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五十五話 でっかいことはいいことだ 6
 さてお披露目も終わり、予定も詰まっているので、俺達はすぐに場所を移すことになった。

 移動したそこは、村からかなり離れた何の変哲もないただの岩場である。

 だがそこにはすでに最後の仕上げをすべく、あらかじめ準備が整えられていた。

 俺はと言えば、今はナイトさんと一緒に岩で出来た小屋の中にいるのだが、俺の傍らでナイトさんは手持無沙汰で落ち着かないようだった。

「こんな所で何をするのですか?」

「まぁまぁ、ナイトさんの出番もすぐ来るから。はいこれ、サングラス」

「? いえ、私は別にかまわないのですが……」

 ナイトさんは俺が渡したサングラスを不思議そうに眺めていたが、これがないと危ないので受け取ってもらわないと困る。

 最後の準備も終わったようで、カワズさんとドワーフさん(緑)がこちらに戻ってきているのが見えた。

 俺は二人に手を上げて、軽く合図を送っておく。

 彼らが何をして来たかと言えば、目標の設置である。

 岩場の中心にはでっかい丸太が突き刺さっていて、そこには先ほどお披露目したばかりの虎丸一号がしっかりと鉄製の鎖で固定されていた。

『うにゃーん!!!』

 そして何か、じたばたと必死に抵抗しているらしい虎丸一号は、当然中身入りだった。

「おう、準備出来たぜ」

「うむ、さて始めるかの」

「そうだね」

 俺は頷き。

 サングラスを全員が装備しているのをしっかりと確認してから、実験の開始を告げた。

「それじゃあデモもかねて、少しばかり魔法をぶつけてみようと思います!」

 そう。いくつかのテストはしたものの、実際着てみて攻撃が防げないのでは意味がない。

 そして今日はついに、巨人さんに身を持ってその威力を体験してもらおうとそういうわけである。

「僭越ながら、このわたくしが攻撃役を務めさせていただきます!」

 俺がぺこりと改まって頭を下げると、ぱらぱらと適当な拍手が聞こえた。

 しかし拍手こそしたものの、どこか不安そうなドワーフさん(緑)は実に複雑な表情をしているようだった。

「本当に大丈夫かね? あんたの無茶苦茶ぶりはこの数日で嫌ってほど見せられたからなぁ……」

「大丈夫だって。きっと俺達の虎丸一号はかすり傷一つなく生還してくれるに違いないさ。 
巨人さんも『俺、絶対生きて帰ってくるから!』って声が聞こえたような聞こえなかったような?」

 ドワーフさん(緑)は俺から巨人さんへと黙って視線を移す。

 その時、巨人さんは鎖を引きちぎる事は諦めたらしく、必死に地面を掘って棒を倒そうとしているらしい。

「……とてもそんな風には見えねぇんだけど」

「うむ、このくらいへでもないじゃろうの。わしの計算は狂わんさ!」

「……なんでだろう? お前さん達の台詞を聞いていると、あいつはもうだめなんじゃないかって気がしてきたぞ?」

 ドワーフさん(緑)は唸っていたが、何の問題もない。実験は細心の注意を持って行なったのだから。

 それよりさっさとしないと目標が逃げてしまうので、俺はさっそく話を打ち切って魔法を展開することにした。

 俺の右手に小さな火の玉が灯り、ろうそくの炎のように燃えている。

 それを見てドワーフさん(緑)はいくらか安心した顔をしていたようだった。

「さすがのあんたも、手加減はしてくれるんだな」

「そりゃそうだよ。それじゃあ行くよ? 絶対その眼鏡は外さないでね? 直視すると多分目に悪いから」

「んん? なんだそりゃ?」

 意味が分からなそうなドワーフさん(緑)の返事が聞こえたか聞こえないか、そんなタイミングで俺は炎を放つ。

 すると手の平の炎はふわふわとゆっくり目標に飛んで行った。

 一見すると今にも消えてしまいそうなほどにはかない炎だが、そうじゃない。

 火の玉は虎丸一号に接触した途端……一気に膨れ上がった。

「は……?」

 間の抜けた声が誰の呟きだったのかはわからない。

 キュゴっと何か、絶望的に不安になる音がした瞬間、閃光が小さな炎から解き放たれたのだ。

 その色はすでに、赤とか青とかそんなちゃちな色を通り越して、あまりにも白かった。

 空気が膨張して、こっちの障壁まで衝撃が到達すると、絶望的な温度差に周囲の岩に亀裂が入っている。

 熱波が通り過ぎるまでに数秒。

 俺の結界は正常に機能したようで、小屋にはかすり傷一つ無いだろう。

 念のため全員を見回していると、ドワーフさん(緑)は何か言いたいらしいのだが、声が出ないらしかった。

 だがついに、何か思いついたのか、その言葉を呟いた。

「……手加減?」

「してるってば。なるべく周囲に被害が出ないように絞りに絞ったし。俺の魔法の腕もなかなかのものになって来たんじゃないかと思う」

「……そういう問題ではないと思いますが」

 ナイトさんも青くなっているが、今回籠めた魔力はおおよそ1000ほど。

 カワズさん一人分くらいである。

 口を開けたまま俺とカワズさん意外は驚いているようだったが、今は放っておくとしよう。

 俺は実験の結果を確認すべく、さっそく小屋の外に出た。

 外は火柱になった炎が今だに燃え続けていて、まるで地獄の様だった。

 白い光球は地面を完全に溶解させてマグマに変え、周囲にガラスの波紋を作っている。

 俺はそんな中で目を凝らしてみたのだが、しかし熱で空気が歪んでいて、すさまじく視界が悪い。

 ちゃんと確認するには、もう少し時間がかかる様である。

「お、お、お、おいおいおい。さすがにこれは死んだんじゃないか!」

 そんな時ようやく正気に戻ったドワーフさん(緑)は慌てて俺の方に走って来たが、周囲はまだ暑いので危ないのだ。

 俺の方から迎えに行って、彼を安心させるように大丈夫だと大きく頷いた。

「大丈夫だって。実験の時はこの二倍でやったんだから」

「それはそれでどうかと思うがの?」

「……まぁね」

 自分のことは棚に上げてカワズさんが呟いていたが、言われてみれば確かにこれじゃぁ虎丸一号は炎と共に天に召されたようにしか見えないだろう。

 実験の時もとんでもないことになったので半分の威力にしたのだが、それでもまだ足りなかったようだ。

 いまだに動く気配もないし……。

「……大丈夫かな? これ?」

「それをお前が言ったらおしまいじゃろう……」

 確かにそれももっともな話だった。


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