九十三話 勇者カニカマの冒険 1
「少し聞きたいことがあるんだけど……いいですか?」
「え? えっと……お兄ちゃんは?」
リボンの少女はその日、村の入り口でおかしな人に声を掛けられた。
武装している所を見ると外の人のようだが、話しかけてきた彼は森に探索に来たと言うにはおかしな雰囲気だった。
着ている鎧が。持っている剣が。あまりにも綺麗で豪華すぎるのだ。
一般的なここに来るような人達は、もっと薄汚れた格好をしていることが多い。
そして何より彼はあまりにも整った顔立ちをしていた。
この辺りでは珍しい黒い髪に、幼い容姿。
背はそう高いわけではないが、まるでどこかの王子様の様である。
だからこそ、少女は困惑する。
そんなまるで貴族の様な人が、彼女の様な村娘に声をかけることなどまずないからだ。
硬直してしまったリボンの少女に、少年はバツの悪そうな顔をしていた。
「僕は……傭兵みたいなものかな?」
「ええっと……傭兵さん? 貴族の人じゃなくて?」
少女の意見に少年も苦笑いである。
「はは、そんな風に見えないですか?」
「うん。とっても綺麗だったし」
少女は反射的に頷くと、少年は居心地の悪そうな態度で頭を掻いた。
「いや、そんなことはないと思うんですけど。ああ、それより質問しても?」
「あ、はい。いいですよ。その代りうちの宿に泊まってくれるととてもうれしいですね」
少女としては当然の要求である。
だけどその台詞を聞いた少年は再び曖昧な笑みを浮かべていた。
「ああ、いや……困ったな。これから森に入る予定なんです」
「ええー」
歳の割に現金な少女は、不満を隠そうともしない。
ちょっとだけ気まずい空気が流れ始めたそんな時、タイミングよく少女と少年に声が割って入ったのだ。
「うにゃ? 女の子に情報収集させておいて、自分はナンパかにゃ?」
「何を言うんですか! この方がそんな破廉恥なことをするわけがないでしょう!」
声をかけたのは女性の二人組である。
しかしその二人は、思わず少女が驚いてしまうほどやはり綺麗な人達だったのだ。
一人はすらっとした感じの獣人の女性だ。
猫の獣人らしく、しっぽと大きい耳が見えるが、それ以外はあまり人と変わりがない。
しかし釣上がり気味の目が目を引く、飛び切りの美少女なのは間違いないだろう。
そしてもう一人は、一言でいうなら白ずくめの女の人だ。
こちらはおそらくは宗教関連の、白い法衣に身を包んでいるが、それ以上に真っ白な髪と肌が印象的な人だった。
同じく美少女である。
三人並んでいると、いっそ人というよりも、妖精の一団だと言った方がしっくりくるくらいで、こうもカッコいい人ばかりだと、世の中は不公平だとだれもが嘆くことだろう。
まぁ、よりいっそうどんな集まりなのかわからないが。
そんな彼らは、さっそく自分達の成果をお互いに交換している様だった。
「こっちは全然ダメにゃ……」
「わたくしもです。やはり……あのような噂を鵜呑みにするのはどうかと思いますが」
「それは別にいいじゃにゃい? ちょっとくらい寄り道したって」
「そうは言いますけど! ……わたくし達には使命があるのですから」
「あんまり気負いすぎるのもどうかと思うにゃ? それに誰の勘だと思ってるにゃ?」
「……それはそうですけど」
「本当にごめん……。僕のわがままで」
それを聞いた少年がすまなさそうに頭を下げると、今まで棘のあった二人の言い合いは一転して、少しだけ慌てたものに変わっていた。
「全然気にしなくていいにゃ! 私ならこのくらい、君のためなら全然平気なのにゃ!」
「い、いえ! 貴方が謝ることではありません! わたくしも少々口が過ぎましたわ!」
ははーんと少女は思ったが、口に出さないくらいには大人である。
それよりも、先に尋ねておきたいこともあった。
「ねぇ……お兄ちゃん達って結局なんなの?」
少女は結局謎の集団という事以外、なにもわからない彼らに、思い切って尋ねると。
「ああ、僕達は……」
「お嬢ちゃん? 口の聞き方がなっていませんわよ? この方は魔王討伐を志す勇者様! この大陸の救世主になるお方なんですから!」
しかし言いかけた少年を遮って、白い女の人が言った台詞に、少女はただただ声を出すことしか出来なかった。
「……へー」
「な、なんかごめんね? 僕達はこの辺りで魔法使いを探しているんです!」
何となくいたたまれない空気を察したのだろう。少年が慌てて付け加えていたがフォローできたかは微妙である。
「魔法使い? 魔法使いならたまに来ますよ? この先の森には珍しい薬草が沢山あるし」
だが少女とて、伊達に商売をしているわけではないのだ。
すぐに今までのことはすっぱり忘れて、話を合わせるのみである。
しかし別にでたらめという事はないだろう。ここはアルヘイムに隣接する村だけに、装備を整えて珍しい品物を求めて採集に来る人間は後を絶たない。
そう言った意味で、魔法使いと呼ばれる人達が多いのは嘘ではない。
だが少女の答えは、勇者と呼ばれている少年が求めていたのとは少し違っていたらしい。
「いや、普通の魔法使いじゃなくて。もっとすごい……」
「すごい?」
「ああ、ええっと……」
そこでためらいがちに口ごもった少年は、ようやく覚悟が固まったのか、少女にこう説明する。
「えっと、なんでも願いを叶えてくれる魔法使い……なんだけど」
「……へー」
少女と勇者が出会ったのは他愛ない出来事だったが、この後彼女が思い出した魔法使いの話を聞いて少しだけ事は動き出す。
それが数日前の出来事である。
どうもくずもちです。
にじふぁん終わってしまいましたね……。
沢山の作品が見られなくなってしまうのはとっても残念ですが、こうなってしまったものは仕方ありません。
というわけで、にじふぁん内でupしていた小説をブログに少しづつ上げてなおして見ることにしましたので、こちらもよろしればどうぞ^^
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