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四十一話 ナガミミ達の長い一日 4
side セーラー戦士

「なんだよこれ……」

 私は何が起こっているのかわからずにいた。

 光の源は胸に下げたペンダントらしい。

 小さな石のはまったそれは、出発の時、太郎さんから貰ったものだった。

『俺がいない時になにかトラブルがあったら使って見るといい』

 そんな事を言われて渡されたわけだけど、どんな効果があるものかなんて聞いていない。

 しかし、キーワードが必要なら最初から教えてくれないと意味ないじゃないか。

 不満を漏らしそうになったが、しかし、そんなものは吹き飛んでしまうくらいに、ペンダントはとんでもない贈り物を用意してくれたのだ。

 いつのまにかずらりと周囲に突き刺さる十本の剣。

 そのすべてが、今まで感じたことがない禍々しい妖気みたいなものを纏わりつかせて、自分の周りに突き立っていた。

 それは相手の方がより顕著に感じているらしい。

「……!」

 剣が現れた途端、危険を感じたのか、丸い方を引き連れてさらに距離を取ったのである。

 私は恐る恐る目の前にある一本を手に取ってみる。

 そして柄に手をかけた瞬間、まるで歓喜に震える様に、剣が応えた気がした。

「なるほどね……君の周りにいるって事はこういう事なんだね」

 薄々はわかっていた事だが、正直呆れてしまう。

 何もかもが規格外。

 勝敗とかそんな些細なものを飛び越えて、相手に戦わない事を選択させてしまうほどにめちゃくちゃだ。

「観光気分でいられるはずだよ……」

 たまたま引き抜いた剣はそれだけで紫電をまき散らし、怖いくらいの力が溢れているのが見ただけで分かった。

 試しに一振りした瞬間、雷光が駆け抜け、轟音が轟く。

 そして振った自身すら驚くほどの破壊力に私は身を震わせていた。

 閃光が収まると目標の樹木は丸まる一本、一瞬で炭になっていたのだ。

 それはあまりにも呆れた威力で、とてもじゃないけど戦うのがバカバカしくなってくるほどだ。

 相手にはさぞかし絶望的な光景に違いない。

 しかし騎士に諦めた気配はなかった。

 敵ながらなかなか肝が据わっている。

 騎士はしばらくこちらの様子をうかがっていたが、身をかがめて走り出すと、何を思ったか片方の剣を思いっきり投げつけてきた。

 今までとは違い、雑な攻撃だ。

 しかし刃として鍛えられた分厚い鋼は、無視するにはあまりにも脅威ではある。

 回避に集中して一瞬目を逸らした隙に、騎士は動いていた。

 そしてそのまま剣にさえぎられた死角を突いて、もっとも近くにあった魔剣の一本を掴むと、そのまま引き抜こうとしたのだ。

 これには少し焦ったが、しかし心配は杞憂に終わる。

 騎士が剣に手をかけた瞬間、柄から炎が躍り出て、腕を焼こうとしたのである。

「……!!」

 騎士は体に炎が到達する直前で手を放なす事には成功したが、剣はどこかに放り投げられてしまっていた。

 だけど、なぜか私には剣がどこに行ったか手に取るようにわかっていたのだ。

 どうやら見えない触手ようなものが伸びていて、ペンダントを通じて私にも繋がっているらしい。

「……来い」

 なんとなく出来るような気がして、戻ってくるように命じると、剣は手繰り寄せられてすぐに足元に戻って来た。

 まるで手足の延長のように、考えるだけで動いてくれる剣達は、完全に体の一部になったような、そんな感覚を私に覚えさせていた。

「これの使い方……わかってきた!」

 先ず、私は手近な剣を蹴り上げる。

 抜かれた剣は空中でくるりと一回転しながらゆっくりと落ちてきて。

「……いくよ!」

 そして剣が切っ先を敵に向けた瞬間。

 まずは一蹴り。

 柄をそのまま蹴り飛ばすと、剣は唸りを上げて飛んでゆく。

 さらに続いて二本、私は剣を両手で抜いて投げつける。

 これで全部で三本。

 見えない触手はどこまでも伸び、剣は使い手の意志を反映して、己の能力を十二分に発揮した。

「ぐっ!」

 騎士も必死に避けようとしているようだったが、とてもじゃないが避けられるような代物ではないだろう。

 薙ぎ払うという言葉がしっくりくるほど、たった三本の剣は圧倒的な火力を見せつけていたのだから。

 ある剣は真空波が巻き起こり、木々を切断していく。

 さらには雷が降り注ぎ地面を焦し、氷柱が次々生えてくる。

 剣の槍は、余波だけでも恐ろしい威力で荒れ狂っていた。

 役目を終えたとはいえ、人間が竜を倒すに足りる威力があると、そう信じて持ち込んだ剣達だ。

 その威力は人間に竜を倒せると錯覚させるだけのものはちゃんと備えているらしい。

 剣がさく裂した後には、破壊の跡しか残っていないかった。

「すごいな……これは負ける気がしないや。でも「剣の畑」なんてもう少し気の利いた名前はなかったのかな?」

 あまりの威力にとぼけた軽口を口に出してみたが、語尾が震えた。

 直撃させなかったのは正解だった。

 はっきり言ってこれは、人間相手にしては大掛かりすぎる。

 あの騎士も、さすがにすぐには動けないらしく、膝をついたまま微動だにしない。

「……!!」

 ただ動けない騎士に代わって、もう一人の丸いのが仲間の危機に捨て身で突っ込んできているようで。

 志は尊敬するが、余裕の出来た私にもう隙はない。

 それに私は、この大きい方にもう一人の騎士ほど脅威は感じていなかった。

 さらに一本、剣を引き抜き、私は敵に向き直ると苦笑いが浮かんでしまう。

 この人ついてないかも。

 その瞬間、時間が遅くなったように錯覚してしまったほどに、体が軽くなっていた。

 迫りくる鋼鉄の塊を懐にもぐりこんでかわし、木製の柄の部分を断ち切る。

 さらに鎧を切り裂き、体勢を確認する時間すらまだあった。

 実際それは、丸い奴が一回空振りする間の、ほんの短い時間だったはずだ。

 こっちの剣には動きを加速する効果があったらしい。

 丸いのの後ろに回り込むついでに、後頭部に強烈な回し蹴りを叩き込む。

 自身の突進の勢いも加わって、完全にバランスを崩した丸いのはあっという間に吹き飛んで行った。

side out


side 太郎

「ふははははは! 見たか剣の畑! 直訳するとフィールドオブソード! ごめんなさい今は反省している!」

「今日のタロのテンションおかしくない!?」

「そうかの? いつもこんなもんじゃろ?」

 俺は高笑いなんてしてみたが、なんというか……ちょっとびっくりな威力だった。

 伝説の剣だとは聞いていたけど、まさかこんなのだったとは。

 これなら確かに竜も倒せそうだ。

「……家の柵、思ったよりすごいな」

 少しだけ正気に戻って呟くと、トンボも気が付いたらしかった。

「あ! そうだよ! どっかで見たことあると思ったらあれ畑の柵じゃん!」

「うん、まぁ柵じゃけどな。あんな物いつの間に渡しとったんじゃ?」

 不思議そうに聞いてくるカワズさんだが、そんなモノ、出発の時に魔法を掛けて渡したに決まってるじゃないか。

 畑は裏庭にあるんだし。

「どうせ使わないから、いいかなって」

 だって剣を使える人がようやく出てきたんだから、使わなきゃもったいないだろ?

 だが予想以上にセーラー戦士は鬼強かったから驚いただけだ。

 そして剣達はその力を存分に使えることになったわけだが……張り切りすぎである。

 単純に投擲されただけにもかかわらず、この威力だ。

 破壊跡には残骸しか残ってないし。

「カワズさんはともかく、セーラー戦士も出歩くことはあるだろうと思ってさ。
女の子の一人歩きはいろいろ物騒だろ? 護身用のつもりだったんだけど……ね」

「護身用というか、居並ぶ兵隊まとめて蹴散らしそうな威力だよね」

 トンボの意見には今頃になってすごく同感だった。

「だが今回はファインプレーなんじゃないかの? キーワードで転送するんじゃな」

「そうそう、ペンダントの持ち主を主と認める仕様になってる」

「主ってなんじゃよ?」

「だって、あんだけ沢山持ってきたんじゃ、普通相手に使われちゃうだろ?
だから呪いを仕込んでみたんだけどさ」

 それは、この間の呪いの腕輪に仕込んでいたような奴だ。

 しかしその効果は、剣自体が持っている魔法を敵に浴びせる類の物で、うっかり持とうものなら剣に拒絶されたような気分になることだろう。

「なんというか……この間ひどいもんだとか散々言っておいて、すぐさま流用するお前さんには驚きじゃな。ナイス外道」

「……外道でもなんでもいいけど、もうすぐ決着だろ。スタんばっとけよ。すぐ治療しなきゃならんのだから」

 念のためカワズさんを促すと、カワズさんも表情を引き締める。

 さすがにこれだけの物で戦ったら無傷じゃすむまい、ならどちらも大事になっては事である。

「そうじゃの。簡単な傷ぐらいならわしがやるぞい」

「俺は死んでなきゃどうにかなりそうだから。負けた方は任せとけ」

 魂があの世に行ってなかったら、死んでたって生き返らしてやるともさ。

 俺達は戦闘の終結を待つ。

 実際クライマックスの様で、あの騎士がふらふらよろめきながら、どうにか立ち上がった所だった。

「あああああ!!」

 騎士は巨大な大刀を振りかぶり、雄たけびを上げる。

 恐らくは最後の力を振り絞ったのだろう、その一振りはいかにも威力がありそうだった。

 だがセーラー戦士は迫る大刀をぎりぎりまでひきつけると、身をかわして迫る刃を自分の剣で斬り割ったのだ。

 打ち合うことすら出来ずにバターのように切り裂かれた剣を見て、騎士が驚愕しているのがわかる。

 武器を完全に破壊された騎士と、目を回している丸いの。

 どうやら勝負はこれで終了のようだった。

「はぁ……はぁ……これで終わりだ、君達の目的を聞かせてもらえるかな?」

 荒く息を乱しながら、切っ先を騎士に向けるセーラー戦士。

「……」

 騎士は動きを止め、黙り込む。

 しかしその問いに答えたのは騎士ではなく、それどころかここにいた人間ですらなかった。

「そこまでだ!」

 ぞろぞろと森の中から現れた一団は、今度こそ長い耳と白い肌を持っていた。


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