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五十四話 でっかいことはいいことだ 5
 この巨人はドワーフ達の友人で、農作物を作っている人なのだそうだ。

 怪我したあるドワーフを治療した事が縁で仲良くなり、里に出入りするようになったが、彼の作る野菜はドワーフ達にも好評で、すぐに受け入れられたらしい。

 巨人の中でも気が弱く、戦うより土いじりをしている方がずっと楽しいと普段から豪語する草食系巨人である。

 しかし最近、なんでも大きな戦いがあるかもしれないとかで、彼もそのとばっちりで訓練を受けさせられる事になってしまったらしい。

 それでも何とか訓練は終わらせたのだが、今度は卒業試験で巨人族の習わしとしてワイバーンを狩ってこなければならなくなったというのだから皮肉な話だった。

 しかし、巨人族らしくない彼は、気弱な性格もあってワイバーンを倒すことも出来ずに現在に至ると言うわけだ。

「おら、あんまり強くねぇし。ドワーフさん達には迷惑かけちまってぇー」

「それで俺達が一肌脱ごうってわけだ! だが巨人だしな、このサイズとなるとどうやったっても大仕事になっちまう」

 とはドワーフさん(赤)の言葉である。

 確かにそういう目的なら、手を抜くわけにも行かないだろうし、相手が巨人なんてものなら大仕事になってしまうのも頷ける。

 しかしここで問題になったのは、普段は多くて数人ほどで作業する位で、あまり村総出で何かを作るということがない彼らは、今一意見がまとまらないらしいのである。

 とりあえず死なない事を優先して、なにか鎧を作ってあげようという所までしか決まっていないそうなのだ。

「素材もこんだけでかいと限られちまうんで、俺達も頭をひねっているわけよ」

「なるほどねぇ、だからいい素材を探し回ってたわけか。この巨人の人も確かに戦いには向いていなさそうだけど」

「面目ねぇ……」

 すまなさそうに頭を下げる巨人は、確かに思わず手をかしたくなるくらいの腰の低さだった。

 いや、実際は高いのだけどね?

 しかし巨人の鎧かよ。

 なんていうか……そんなもの、某人造人間とか、そういうのが頭をよぎってしまうではないですか。

 しかし、それなら力になれる男がここにいる。

 俺である。

「……それ、どうにかなるかもしれないよ?」

「なんだ? 兄ちゃん? なんかいい案でもあるのかい?」

「うん。俺って結構色々できてね。とりあえずその鎧の素材……オリハルコンとかどうよ?」

「オリハルコンって、ずいぶん気軽に言ってくれるやね」

 ドワーフさん(赤)もオリハルコンと聞くや否や驚きを口にしていた。

 流石希少金属。

 その価値はドワーフさえなかなかの反応を示してくれるようだった。

「もちろん量もそれなりに用意出来る」

 魔法を使えばオリハルコンとはいえ、俺にとってはただの金属だ。その辺にある石と大差ない。

 複製の魔法でぶっちゃけいくらでも増やすことが可能だろう。

 もちろんいる分だけしか増やさないのは固く戒めておかねばならないが。鎧を一人分くらいなら問題ない。

 しかし、今度はドワーフさん(緑)が何やら疑わしげな顔をしていた。

「それで? まさかタダってわけじゃねぇんだろ? オリハルコンなんてもんをポンとくれるわけもねぇ」

 実際はそうでもないとしても、確かにそれはもっともな疑念だろう。

 しかし俺は満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。

「わかる? そこで提案なんだけど、俺も鎧づくり混ぜてくれないかな?」

 おそらくは職人気質な彼らに混ぜてもらうには、それ相応の対価が必要だろうと俺はそう思っていた。

 それでも煙たがられるのは覚悟していたのだが、ドワーフの人(緑)は俺の肩をがっちり掴むと、すぐさまにっこりと笑って言ったのである。

「いいんじゃねぇか? それだけの魔力に、あの剣にかけてた魔法だ。手をかしてくれりゃぁ面白れぇことになるかもな?」

 予想外にあっさりと、そして邪悪な笑みを浮かべるドワーフさんズ(赤、緑)に思わず俺もちょっと怯んでしまった。

 なんだ、なんだ? この展開は? 

 俺はてっきり渋い顔をされたり、頑固一徹ってな感じに完全拒否かと思っていたのに。

 これではむしろウエルカムな気が……。

 俺の描いていたドワーフ像には何かずれがあるのかもしれない、そんな危険に俺は今更ながら気が付いて、表情が強張っていくのを感じていた。

「なんだ、なんだ?」

「どうした、どうした?」

 そしてわらわらと集まってくるドワーフズに周囲を囲まれて、逃げ道をふさがれる。

「おいみんな! ちょっと来てみろよ! このあんちゃんがおもしろい事を提案してきたんだ!」

 そして大声でそういうドワーフ(緑)。

 俺はこの時、ようやく最初からそのつもりでドワーフさん(緑)が俺をこの場に連れてきたんだと理解した。

 この人達、使えるものは何でも使う派の人達だ。

 だが……これはこれで望む所ではなかろうか?。

 注目を集め、そろそろ緊張してきた俺は、思わず自分の胸を叩いて言っちゃっていた。

「オウともお前ら! 俺に任せておきなさい!」

 おおおお! とどよめくドワーフ達。

「あーあ、知らんぞ? まぁ面白そうじゃがな」

 カワズさんも便乗する気満々の様で、ひょっとしたらドワーフの魔法を一つ二つ手に入れる気なのかもしれない。

「あの……私達の武器はどうなるんでしょうか?」

 ぽつりと控え目に呟いたナイトさんの声は、ドワーフ達の喧騒に溶けて消えた。

 とんとん拍子に話は進み、巨人の鎧大作戦は幕を開けたのである。



 ドワーフ達が総出で測った採寸データを元に、鎧の製作は始まったわけだが。

 さてどんなものにするか? それが問題だった。

 ドワーフさん達にすべて任せて、言う通りにした方が、問題が少なくなるのは間違いない。

 だが今回は何分係る人数が多すぎて、意見がまとまらないというのも問題になっている。

 こういう場合、普段なら使い手の方に希望を聞いて、優先させるらしいのだが、あの気の弱い巨人ではそれも無し。

 そこで白羽の矢が立ったのが材料を提供した俺だったわけだが。

『自信ないから手伝ってくれって? しょうがないな~♪』

 結局鎧の事なんてさっぱりわからないわけで、俺は頼りになりそうな奴に相談してみる事にしたのだ。

 それで今、得意満面のトンボちゃんが画面の前にいるわけだ。

「いや申し訳ない。それでこれがデザイン画なんだけどさ?」

 俺がとりあえず即興で描き上げたそれを、パソコンに取り込んでトンボに見せると、トンボはやれやれと肩をすくめて、すぐさまダメ出しが返ってきた。

『ダメ、全くダメね。刺々しすぎ! 目つき悪すぎ! だいたいスマートすぎてもろそう!』

「そ、そう?」

 俺としては渾身の傑作だっただけにちょびっと傷ついた。

 だがまぁ少々ロボットアニメ的な要素を取り入れすぎた感はあったので、ツッコミは上等だけれども。

『まぁ何が言いたいかと言うと! 全然かわいくないのよ!』

 だがトンボは、あんまり納得のいく理由じゃない所でバッサリ斬りつけてきたのだ。

 これにはさすがの俺も唇を尖らせざるをえないだろう。

「えぇー、鎧にかわいさとかいらないだろうー」

『そんなことはないってば! やっぱりかわいいって大事! かわいいってだけで正義なんだから! 鎧っていっても服の一種なんだし? やっぱりそういうユーモアも大事にしないと器が小さく見られるって!』

「……そんな風に言われると、そんな気がしないでもないけれど」

 俺ははっとした。

 そういえば、武将の鎧なんかも面白いものがあるとか聞いたことがある気がする。

 確かに兜なんて、アレをつけて道を歩けるようなデザインでもないだろうし。

 とにかく目立つための、ある種の独創的な何かが戦場には求められる物なのだろうか?

『そこでわたしはこういう感じのを提案してみたり!』

 そう言ってすぐさま送り付けられたデザイン画を見て、俺は最初これはないだろうと口を挟もうとしたのだが。

『ふふん……まぁ言いたいことはわかるけど、ちょっと聞いて?』

「なに?」

『いい? この鎧の利点はね?……』

 語るトンボちゃんの演説を聞くこと数分。



「……という具合に足が短いのにもちゃんと意味があるわけだよ!」

 ……すっかりトンボ印に洗脳された俺がいた。

 いや俺も多少のアレンジは入れさせてもらったが。

 自信満々にそう語る俺の前には、感心した風なドワーフ達がいる。

「しかし、こいつを本当にオリハルコンで作るのか? あの石の硬さ舐めすぎじゃねぇか? 
俺達だってただのプレートを作るだけで相当時間がかかるってのに……」

 それでも、正気を疑うような顔がちらほら見えるのは想定内だ。

「いやいや、確かに普通に作ったんじゃ難しいだろうさ。だけどおおざっぱな加工は俺も手伝わせてくれよ。俺の魔法ならオリハルコンだろうがなんだろうが形を作るぐらいどうってことはないからさ」

「「「おおー」」」

「するってーと、俺達がこのデザインを元に指示した形を、お前さんがおおざっぱに形を整えて、俺達が改めて鍛えると」

「細かい所は完全に任せるから。俺も言われた通りにやるし、間違ってたらどんどん言ってくれ!」

 自信満々に言い切る俺の案に、ひそひそとドワーフズは相談を始める。

「ふーん。まぁやったことがねぇ事をやってみるのも面白いんじゃねぇかな?」

「いやしかし、実際これを鎧と言い張るのには抵抗を感じるぜ?」

 などなど様々な意見が交わされるが、賛否両論上等である。

「とにかくやってみなきゃ始まらねぇな……あんたの魔法の腕前、どんなものか見せてもらうぜ?」

 結局の所、俺の魔法がどの程度使えるか、そこがすべてのカギである。

 しかしその辺りは問題ないだろう。

「俺の魔法、ちょっとすごいよ?」

 俺ももちろんそのつもりで準備は万全である。

 俺はドワーフ達の目の前でオリハルコンをまるでアメ細工のように成型して見せたのだ。

 どよめく観衆が心地いい。

 そして見せてしまえば話は早いのだ。

 すぐに話はまとまり、動き出すと、そこからは早かった。

 あっという間にドワーフ達は図面を書きあげて、俺に細かな指示を出してゆく。

 パーツごとに分けられた型通りに魔法でオリハルコンを成形すると、ドワーフ達から再びどよめきが起こっていた。

 それもそのはず、後で知ったのだが、このオリハルコンとはただ堅いだけの物質に非ず。

 対魔法に優れた、つまり魔法によって変化しづらい物質なのだ。

 しかし俺はその耐久度を無視して、出力任せに無理矢理粘土みたいに形を作る。

 ドワーフ達にしてみたら驚きだろう。

 本来ならば、叩いて形を整えるだけでも何日もかかるのだそうだ。

 そのせいで、胸のプレートだけとか、小手だけなんてことも多々あるオリハルコンを、ほんの一瞬で加工出来るというだけで、相当な時間の短縮になる。

 そして、ここからがドワーフ達の仕事だった。

 その出来たオリハルコンの塊を打って鍛え、加工して鎧に仕上げてゆく。

 オリハルコンも金属。

 純粋な鉄が脆いように、鍛えることでより強くなる。

 その塩梅はドワーフ達だからこそ出来る事だと言えるだろう。

 そして、俺達の考えた無茶なデザインを形にするアイデアを出し合い、工夫を凝らして作業する彼らはまさに職人だった。

 そうやって出来上がった物に俺が最後の仕上げに魔法を掛けてゆくわけだ。

 今回は物理耐久度はオリハルコンの強度に任せるとして、対属性魔法用の障壁と鎧の内部を快適に保つ魔法を掛けさせてもらった。

 ワイバーンは追い詰められるとブレスを吐くらしいのでその対策が主となっている。

 まぁちょいちょい小技も仕込ませてもらったが、それは遊び心という物だろう。

 特に目玉の対魔法障壁は実験を繰り返し、改良を重ねてかなりの防御力を実現していると自負している。

 俺達の汗と涙とついでに遊び心のふんだんに盛り込まれたそれは、一週間ほどでついに完成したのである。



「よし! 出てきていいぞ! お披露目だ!」

 ドワーフさん(赤)が大声で合図すると、作業の過程で俺が建てた装飾系巨人さん専用ドックから、鎧を着こんだ巨人さんが姿を現した。

 太陽の下に現れた白銀のボディには歪みの一つもなく、見事に磨き上げられている。

 胴はドラム缶のように長く、足はとても短い。

 対して手は不自然なほどに長いくせに、頭はずいぶん大きかった。

 全体的に丸っこく、しかしメカっぽいデザインなのは俺の趣味をドワーフ達が取り入れてくれた成果である。

 身体の所々にラインがいくつも入っていて、それでいて接合部といえるものが極力隠されたつるっとしたフォルムが特徴的だった。

 そして何より最初に目に付くのは、その独特な形だろう。

 ふにゃふにゃと蛇のおもちゃのように揺れる尻尾と、大きな丸い耳。

 頭にくっついた目の部分には大きな黄色いレンズがはめ込まれ、時折ブーンと低い音を立てて明滅していた。

「なんというか……可愛いですね」

 お披露目を見に来ていたナイトさんは、どことなく呆れた空気を醸し出していたが、それに対して俺達はついに完成したその雄姿に、皆で喜びを分かち合っていた。

「ようやく完成だな! 兄弟!」

「いやいやあんちゃん達のおかげだ! 面白れぇ仕事させてもらったぜ!」

「ああ、ええもんが出来たわい!」

 カワズさんも涙ぐんで完成した鎧を見上げていた。

『うにゃーん!!』

「鳴きましたよ!」

 ナイトさんが期待通りにものすごく驚いているが、仕様である。

 立ち上がると身長が五メートルはある巨人が、それを着こむと圧巻だった。

 その姿は完全にデフォルメされた虎だと言い張らせてもらおう。

 これからワイバーンなんて竜もどきと戦うのだ、デザインは虎しかあるまい。

 鎧というよりもそれは着ぐるみに近く、丸っこくてかわいい虎を模していたのだ。

 ちなみに縞模様は、持ち主が鎧を着こむと浮かび上がる仕組みになっている。

 これぞロボット風虎型完全防御鎧……。

「虎丸一号だ!」

『うにゃーん!』

 そして黄色い目をピカッと光らせると、村中で歓声が上がる。

 練習通りで言うことなしだ。

 俺からも巨人さんにエールを送るとしよう。

 虎丸一号はガチョンと両手を高く掲げ、誕生の産声を上げたのである。


「……にゃんはどちらかというとネコではないでしょうか?」

 どこかずれたナイトさんの感想だったが、今現在このお披露目の席で一番まともなのは間違いないだろう。


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