付属国だ。われわれにくれるというのは理にかなっている。日本が文句を言うというのは道理が立たない。

(蒋介石は王寵惠のこの言葉を聞いて、少し後悔し始めた。)

蒋介石:もしそう言うんなら、なぜ(あのときに)君はそう言わなかったのかね?

王寵惠:ルーズベルトが最初に琉球をわれわれにくれると言ったときに、あなたは中米が共同で占拠し、共同で管理しようと言ったた。私は委員長(蒋介石)の部下として、委員長と意見を一致させていなければならない立場にある。

 「中国共産党新聞網」と「新華網」はこのように二人の会話を公開し、蒋介石のさらなる秘密を暴露している。以下、ふたたび記事からの引用である。


バックナンバー>>一覧

関連記事

参考度
お薦め度
投票結果

コメントを書く

コメント[0件]

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

 1941年、中国長春市生まれ、1953年帰国。理学博士、筑波大学名誉教授、東京福祉大学・国際交流センター センター長。(中国)国務院西部開発弁工室人材開発法規組人材開発顧問、(日本国)内閣府総合科学技術会議専門委員、中国社会科学院社会学研究所客員教授などを歴任。

著書に『ネット大国中国――言論をめぐる攻防』(岩波新書)、『中国がシリコンバレーとつながるとき』『中国動漫新人類〜日本のアニメと漫画が中国を動かす』(日経BP社)『拝金社会主義 中国』(ちくま新書)『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『チャーズ 中国建国の残火』(ともに朝日新聞出版) ほか多数。2児の母、孫2人。

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事