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いろんな方にどんなエルフなのか想像していただいたようでありがとうございます。
最初はただの巨漢の人のはずだったんですけど、調子に乗ってちょっと変えてみました。
……ト○ロじゃないよ?
四十話 ナガミミ達の長い一日 3
 これがエルフ? いや待て、そうじゃない。

 よく見るんだ、あのもふっとした耳を。

 そして大きな体もよく見れば熊のように毛むくじゃらじゃないか。

 あんなのがエルフなわけない。

 あれは……そうだあれは……!

「あなたの名前なんていうの!」

「どうしたんじゃ! いきなり叫びだして!」

「放してくれ! 俺はあいつに名前を聞かねばならないんだ!」

「聞いてもわからんじゃろう!」

 そりゃそうだけれども!……そりゃそうだ。

 じたばた暴れる俺は抑えつけられる。

 ようやく正気を取り戻したわけだが、さてこうやって落ち着いている場合でもないわけだ。

 セーラー戦士は飛び出して行っちゃったし。

 しかし手助けしようにもアレについていけるのか?

 それは猛烈に疑問である。

 とんでもない勢いで飛び出したセーラー戦士は、丸いのに向かって蹴りを食らわせたのだが、しかしその威力が問題だったのだ。

 丸いのは文字通りボールのように跳ね飛ばされ、雲でも引きそうな勢いでまっすぐ木の幹に激突したのである。

「……ああ、なんてことを」

 俺がオロオロしながら手を伸ばすが、しかしどうやら丸いのはまだ無事だったらしい。

 メキメキと削れた木屑を振り払うと、元気に跳ね起きて、再び雄たけびを上げながらセーラー戦士に飛び掛かっていっていた。

「オオオオオ!!」

 だがそれだけではない。

 五メートルは垂直に飛び上がり、魔法陣まで使って火を噴きやがったのだ。

 この時すでにセーラー戦士は垂直に木を駆け上りながら、さらにスピードを上げていた。

 ジャパニーズ忍者も真っ青な身のこなしで、見事丸いのの使う炎を華麗なステップでかわしてゆくセーラー戦士。

 その上、炎が途切れた瞬間を見極めて踏み切ると、剣を構えたまま落ちてきた。

 丸いの目がけて落下してゆくセーラー戦士に、すぐさま炎が放たれるかと思いきや。

 瞬間、勝ちを確信していた丸いのの表情が驚愕に染まる。

 丸いのの魔法が発動するよりも速く、魔法陣が三つ現れたのだ。

「!!」

 発動寸前まで出来上がっていた丸いのの魔法は、絶妙なタイミングで完全に止められていた。

 一つは水で炎を相殺し。

 さらに氷の魔法が二つ叩き込まれて、冷気が地面ごと丸いのを氷漬けにする。

 セーラー戦士は無事着地して、自分の髪を後ろへ跳ね上げた。

「ふぅ、すごいタフだね君」

 たった数秒の落下時間に行われた一連の動作は、一部の無駄もなく。

 それはちょっと唖然としてしまうくらいのかっこよさだった。

「なにあれかっこいい。あれってどうなってんの?」

 人間離れした動きに説明を求めると、カワズさんも感心して唸っているようである。

「肉体強化じゃな。しかしあそこまで使いこなすとは、よほど才能があったんじゃろうて」

「……さすがセーラー戦士、パないわ」

 しかし優勢に見られたセーラー戦士の状況は次の瞬間、ひっくり返されることになる。

 いきなり今度は別の木から黒い何かが飛来してきて、セーラー戦士に向かってとんでもなく巨大な剣で斬りかかってきたのだ。

 そいつはフルプレートの鎧に、二メートルはありそうな巨大な剣を両手に一本ずつ携え現れた。

 相当の重量だろうに、その重さをまるで感じさせない。

 そして衝撃を見事に殺して見せたしなやかな体のバネと、体の強靭さもさることながら、高度な技巧もうかがわせる。

 セーラー戦士はかろうじてかわしたが、氷は叩き割られ、丸いのが復活してしまった。

 これで二対一だ。

 セーラー戦士もさっきまでよりさらにきつい目つきになっているようで、カワズさんも戦況の悪さに眉を顰めていた。

「まずいな……あの重量の鎧と剣を使いこなすとは。よほどの手練れなのは間違いあるまい。そしてあの丸い奴もいるとなると……」

「……まずいかな?」

「どうするの? 助けないの?」

 トンボが心配そうにし始めたが、俺もどうすればいいものかと頭を悩ませる。

「うーん。相手はたぶん、エルフのお仲間で、手を出すのもよろしくない。セーラー戦士がさっさと戻ってくれば、それで済む話なんだけど……」

「呼べばいいじゃん」

 当たり前のことをトンボは言うが、それもどうかと思うのだ。

「でもあれだろ? 勝つつもりで出て言ったわけだし、邪魔するのもいかがなものか? それにこの先どの程度信じてればいいか、見ておくチャンスかも?」

「うえ、根性悪いよそれ」

 確かに、自分でもそう思う。

「いやいや、大事なことよ? それにあれって俺達を助けようとしてくれてるわけだし? 
だいたいあれにどうやって加勢するよ? なんか一部の隙もない、達人の攻防が繰り広げられているんだけどもさ」

「……そっちが本音でしょ? それはそうだけど! もう! なんかやりようがあるでしょ!」

 興奮して癇癪を起こすトンボに俺はため息をついて、思わず用意していた隠し玉の存在を口にしてしまっていた。

「まぁ一応、手は打ってはあるんだけどね」

「ほんとに? やるじゃんタロ!」

「いつの間にそんなものを?」

 これにはトンボも驚いてくれたようだが、カワズさんは疑いの眼差しだった。

 だから俺のチキン具合を舐めてもらっては困るって。

 俺自身は元より、連れに対しての守りも怠ってはいないのですよ。

「まぁ備えあればってやつ? 使わないで済む方がいいんだけどねー」

 しかしまさかこんな荒っぽい事になるとは思わなかったんだものな。

 それに切り札と言ってもどれほど役に立つものか。

 ちょっぴり自信がなかったり。

 セーラー戦士のやり方に沿いつつ、俺達のペースに慣れてもらうには俺達サイドの魔法を肌で感じてもらうのが一番だとは思うのだが。

 俺の背中にはじっとりと汗がにじんでいた。


「ふっ!!」

 俺が密かにあせっている間にも、剣戟はいなされ、身をかわし、戦っている彼らはお互いに一歩も引かずに器用に立ち回っている。

 続けざまに騎士が放った鉄の塊は二本。

 狙いは関係ないのだろう。

 十字に振り切られた軽鎧のセーラー戦士ではどこに当てようが致命傷になりそうな剣戟を、彼女は飛び上がってかわしていた。

 さらにセーラー戦士は自分の真下を通りすぎる一瞬の刃を足場に、跳ぶ。

 バク転の要領で身を逸らして距離を置くと、一転して二人とも動かなくなった。

 断続的な呼吸の音が静かに響く。

 お互いに動けずにいる膠着状態を破ったのは丸いのだ。

 モーニングスターを振りかぶり、セーラー戦士に殴り掛かってきたのだ。

「チッ……!」

 巨体から繰り出される一撃を舌打ちして避けたセーラー戦士がバランスを崩した。

 だがちゃんと避けたと思ったその時、何かが飛んでくるのが俺の視界の隅にも映る。

「ありゃいかん! わしがやる!」

 カワズさんが咄嗟に風の魔法でそらしたが、一条の光がセーラー戦士の剣を貫いていた。

 それを見ていた俺は何が起こったのか今一わからなかったが、驚かされはしていた。

 どこからかまっすぐ飛んできた流星の様なそれは、鋼で出来ている剣を砕いたのだから。

「何今の! ビーム!」

「違うな、ありゃ弓矢じゃ! 雷の魔法を纏っておる!」

「まだ伏兵がいたのかよ!」

 流石に三対一ともなると黙って見ているわけにもいかない。

 続けて二度、俺の方にも矢が飛んでくるが、目の前で結界に弾かれてパチパチと音を立てて落っこちていた。

 ポトリと地面に落ちたそれは、確かに弓矢である。

「あ、ほんとだ」

「そんなことより! やばいんじゃないの!」

 一瞬飛んできた矢に気をとられてしまったが、トンボの声にはっと我に返った。

「そうだった! さっさと切り札を教えてやらないと!」

「早く!」

「おうとも! セーラー戦士! キーワード「剣の畑」!」

 俺は力いっぱい叫ぶ。

 すると武器をなくしたセーラー戦士は相当ピンチだったようで、すぐさま反応を見せた。

「け、剣の畑!?」

 俺の声が聞こえたものの、意味が分からないらしいセーラー戦士は素直に復唱しただけだが……。

 それでいい。

 にやりとする俺。

 キーワードは問題なく起動して、セーラー戦士の胸のあたりが強く青い光を放っていた。


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