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九十六話 勇者カニカマの冒険 4
 俺の家の中はきっといまプチファッションショーみたいな状況だろう。

 玄関でボーっとしながらカワズさんの演武を眺めていると、ひん剥かれては、着せ替え人形にされていると思われる被害者の悲痛な叫びが聞こえて来たような、来ないような。

「うーんやっぱりボリュームのある子だとこの手の衣装は今一かしら?」

「ふむ……だがこっちはなかなか髪の色には映えるな。しかしやはりもっと細型の体系向きの衣装なのかもしれない。うちのハイピクシー達にもためしてみるか?」

「女王様! もう勘弁してください!」

「お黙りなさい! 今いい所なのです!」

「女王様、もうちょい心持ちリボンの位置、下の方がよくないっすか?」

「トンボ……ここではクイーンで統一するように」

「はい! クイーン! あ、わたしが持っときますよ?」

「ふむごくろう……そうだな。やはりここは……」

「コラトンボ! この裏切り者!」

 そしてさっきからマオちゃんと女王様に便乗した方が被害が少ないと踏んだらしいトンボの声も聞こえている。

 察するにのこのこ出ていって捕まったのだろう。

 今の所はうまく立ち回っているようだが、餌食になるのもおそらく時間の問題だと思われる。

 もっとも着せ替え人形になるのも、トンボならそれなりに楽しみそうだが……。

「……いやはや、みんな楽しそうで何よりだねぇ」

「そんなこと言っちゃってええのかのぅ」

「別に色んな服が着れるのは悪い事じゃない」

「そりゃそうじゃけどな」

 それでも巻き込まれずに済んだことは素直に喜んでいいとは思う。

 さてこのまま蚊帳の外で、ボーっとしているのもまた一興なのだが、どうやらそうも言ってはいられないようで。

 俺は面倒くささのあまり顔をしかめた。

 ピリリと今日に限って、感じなれた違和感があって、俺はあまりに無粋なタイミングに一つ溜息をつく。

 千客万来という言葉もあるが、今日は本当に客に縁のある日らしい。

「……今、何か結界を抜けたよな?」

 一応カワズさんに確認すると、カワズさんも俺に目配せをしていた。

 その目は心持ちいつもよりも鋭く、恐らくは今回、知り合いではないと確信しているのだろう。

 若干緊張した面持ちのカワズさんはすぐに上着を着直していた。

「ああ。そうみたいじゃな。マオちゃんが抜けた隙を狙らわれたかのぅ。さてさてどうするか?」

「どうするも何も、どうにかするしかないでしょ?」

 まぁどうにかするというか、どうにでもなるのだろうが、それはそれ。

 何かしなければならないのは間違いあるまい。

 何が出るかと俺なりに集中力を高めていたら、肝心の侵入者よりも先に家の中からけたたましい音がして、びくりと身をすくませた。

 間髪入れずに玄関がはじけ飛び転がり出てきたのは、いつもの格好のセーラー戦士だった。

「……! まった! 私も見に行くから! 絶対行くから!」

「あ、逃げ出してきた」

「中の二人も気が付いたんじゃろ?」

 あー、それで隙が出来たか。

「……まぁよかったよね。色んな服が着れて」

「……言いたいことはそれだけかい?」

 ただ誤算だったのは、しっかり見捨てたことを根に持たれていたらしいということか。

 ガツンと一発。

「あうち……」

「もう! 身の危険を感じたじゃないか!」

 まぁそんなに強めでもなかったけど、セーラー戦士にいきなりげんこつを食らってしまいましたよ。

 お怒りのセーラー戦士はよほど怖かったようで涙目だが、無力な俺にはあれ以外の選択肢はなかったのだ、たぶん。

「すんませんでした。ですが俺達も身の危険を感じただけのだだの弱者にすぎないのです」

 ほら、実際の人間関係って、魔力とかあんまり関係ないので。

 しかしあの二人を出し抜いてきたのは素晴らしい。

 乱れた着衣を直ししつつ、いつもの格好に戻っているセーラー戦士に、なかなかやるものだと感心していると、今度こそいよいよ本当の侵入者様のご到着の様である。

 その数は……全部で三人だった。



 ざっと見た目を説明すると、白いの。ちっこいの。ネコ耳。

 うむ。実にバラエティ豊かすぎる。

 ただなにをどうしたかは知らないが、マオちゃんの襲撃で超えるべき難所はほとんど存在しないとはいえ、それでも許可されていない者が霧の結界を無理やり抜けるのには、それ相応の実力が必要になるだろう。

 つまり、相手の力量はそれなりに保障されているというわけだ。

 さてどうしたものか?

 俺は考えを巡らせてみたが、ろくなアイデアは浮かんでこなかった。

 ここを守るという約束もあるし、追い出すのは簡単だが、実質自力でここまで来た最初の人間である。

 それに結界を破った以外、特に何をしたわけでもない。

 迷い込んでこれる場所ではない以上、何か用事もあるのだろうし。

 しかし個人的にそれにも増して気になるのは、男の子一人と女の子二人というメンバー構成だろうか。

 なんというリアルの充実っぷり。

 全員に共通して言えることは、三人とも驚くほどにかっこよかったりかわいかったりすることだったりするのだから、なんと言うか……爆発しろ。

「……ちくしょう。また美形枠かよ。ホントいい加減にしろって感じだよな。ねぇ、カワズさん?」

「なんでわしに振った? 言っとくがわしは生前ナイスミドルで通っとったからな? もちろんモテモテじゃよ?」

「マジでか……ケツ爆竹しろ」

「……なんだかとっても不吉な単語じゃなぁ」

「二人ともちょっとは緊張感持とうよ」

「よく言われるよねそれ」

 おっとセーラー戦士に窘められてしまった。

 ここはそろそろちゃんとしないとますますバカにされそうだ。

「……ここは」

「すごいですわね……。こんな場所があるなんて」

「……うにゃ」

 そんな台詞を口にして混乱している三人組に、さてと俺は重い腰を上げると、お客様用の作り笑いを用意してみた。

「ようこそ妖精郷へ♪」

 まぁなんという白々しさ、自分で言っていて驚いてしまった。

 全然歓迎していないのはバレバレである。

 ここまで来たことに敬意を払って、迎えてみることにしたのだが普通にしてればよかった。

 だけどさっそく、そうしたこと自体を後悔するとは思わなかった。

 ニコリとほほ笑む俺の前に進み出た、なんだか真っ白い女の子。

 白くて巫女っぽいので仮に和風に『巫女さん』と呼ぼう。

 巫女さんは俺の挨拶など全く気にした様子もなく、ツンと澄ました態度で言い放ったのである。

「貴方がここの管理者ですか。まさか人間だとは思いませんでしたが。それならそれで都合が良いですわ。
わたくし達はヴァナリアからやって来ました。*****と言います。
使者と、そう考えていただいて結構です、話を聞いていただけますわね?」

「……はぁ、使者ねぇ」

 言葉の先制パンチに思わず返答したが、この高圧的な態度をどこまで信用したものかは考え物だろう。

 そして彼女の発言に地雷がとても多いことに気がついたからさあ大変だ。

 嫌な予感がしてギギギとすべりの悪い首で自分のすぐ後ろに視線を向けると、なんだか見たこともない顔で、どす黒い殺気を立ち昇らせている、女の子を発見してしまった。

「あー。お願いだからいきなり斬りつけるような真似は勘弁してね?」

「……お気遣いありがとう。何とか……頑張ってみるよ」

「……」

 あー、よかったー……一言かけておいて。

 セーラー戦士がちょっとやばい感じです。

 しかしまた面倒くさい所からやってきたものだ。

 ヴァナリアという国は狙ってやっているんじゃないかと勘繰ってみたり。

「……さてどうしよう? なんだか対応に困る人達がやって来たぞ?」

「声に出とるぞ。隠すべき所が」

「だって隠そうとしてないもの」

「さよけ」

 そう言うカワズさんもたいそう面倒くさそうだぞ?

 俺だってついつい心の声も漏れてしまうというものだろう。


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