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五十九話 そして俺は灰をかぶる 2
「おおすげぇ……立派な街だよー、大通りとかマジ広い」

 訪れた街は、それはそれは立派な場所だった。

 俺の事を知っているというのに、こんなに大きな街で、堂々と待ち合わせとはなかなかいい度胸だが、もっとも今となっては、そんな心配をするだけ無駄なのかもしれない。

 俺もずいぶん魔法の使い方がうまくなったし。

 だからこそカワズさんも俺が一人で旅に出ると言っても、あっさりしたものだったのだから、どんな状況だろうとうまく逃げ遂せることぐらい出来なければむしろ怒られてしまう。

 実際、この高い城壁に囲まれたカルカノという街は、城塞都市などと呼ばれているらしいが、こうやって不法侵入も余裕綽々だった。

 だがこの城塞都市、けして名前倒れと言うわけではない。

 むしろ、その名がピッタリくると言ってしまっていいだろう。

 沢山の大きな石を積み上げ、建てられた建物が、高台にある大きな城を取り囲むようにびっしりと建ち並んでいる様は、遠目で見ると街そのものが大きな城の様だった。

 そして一度街の中に入ると、その大きさにふさわしい活気にあふれているのだ。

 少し歩き回っただけでも、露店や大道芸でにぎやかな所もあれば、高級そうな店の立ち並ぶ、立派な通りもある。

 そして何より人が多い。

 その人と言うのもファンタジーらしく、犬っぽい人、ネコっぽい人。

 あるいは、ただの人間でも、赤や緑の変わった髪の色をした人なんかもいて、非常にバラエティ豊かだ。

 平静を装っているが、興奮で鼻息も荒くなる。

 それなりに大きな人間の街に来るのは、何気に初めてな俺だった。

「しかし、いくらなんでも知らない街にすぐに来てくれとはやってくれるよ、おかげで余計に手間がかかったし」

 だがまぁ、こんな風にいつまでもおのぼりさんをやっているわけにもいかないんだろう。

 待ち合わせの場所は近いのだから。

 しかし待ち合わせ場所がカフェとは、さすが大きな街ともなるとオシャレ度が違った。

 ついさっきまでいた農村が、別世界に見えるほどの違いだが、俺としてはこういう違いはむしろあってくれなければ興ざめというものだろう。

 それに今回はただカフェに呼ばれたというわけではないんだから。

 俺はスキップしながら待ち合わせ場所のカフェテラスに向かうと、軽く手を振って、金髪の女の子が俺を迎えてくれる。

 その恰好は相変わらずセーラー服に皮の鎧と奇想天外だったけど。

「や! なんだか悪かったね、急に呼び出したりして」

 だだ、オープンテラスに座り、こちらに手を振る彼女を前に、俺は思わず怯む。

 これが人生初、女の子と二人で待ち合わせである。

 それだけの事だというのにこのきらめきはどういうことだ? 

 それだけでなんだかいつもと違って見えるのだから、不思議という他ない。

「ぐ……なんということだ。シチュエーションと言うやつはここまで心をざわめかせるというのか? これではまるで俺がセーラー戦士を意識しているようではないか!」

「……声に出てるよ。女の子に普通そういうこと言うかな? まぁなんとなくモテないんだろうなぁということは理解出来たけど」

 彼女のストレートな物言いに、痛烈なダメージを受けてしまった。

 俺はよろめきながらもカフェの椅子に腰かける事に成功すると、正気に戻って挨拶をする。

「ぐふっ! ……まぁその通りだけどさ。こんちわセーラー戦士」

「うん、こんにちは太郎さん。それにそのあだ名は……はぁ、まぁいいか。
しばらくぶり、相変わらず変な所は変わってないね」

「変って、それあんまりじゃない?」

 俺は肩をすくめて軽くそう言う。

 しかし久しぶりのセーラー戦士は、思ったよりも元気そうで少しほっとした。

 旅立ってからほとんど音信不通だったのだ、この娘。

 まぁ、俺なんかがセーラー戦士を心配するなどおこがましいのかもしれないが、やはりそこは気になるのだから仕方がない。

「そう思うなら、まともな事を言ってみることをお勧めするよ。特に女の子と待ち合わせする時にはね」

 軽口も絶好調なセーラー戦士は楽しそうにそう言って、自分が頼んでいたらしいコーヒーを一口すすっていた。

「……女の子ねぇ」

「……なに? 何か問題でも?」

 俺がほとんど無意識でなんとなく呟くと、心臓を鷲掴みしそうな目で睨んでくるセーラー戦士は超おっかない。

 しかし俺の中でセーラー戦士が女の子と言うより、むしろ戦士よりのグレーゾーンに偏りつつある事を理解していないのだろうか?

 少なくても俺の知る女の子は、たぶんエルフの兵隊相手に圧勝したりはしないし、でっかいワイバーンを瞬殺する戦士の人を完封したりは出来ない。

 そういうのは女傑とか女丈夫と言う。

「……いえ、まったく。とても美しい女性にお招きいただいて、光栄の極みですよ?」

「そう? ならいいんだけど」

 それもだいたい俺のせいなんだけどね。

 だけど武器だけで強くなれるものじゃないことはドワーフの村でとてもよく理解しましたので。

 ニッコリといたずらっぽく微笑む彼女に、そんなことは決して言えない俺なのだった。
少し遅くなりました。


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