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五十二話 でっかいことはいいことだ 3
「いやぁ! あんた達本当に助かったよ! うっかりワイバーンに見つかっちまった時には死ぬかと思ったもんだ!」

 そう言って道案内を買って出てくれたちびっこは、実はちっさいおっさんだった。

 赤い帽子をかぶった彼は、背こそ小さめだが横に広く、かなりしっかりした体つきなのがわかる。

 握手した時、手の皮などものすごく厚かったし。

 これはひょっとしたらと思ったが、やはりその通りだったようだ。

「まさかこんなにあっさりドワーフを見つけられるとは思わなんだ」

 カワズさんも驚いていたが、そんな俺達にドワーフの人は恥ずかしそうに笑っていた。

「あはははは……。俺もついつい鉱石探しに夢中になっちまってな。この辺りは俺達の採掘場も沢山あるんだ。だけどお前さん達、確かに俺と会えたのは幸運だぜ? そうじゃなかったら、最短でもあと何日かはこの岩山をうろうろしなけりゃならなかっただろうしな!」

 からからと笑うドワーフの人。

 愉快そうに話してくれるが、それは実に厄介な問題だった。

 それはさすがに勘弁してほしい。

 そんなことになっていたら、間違いなく魔法を使ってたな、俺。

 しかし、今はこの幸運に感謝しよう。

 俺達が歩いている場所は山肌ではなく、不思議なトンネルの中だった。

 彼の案内で連れてこられたトンネルは、地面の中だというのに、人が数人余裕で歩けるくらいの大きさがあったのだ。

 しかも照明もないのにぼんやりと光っていて、まったく明かりには困らないときている。

 道さえ間違えなければ、まっすぐドワーフの村に行けるというのだから、山沿いに歩くより、よほどショートカットが出来るのは間違いないだろう。

「この光ってる奴って、なに?」

「んん? にいちゃんこいつ見るのは初めてか」

 俺は植物っぽい何かを眺めながらそう言うと、ドワーフの人は光るそれをちぎって俺に見せてくれた。

「こいつは蛍光ゴケっつってな。俺達がトンネルを掘る時に胞子を撒くんだ。
暗闇で光って、がっちり根を張る便利なコケさ」

「掘ったって……このトンネル、全部ドワーフが掘ったのか!」

 俺は驚いて、改めてトンネルをまじまじと見回していた。

 これだけの規模の物を村単位で作ってしまうとは、さすがドワーフ。

 鍛冶だけでなく、土木建築にも通じているとは驚きだった。

 ドワーフの人も満更ではないらしく、いやぁと照れ笑いしているらしい。

「ドワーフは石に関しちゃ右に出るもんはいねぇよ。 このトンネルも、この辺りの地下全体に張り巡らせているからな。採掘場は地下にもあるし、どこへでも行けるぜ?」

「へぇ……でもそんなトンネルがあるのに、なんで外に出てたのさ?」

 そうなると、なおさらこのドワーフの行動には疑問が残るが、本人にも自覚があるらしく饒舌だった彼も口ごもる。

「ハハハ……。いやそれはなぁ、少し変わった素材はねぇものかと。今、村総出で面白いことをやってんだよ……っとちょっと待ってくれよ、そろそろ出口だな」

 ドワーフの人は突然話を切って、目の前の壁に歩み寄る。

 そして岩の出っ張りを掴むと、強く押し込んでいたようだった。

 黙って見ていると、すぐに変化は現れた。

 ちょっとした振動の後、目の前の壁がいきなり二つに割れたのだ。

 光が差し込み、道が開くと、そこはもう目的地らしかった。

「ようこそ、ドワーフの村へ。まぁゆっくりしていきな?」

 ドワーフの人は得意げに言いながら、俺達を村へと招き入れてくれた。



 助けたドワーフに連れられて、やってきましたドワーフの村。

 そこはカッチンカッチンと景気のいい音が鳴り響く、とても賑やかな場所だった。

 一見するといつかの開拓村に似ていたが、どこかかわいらしい印象があるのは、建っている家が心持ち小さいからだろう。

 背が低く、煉瓦造りのそれらの家は、まるでファンシーなジオラマの様にも見えた。

「ここはなぁ、でっかい岩肌に守られている村なんだ。たまーに外から武器目当てにやってくる奴もいるが、だいたいここまでたどり着けねぇな。
ワイバーンに襲われるか、過酷な道のりでリタイヤするか、どっちにしても楽に来れる奴は滅多にいねぇ」

「ほぅ、それでは君らは、他所からくる者を拒むためにこんな所に村を?」

 周りを物珍しげに見物しながら尋ねるカワズさんに、ドワーフの人はカラカラと笑っていた。

「はっはっは! そういうのもあるって話は聞いたな。一番の理由はいい石が採れるからさ。
だがそれだけじゃねぇ。俺達の作る武器は我ながらすげぇ。
そんな俺達がやったらめったら武器を造っていたら、面倒くさいことになりそうだろう? それに俺達にだって、持ち手を選ぶ権利ってのがあるはずだ」

「ふむ、自分達の武器を使う者を選別する意味合いもあると。
ふむふむ、なかなか合理的だ。
確かに半端な使い手に、自分の作品を使わせるのも面白くないしのぅ」

「そういうことさ、わかってんじゃねぇか!」

 人の悪い顔で笑うカワズさんと、同じような顔で笑うドワーフの人は、どうやら馬が合うらしい。

 しばらく村の中を歩いていた俺達だったが、しかし不自然な事に気が付いた。

 もう村に入っているというのに、村人にはまだ出くわしていないのである。

 ……いや、人の気配はあるのだ。

 だけど道に人の姿がない。

 ドワーフの人もそわそわと落ち着きがないし、村の中で何事かおこなわれているというのに、嘘はなさそうである。

 俺達は少し大きめの建物に案内されると、ドワーフの人はさっそく俺達にすまないと頭を下げてきた。

「それじゃ、ここが宿だからよ! 俺はそろそろ行くぜ? お前さん達、武器が欲しいって言うなら、今はちょいと立て込んでいるんでな、少し待っていてくれるとうれしいね。
そこのおっかないにいちゃんは特にな!」

 そんな事を言うドワーフの人は、どうやらちゃんと俺のことをわかっていて連れてきたらしかった。

 だとしたら、相当にドワーフの方々は度胸の据わった人達らしい。

 だが今すぐにでも走っていきそうだった彼を、俺は慌てて呼び止めた。

「ちょっとまってくれ! 最後にこれだけ! この人の事知ってるかな?」

 俺は親方から預かっていた手紙をとり出して見せてみると、ドワーフの人はその宛名を見て何度か頷いていた。

「あー、あんたらあいつの知り合いか? それならあの家だ」

 簡単に家の場所だけ説明して、ドワーフの人は今度こそ村の中を走って行ってしまったのだった。

「……なんだか、騒がしいドワーフでしたね」

 ナイトさんは予想外そうに呟いていたが、しかし偏屈と聞いていただけに、おしゃべりの方がいくらかましだろう。

「まぁ、ナイトさんもちゃんと武器造ってもらえそうでよかったんじゃない?」

「ええ、そうですね。確かに、期待が持てそうでした」

 そう言うとナイトさんもうれしそうだ。

 ナイトさんの腕は、あのドワーフも知る所だろうし、まさか命の恩人の頼みを無碍にする事もないだろう。

「だがまぁ、あのドワーフの言っていた、立て込んでいる事というのがどんなものかによるじゃろうな」

「だなぁ、……さて今回はどんな事になるやら」

 カワズさんの言うように、唯一の懸念はその辺りだろうが、そこは向こうの都合だけにどうしようもない。

 だが別にこの後、何があるわけでもなし。

 ゆっくりと待てばいいだけの話である。

「ですね……。クマも楽しみにしていたようなので、あまり待たせるのも忍びないのですが」

 ナイトさんは心配そうにそう零していたが、まぁ仕方あるまい。




 俺達は教えられた通りに家を訪ねた。

 そこは周りの家と同じような煉瓦造りの、緑色の屋根をした家である。

 さっそく玄関をノックすると、すぐに返事が返って来た。

「どうぞ! 開いとるぞい!」

「お邪魔しまーす……」

 招く声に従って、俺は扉を開けた。

 だが次の瞬間、俺は扉を開けた格好のまま固まっていた。

 カワズさんは背中にぶつかり、ナイトさんは何事かと肩越しに家の中を覗き込む。

「なんじゃい……ほ、随分とおっかない人間が来たもんだ」

 扉を開けた家の中には、またちっさいおっさんがいたのだ。
ずいぶん遅れてしまいました。
なんだか、二次創作の方が色々変更になるみたいですね。
それとは関係ないですが、最近不調気味です。
花粉とか消えてなくなればいいと思いますw


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