五十話 でっかいことはいいことだ 1
さてみなさん、覚えているだろうか?
エルフの里に行った時、ナイトさんとクマ衛門がセーラー戦士と壮絶な激戦を繰り広げた事を。
まぁそれは別にいいのだ、みんな無事だったわけだし。
しかし、無事でもなかった物もある。
例えば、剣士の魂とも呼ぶべき大事な物は、その時破損してしまったりしたわけだ。
ナイトさんは自分の、すっぱりと半ばほどから斬り落とされた剣を眺めながら、こう言っていた。
「いえ、これも私の未熟さが招いたことですから。もう一本ありますし何の問題もありません……」
だが、そうは言うものの、やはりどこか落胆している空気がある。
クマ衛門も自分の折れたモーニングスターの先っちょを転がしながら、どこか哀愁を漂わせていた。
「……うーん、やっぱり武器とか大事なんだろうなぁ」
そんな二人を見ているとまぁ、そもそもの原因は俺にあるような気もするし、罪悪感も湧いてくるわけだ。
てっとり早く、スケさん辺りに連絡を取って、いい感じの武器をもらって来るか?
いや、武器にも思い入れというものがあるだろうし。
ここは修理するか、もしくは思い切って新調する方向でいった方がいいだろう。
結局の所、あの武器ではうちの畑の柵にすらも勝てなかったのだから。
それに自分に合った武器に、俺とカワズさんが魔法を掛けた方が、面白いモノが出来上がるに違いない。
ただ、武器なんて言うのは、完全に専門外と言うこともあって、俺はさっそく知りあいの専門家を尋ねてみることにしたわけだ。
あの最初に立ち寄った村のご主人改め親方の所にである。
パソコンを置かせてもらいに行くついでだったのだが、二人の武器を見せると、親方は目を丸くしてそれを見ていた。
「こっちのモーニングスターはともかく……、この剣は相当無茶な造りだな……」
「あ、やっぱり?」
俺なんて持つ時に魔法で重量を変えないと、持ち上げる事すら出来なかったんだ。
無茶というのもわかる。
しかしそれを軽々と持ち上げながら、眺めている親方もかなりすさまじいと思うのだけど。
きっと肉体強化を使っているに違いないのだろうが。むしろそうじゃないと泣ける。
親方は、武器をひとしきり丹念に調べると結果を言った。
「打ち直すことは出来ると思うぜ? だがこれだけの鉄の塊だ、どうやっても強度は落ちるだろうな。なんだってこんな武器を使おうと思ったんだ?」
そう親方は俺の持ってきたパソコンに語りかけている。
すると今度はパソコンから、ナイトさんの声が聞こえてきた。
「私は肉体強化の魔法を使うのですが、かなり適性が高いようで。普通の鋼の剣ではすぐに折れてしまうんです。最近はそれくらいの物でないとまともに扱えません」
しかし帰ってきた声に一番驚いているのは親方のようだった。
「おお! こいつは面白れぇな! 離れた相手とも本当に話が出来やがる! しかしなるほどな……そこまで鍛え上げているとなると、あんたよっぽど凄腕らしいな。この辺りでもそうはいないと思うぜ?」
今回パソコンで話しているのは、まぁ実験もかねてと、ダークエルフを人間が怖がるかもしれないという配慮からである。
親方の人柄から考えてもナイトさんの考えすぎだとは思うのだが、現在顔だけ伏せて、通話モード中だった。
しかし、このままというわけにもいくまい。
機会があれば積極的に連れ出すべきだろう。
「しかしこれ以上の強度となると、もう材料の問題だ。鋼じゃでかくなる一方だろう?」
「そうですか……」
親方とナイトさんはため息交じりに発生した大きな問題に唸っていた様だが、しかし俺はと言えば、その鋼よりもすごそうな金属に、ものすごく心当たりがあるわけだ。
「材料って言うと、オリハルコンとか?」
その心当たりを口にすると、親方は難しい顔で頷いていた。
「そうそう、魔法金属なら言うことねぇよ。しかしそもそもモノがねぇし。やっぱりこいつより厚い剣を打ち直すしか……」
「いや、オリハルコンならあるよ?」
さっそく俺はがまぐちから、金属サンプルをいくつか取り出して並べると、親方はぎょっとして、しばらく金属を食い入るように見ていたが、何やら急にため息をついて椅子に座り直していた。
「……いや、でも駄目だ。俺にはそいつを扱うだけの技術がねぇ」
そして少しだけ気まずそうに、頭を掻いたのである。
親方によると魔法金属は固すぎて、扱うには特殊な技能がいるのだという。
なるほど、さすが伝説なんて言われていた金属だ、扱いもとても難しいらしい。
「俺が魔法で形だけ剣にしても駄目かな?」
形をどうにかするだけならば、そんなに難しくなさそうだと踏んだのだが、親方はそんな俺に、腕を組んだまま、眉間にしわを寄せていた。
「んー、あんた、そんなことまで出来んのか? だけど……どうだろうな。出来ない俺が言うのもなんだが、形だけ取り繕えばいいってもんでもねぇからなぁ。
例えば鋼なら打って鍛えるわけなんだが、俺達はただ形を整形しているだけってわけじゃねぇ。
この際、難しいことは取っ払うが、叩き具合にも職人の勘みたいなもんがあるんだよな。
あんたにはそれがねぇだろ?
もちろんモノがオリハルコンだ、形にするだけでもそれなりモノのが出来そうではあるが」
「……それは確かに、中途半端なのは俺としても不本意だなぁ」
親方の歯切れの悪い物言いも最もだと思う。
折角のオリハルコンなんだ、なんちゃってソードにするにはあまりにももったいない。
魔法がなくても、ちゃんと武器として機能出来る一品に仕上げたいと思うのも当然だろう。
親方の言う勘云々の話も、理解出来ないわけではなかった。
俺も昔、テレビなんかで日本刀を作っている所を見たことがある。
単純に形を整えるだけでは強い鋼にはならず、職人は不純物を取り出したり、炭素の含有量を調節したりしながら、刀を打ち出すそうだ。
とてもじゃないがそんなことは俺には出来ないし、固い模造刀を量産した所でだれも喜びはしないだろう。
だがぽつりと続く親方の台詞は、俺の興味をそそるに十分な内容だった。
「扱える奴に心当たりはあるけどなぁ……」
「本当に!」
すぐさま食いつくと、親方はものすごく複雑そうな顔をしていたが、注文に堪えられない後ろめたさもあるらしく、その心当たりを教えてくれた。
「そうだなぁ……出来るとしたら、ドワーフなんだが、まぁ……ツテがないわけじゃない」
「ドワーフですか!」
そして次に食いついたのは、思った以上に親方の話に興味津々なナイトさんだった。
「どうしたよ、ナイトさん?」
彼女らしくないテンションに俺も驚くが、ナイトさんは恥ずかしそうに声を落ち着けていた。
「い、いえ、ドワーフの武器と言えばそれはもう有名でして。ドワーフ製の武器を持つことは戦士にとってある種のステータスなんですよ。しかし偏屈でも有名な種族で、決して気に入らない相手には武器を渡さないとか……」
いつになく饒舌なナイトさんの興奮具合は相当なもので、その期待がどれほど大きいかが伺える。
……これは行くしかないか?
偏屈というのがどの程度の物かはわからないが、ドワーフと言えば土の妖精とかそんな話を聞いたことがあった。
親方の口ぞえがあれば少しはましだろうし。
追加で女王様かセレナーデ様辺りに口添えしてもらえれば、多少なりこちらの印象も変わるかもしれない。
「あの、じゃぁ紹介してもらってもいいですかね?」
そう俺が頭を下げると、親方は渋い顔だったが同意してくれた。
「うーん……紹介するだけなら。だがその人は俺の師匠なんだけど、だいたいが偏屈な人だからなぁ。作ってもらえるかはわからないぞ?」
念を押す親方に俺も頷く。
「まぁその辺は、その時になってから考えますよ」
「そりゃそうだな。……せっかくだ、俺も久しぶりに師匠に手紙でも書いてみるか?」
「それなら、パソコンを置いてくれるように頼んでみますんで、このパソコンの番号を教えておけば、いつでも話せるようになりますよ?」
親切心でそう言うと、だが親方は苦笑いを浮かべ。
「……そいつは、遠慮してぇな。毎日怒鳴られそうだ」
と気まずそうにそんなことを言っていた。
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