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六十話 そして俺は灰をかぶる 3
 セーラー戦士とカフェで待ち合わせと言うドキドキわくわくイベントなわけだが、まぁ当たり前の事ながら何があるわけでもない。

 実際話し始めると他愛ない雑談程度の話である。

「今日は一人なんだね、他にも誰か来るかと思ってた」

「あーいや、最初はそのつもりだったんだけど、駄目だった。
この間ドワーフの里に言ったんだけどさ。ナイトさんにファンが付いちゃって、色々装備を送ってくるわけよ」

 ここ数日、その対応で相当忙しかったのだからたまらない。

 俺が材料を置いてきたのも一因なのだが、鉄は熱いうちに打てとばかりに、装備を量産するのはやめてほしい。

 おかげで連日、パソコンの転送器はフル稼働状態なのだ。

 セーラー戦士はそんな俺達に、何をやっているんだかと呆れ顔だった。

「それは結構な話だね。でもそれでなんで忙しくなるのさ? プレゼントを受け取るだけなんだろ?」

 不思議そうに言われたが、ところがそうは問屋が卸さないのだよ、セーラー戦士よ。

 俺は忙しさの原因を思い出して痛むコメカミを押さえた。

「……それがさぁ、ドワーフ達が俺やカワズさんに魔法を掛ける依頼をしてくるんだよ。
命もかかってるわけだし、手を抜くわけにもいかないだろ? それでてんてこ舞いなわけ」

 自慢ではないが俺と言う存在は、そん所そこらの魔法使いには負ける気がしない。

 それがわかっているのか、ドワーフの方も無理難題をふっかっけて来るわけなのである。

 後になって本人達は冗談のつもりだったと聞かされた時はさすがに殺意を覚えたが、おかげで、恐ろしい代物が多々出来そうだと、自負していた。

「それじゃあ太郎さんがいなくちゃまずいんじゃないのかな?」

 心配そうになったセーラー戦士に、だが俺は気楽に大丈夫だとひらひら手を振った。

「あー、そこはダウンロードして魔法陣だけ写してきたから。
後はカワズさんがナイトさんでも使えるように改造するだけだろうし。
でも時間はかかるだろうから、今必死にやってんじゃないかな?」

 だが、事本格的な魔法陣の改造ともなれば、俺などいるだけ邪魔だろう。

 カワズさんは魔法を知れば知るほど、その分野において天才だと言う事を俺は実際見て知っていた。

 ひょいひょいとまるでパズルでも解くように複雑奇怪な魔法陣を作りかえる様子は芸術的なのである。

 俺も横で見ていていらっとするぐらいなのだ。

 カワズさんは俺にもやらせたいようだが、とてもじゃないが一朝一夕で出来るようなものではないと確信している。

「……どうせまた、非常識な魔法なんだろう? カワズさんかわいそう……」

 セーラー戦士はジト目だが、それはとても心外だと言わせてもらおう。

「大丈夫だって、嬉々としてやってるだろうし。俺だって頑張ったんだ。何せ材料と魔法は俺提供だからね?」

 その上、パソコン関係はすべて俺の役目なんだ、何もしていないわけじゃない。

 もっとも半分逃げてきたのは否定しないが。

 俺が、これ以上追及されたらボロが出るなと内心ヒヤヒヤしていたら、さして興味のある話題ではなかったんだろう、セーラー戦士は割りとあっさりと追求をやめてくれたわけだが、今度はコーヒーをまた一口飲んでから、妙な間で一拍おいて話題を変えてきた。

 「ならいいんだけど……それよりも、せっかくの機会だから聞いておきたいことがあるんだけど……問題ない?」

 口調こそ雑談に普通に交るような質問だった。

 しかしその瞬間、少しだけ空気が変わるのを俺は感じていた。

 セーラー戦士の表情も心なしか鋭い。

 これは俺も心持ち浮かれた気分を切り替えて、返事を返さなければならないようである。

「なに? 全然いいけど?」

 とは言っても俺にはセーラー戦士が興味を持ちそうな事で隠さなければならないことなどほとんどないが。

 そんなに気を張る必要もないと思うけど、念のためだ。

 俺がそれとなく佇まいを正すと、セーラー戦士は、手を組んでズバッとなんとも簡潔に尋ねてきた。

「なら遠慮なく、太郎さんが召喚された時の事を聞かせてくれないかな?」

「あー、召喚された時の事か。そういえばちゃんと話してなかったっけ?」

「うん、何か私達とは少し違う召喚みたいだったから、気になってはいたんだ。
でもカワズさんがいたんじゃそんな話もし辛いだろ?」

 しかしセーラー戦士は多少言いづらそうではあったが、そこはあっさり流しておいた。

「……まぁ確かに、言われてみればカワズさんも召喚した側の人間だしなぁ。
今一信用しきれないのもよくわかる。
OK、俺が教えられた範囲でいいなら答えるよ」

 セーラー戦士がその辺りを気にする気持ちもわかるし、問題はない。

 心良く承諾すると、セーラー戦士はほっとなぜか安心した様子だった。

「よかった。ひょっとしたら答えてくれないかと思っていたんだ。太郎さんとカワズさんは仲がいいから」

「まさか、それこそありえないって」

 いつも喧嘩が絶えませんよ。

 本当に、実際いつか決着をつけようと思っているくらいである。

「それでどんなことが聞きたい?」

 とは言っても召喚の理屈ならこの間話したし、何か言い忘れがあったか考えていたら、セーラー戦士は気になるポイントがあるらしかった。

「そうだな……召喚された時、どうだった? 具体的にどう違っていたとか?」

「どうだったと言われても……実際勇者とやらの召喚を見たわけじゃないから何とも。
あの時は、とりあえず夢の中にカワズさんらしき爺さんが出てきて、俺に魔力を渡すとか言い出して……」

 せっかくの質問なので、真面目にあの時の事をうろ覚えながらトレースしていくと、俺のたどたどしい台詞にさっそく待ったがかかる。

 何か変なことを言ったかと、俺が言葉を止めると、セーラー戦士の眉間には激しく皺が寄っていた。

「夢の中で? こっちに君を呼び出してから、何かの魔法を掛けたって事かな?」

「いや? 向こうにいる時に、夢の中で色々されて……それから召喚されたっぽい?」

 あやふやな感覚だったが、思い出してみるとそういう感じである。

 確かに夢の中で話をして、その後に妙な感覚に襲われた。

 だがそれがまずかったらしい。

 セーラー戦士は見てわかるくらいに表情を強張らせていた。

「……え?」

「え?」

 またなにか俺はおかしなことを言っただろうか? 

 慌てた様子のセーラー戦士は言葉を続けた。

「ちょっと待って、それって召喚される前にカワズさんに会ったってこと?」

「あー、まぁそういうことになるのかな? 夢の中だったから今一自信ないけど」

「それってカワズさんが向こうに行く方法知っているって……こと?」

 恐る恐ると言う風に尋ねてくるセーラー戦士に俺はああとうっかりしていたことに気が付いた。

 そりゃそうだ、スタート地点に答えがあったなんて笑えない。

 しかし、あれは実を言うとセーラー戦士が求めている答えとは明らかに違うものなのだ。

 俺はなんといった物かと考えたが、結局聞いた通りに言うことにした。

「あーいや、それはちょっと違うみたいよ? 俺、その辺はカワズさんから少し聞いたし。
あれは……そう、裏ワザみたいなもんでさ。タダ同然で向こうの世界に行く方法ってのがあるんだよ」

 だがそれは、送還とは決定的に異なるのである。

「その言い方だと、ただ隠していたってわけじゃないみたいだね。……じゃあ、やっぱりそれって、そう簡単なことじゃないとか?」

 セーラー戦士は慎重に言葉を選んでいるようだが、簡単かそうでないか。

 それは難しい問題だった。

 端的に言えばすごく難しいが、実行しようと思えばだれにでも出来る。

 狙って出来るのは優秀な魔法使いだけだろうと思うけど、セーラー戦士なら不可能でもないだろう。

「あー、いや、見様によっては簡単かな? 要は死ねばいいんだよ、ぽっくりと」

 そして俺はごくあっさりとそう告げたのだ。

 それを聞いた時のセーラー戦士は説明の意味を把握し切れなかったのか、自分自身を落ち着かせるように、慎重に次の言葉を絞り出す。

「……死ぬ? なんでそんな?」

「まぁ魂だけなら、行き来するのはタダ同然でOKなんだってさ。
カワズさんの話じゃ俺達の世界と向こうの世界は、あの世って意味じゃ繋がってるんじゃないかって。
日本風に言うなら輪廻転生って言うのかな? 死んで新しいものに生まれ変わるのは何も、一つの世界に限らないとかなんとか。そういう仕組みみたいよ?
さすがにはっきりした所まではカワズさんも知らないみたいだけど」

 だが考えてみると、すさまじい話である。

 ひょっとするとこっちの世界で冒険活劇をやらかした誰かが、向こうの世界で転生しているのかもしれないと。

 だとするなら転生戦士の出来上がり……ロマンである。

 セーラー戦士はいつの間にか浮いていた腰を椅子に戻して、ため息交じりに言った。

「じゃぁその方法じゃ、生きている人間は向こうには行けないて事で間違いない?」

「そう。カワズさんも死ぬつもりじゃなきゃ出来なかったらしいよ。思い切ったことするよね」

 セーラー戦士の念押しに俺もそれをしっかり肯定した。

 カワズさんの話では、その時に使用したのは、向こうの世界に魂を飛ばす魔法、適合者を探す魔法、さらに自分の魔力と魔法を受け渡す魔法、夢枕に立つ魔法、翻訳魔法、最後に俺を向こうに召喚する魔法を全部一まとめにしたものだったようだ。

 魂になってから魔法を使える保証がなかったため、全財産で魔石をかき集め、すべての魔力を使い切る気で実行したのだという。

 成功確率は相当低く、それでもきっちり成功させる当たり、カワズさんも大概だ。

 ただ向こうの世界ではやはり魔法関連の技は使いづらかったらしく、正解だったと笑っていたが。

「はぁ……確かにそれが本当ならあんまり意味がないかもしれない」

 期待していたほどの成果がなかったからか、どこか落胆したようなセーラー戦士には悪いが、こればかりは諦めてもらうほかないだろうと思う。

「まぁそういうこと。幽霊になって帰った所で、うれしいのかどうかさえ分かんないし。俺も調べてみたけど嘘じゃないっぽい」

 だからこそ、有益な情報の選択肢に入らなかったわけだが、セーラー戦士はどうにか納得はしてくれたようだった。

「それならいいんだけど……。ありがとう、そしてごめんね? なんだか疑うようなことを言ってしまって」

「あーいや。俺も含めて相当胡散臭いのは自覚はあるし、仕方のない事だろうと思うよ?」

 俺としてもカワズさん含めて不審人物度はどこの誰よりも高い自覚はある。

 それにまぁ……現状カワズさんだってもう何も隠してないってことはないんだろうけど。

 そもそも隠し事の一つや二つ、誰にだってあることだろうし、その辺りは気にしていたってきりがない。

 だが俺の台詞は卑屈に聞こえたらしく、セーラー戦士は俺の方を見て困り顔だった。

「そんなことないよ。とりあえず私は太郎さんの事をある程度信用してるよ? 魔法の事だって嘘だと思っていたら、君達を見張っていた方がよほど効率はいいだろうしね」

 なんてことをあっさり言ってくるわけだ。

 いやまぁその通りなんだけど、それはそれで複雑である。

 信用されたから旅立ったか、……てっきり信用がないからだと思ってた。

 だけど俺は思うのだ。

「あー、まぁ、信頼ってやつは難しいもんだよ。そんなに無理して口に出す必要ないし。どっちにしたってこの先もしばらくは顔を合わせることになるんだから、その時にでもゆっくり評価してくれればいいさ、そうだなぁ……とりあえず手短な目標として、名前の後の「さん」なしで呼び合えるぐらいの信頼度を目指してみるとか?」

 そもそも信頼なんて、俺達ぐらいの付き合いでそうホイホイもたれては、それこそ問題があるような気がするし。

 セーラー戦士はなんだか変な顔をしていたが、ぷっと吹き出して「そうかも」と頷いていた。

「それくらいなら今すぐにでも。でもそうだね、それじゃあそうさせてもらおうかな? でも、やっぱり太郎は損な性分だと思うよ」

 おや、あっさりとまぁランクアップしたものである。

 セーラー戦士にはくすくすと笑われてしまったが、そうだろうか?

 まぁ問題があるとしたら、この先行動で俺が信頼出来る人間だと思わせることが出来るのか? という事だが……。もはや手遅れだな、うん、その辺りは気にしない事にしよう。



「それより旅の成果のほどはどうよ? あれから?」

 ひょっとしたら全然成果がなくてへこんでいるんじゃないかと心配していたのだが。

 表情をなんとなく伺うと、セーラー戦士はそこまででもないようだったが、やはり難しい顔のようである。

「うーん、それは今一だね。そもそも最近は旅も大変なんだ。
物価が上がって何を買うにもお金がかかるし、魔獣の動きも活発だからね。
暴れているのは魔獣に限った事でもないみたいだけれど……。それでも何とかやっていけてるって感じかな?」

 彼女の事だから何か奇跡的にうまい事やっているかもなんて虫のいい想像もしていたのだが、さすがにそんな事もないらしい。

 だがまぁ予想以上に物騒な世間話に俺も困惑していた。

「何それ?」

「んー、色んな国で戦の準備に余念がないってことかな? 噂じゃ新しい魔王が出てきたとか。
でも……きな臭ささに拍車をかけてるのは間違いなく、あのヴァナリアだね」

 魔王出た!

 俺は早速タイムリーな話題に顔をしかめた。

 最近もそんな話題を聞いた気がしたが、こうやって身近な人間から聞くと迷惑具合がぐっと跳ね上がる。

 そして、セーラー戦士と因縁のあるヴァナリアまで係ってくるとなると精神的にも穏やかな旅とはいかないだろう。

 実際、その名前を口にしただけで、セーラー戦士の不愉快さがかなりアップしたようだった。

「あー、あの国。またろくでもないことやってるってのはなんとなくわかるかも」

「そうだよ。最近じゃ魔石や奴隷を買い集めているらしいし。目的は軍備の増強と……それと、もしかすると私の時と同じことをするつもりかもしれないね、まったく忌々しい」

 そう言って、セーラー戦士は顔をしかめて無意識だろうが爪を噛む。

 これはまた、血なまぐさい話が出てきたものだ。

 俺は不快な話にどう反応したものかと、正直迷った。

 人と魔石、共通して言えることは魔力を奪い取れるという所である。

 そしてそれは、なんにせよ大きな魔法を使う事を意味していた。

「……また召喚?」

 心当たりを口にすると、セーラー戦士も荒々しく頷いていた。

「たぶん。強い手駒が欲しいんだろう?
私でもわかることだから、周囲の国も魔王復活に信憑性を感じて警戒しているんだと思う。
実際あわただしくなってきているし、この街でだって魔獣の群れの討伐に向かっているくらいなんだから」

 そう話すセーラー戦士の顔は、いらだたしげに歪んでいた。

 これは結構ギリギリなのか?

 うーん、特攻はさすがにしないと思うが、今までの経緯を考えると完全に否定も出来ない。

 それに今回は生贄なんてものがいるらしいので、俺も一応尋ねてみた。

「……それでまさか助けに行ったりするつもりとか?」

 心の中ではマジでやるつもりじゃないかとドキドキである。

 やると言われた場合、俺も手を貸さないとまずいのだろうか?

 いや、さすがにそんな戦争まがいの真似をしでかしたら、俺の自我崩壊ルートまっしぐらだ。

 保険としてどう断るかシミュレーションを繰り返していたら、セーラー戦士は意外なほどあっさりと予想外の台詞を言ってくれた。

「ああいや、あの女に一泡吹かせるのはいいかもしれないけど。でもやめておく。
さすがに命を懸けてまで無駄なことをするつもりはないよ」

 眉間の皺からようやく力を抜いた彼女に俺もほっとするが、でも同時にそれはちょっとした驚きでもあった。

「おろ、ちょっと意外かも。俺をけしかけてでも止めに行くとか言い出すかと思ってた」

 セーラー戦士は何気に正義感が強い。

 なにせ、たいして付き合いもない俺を、一人で助けようとするぐらいなのだから相当だろう。

 しかしセーラー戦士はふふんと笑うと、にやにやしながら見透かしたような事を言ったのだ。

「……断る気満々なくせに良く言うよ」

「あら? やっぱりわかる?」

 しっかり図星を刺されてしまったが、俺も顔に出ていたのを自覚していただけに気まずげに笑うと、セーラー戦士はやっぱりねと肩をすくめていた。

「私も生贄の件を含めてどうにかしてあげたいとは思うけど、事はそう単純な問題じゃないだろう?
勇者の召喚はあの国の体質みたいなものだって事は嫌と言うほどわかっているしね。
あの国にいる人間は、召喚を当たり前に享受している。
頭を潰しても、生贄をその場限りで助けても、きっと何も変わらないだろうね。
また新しく集められて、同じ事が繰り返されるだけの事さ」

「あー、なんか怨念じみてる?」

「まぁ……近い所はあるかも。もし本気でやめさせる気があるのなら、あの国ごとどうにかするしかない。……太郎ならそれが出来るのかな?」

 少しだけ期待を込めたようなそんな顔だったが、俺は鼻で笑ってバッサリと切って捨てた。

「冗談。それこそどれだけ大事なんだか。それに俺は見ず知らずの他人のために世界中を敵に回せるほどいい人じゃないんだよ」

「まぁそうだね……私もさすがにそこまでは出来ないよ」

 こんなことを言っているが、隙さえあれば助けに行きそうな危うさがセーラー戦士にはある。

 俺には理解出来ないけども。

 それにしても俺としては気になるのはヴァナリアの方よりむしろもう一つの原因の方だろう。

 魔王。

 なんとも俺の好奇心のツボをよく刺激する言葉である。

 同時に、騒ぎの源である面倒くさい名前でもあった。

 そして最近、とても嫌な感じにカワズさんと盛り上がった話でもあったわけだ。

「それにしても魔王ねぇ。改めて聞いてもそんなのいるんだなって感じだよ。
そういえばこの間もカワズさんと話しててさ。ひょっとしたら、俺の最初のめちゃくちゃ具合が独り歩きして、魔王なんて呼ばれてんじゃないのーってさ」

 俺はこころなしか早口である。

 でも出来る限りあっさり言ったつもりだったんだ。

 そして笑ってくれるものだと思っていたんだよ。

 しかし、ちらりと確認したセーラー戦士の顔はごく真顔で……。

「……なんて言っていいかわからないけど、それって全然笑えない」

 あーやっぱりそうなのか? 心のどこかでそんなわけないじゃないと笑い飛ばして欲しかったという願いは、やっぱり無謀な賭けだったらしい。

「そんなに真顔で言わないで欲しいんだけど? 不安になるからね?
いやしかしだね? 俺だって魔獣云々で何かした覚えはないし、たぶん違うと……違うよね?」

 それでもやっぱり盛大にあせる俺。

 不覚にも素が出てしまったが、俺の動揺が伝わったのかセーラー戦士も慌ててフォローを入れ始める。

「……そうだよね。君が魔王なんてそんな事は……ないと思うし?」

「そこは目をそらさず言ってみよう。ほら僕の目を見て言ってごらん?」

 しかし今一フォローになりきれていないよセーラー戦士。

 そしてセーラー戦士は無情にも本題の方で方向転換をしたのである。

「……ともかく! そんなことはどうでもいいんだよ! それよりも世間話はここでおしまいにしない? 君を呼んだのは頼みたいことがあったからなんだ!」

「そんなに露骨に話題を逸らさなくっても……まぁいいけど。
それで? なんで呼び出したわけよ? 結構探すのにも苦労したんだぞ? 向こうと違ってコンビニで地図が売ってるわけじゃないんだから」

 そう言えばなにか用事があるという呈で呼び出されたことを思い出して思わず口を尖らせると、セーラー戦士は本当に悪いと思っているのか気まずそうに謝っていた。

「ごめんごめん。実は……ある女の子を手助けして欲しいんだ」

「……はぁ?」

 そして彼女はさっきまでの真面目な話題とは打って変わって、なんだかわけがわからない事を言い出したのである。


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