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三十四話 コスプレの境界 2
「さてどうしたものか……」

 とりあえず、気絶したままの彼女を介抱して自分の部屋に寝かせる。

 俺達はその傍らに椅子を用意して目が覚めるまで様子を見ることにしたのだが、はっきり言ってもてあまし気味だったのは否定出来ない。

 どこから来たかもわからないその女の子を見て、俺はため息を吐く。

 見事な金髪の女の子が静かに寝息を立てている姿は、どこか人形のようで出来すぎだとそう思った。

「どうもこうも、追い出すしかないんじゃがな。ここに住むのを許されたのはわしらだけなんじゃから」

 カワズさんはそう言うが、俺としてはそれ以外を希望したい。

「それはそうなんだけど……。色々と思う所もあるだろう? なぁカワズさん……。やっぱりこの娘、異世界人だと思う?」

 もしかしたら服だけ着た、こちらの人間かもしれないと、そんな可能性を口に出してみたのだが、それはあっさり肯定された。

「そうなんじゃろうな。こんな服、あえて着る理由なんぞないわい。異世界からの召喚は全くないわけではないしの」

「マジでか。いやしかし……そんなホイホイ出来るものでもないだろう?」

「もちろんホイホイは無理じゃよ? だが優秀な魔法使いがそれなりに準備を整えれば出来んわけではないんじゃよ」

 カワズさんの言葉で思い出したのは、自分で試した召喚の魔法だった。

 あれは生き物の召喚となると必要な魔力が跳ね上がる。

 それは俺もやってみて実感していた。

 ただ現にカワズさんは俺を召喚しているわけだし。

 それよりすごいこともやっちゃっていたような……。

「そういえばカワズさんって……」「うんん……」

 そこまで言いかけて、ベッドの上で眠っていた女の子が身じろぎしたので、俺は慌てて言葉を切った。

「お? 目が覚めたか?」

 俺がちょっとだけ女の子を覗き込んだその瞬間。

 シーツがいきなり俺の視界を覆っていた。

「!?」

 何が何だかわからない。

 だが、考える間もなく頭蓋骨を鷲掴みされ、腕を極められたらしい。

 気が付くと身動き一つ取れなくなって、首筋にヒヤリと冷たい何かが押し当てられていた。

 そして未だに混乱して目を白黒させていた俺の耳元で、恐ろしく鋭い声が囁かれる。

「十秒やる。お前は誰だ」

「えっと……それはこっちが聞きたいんだけど」

「だまれ、聞かれたこと以外しゃべるな」

「いやいやそういうわけにもいかないし」

「……!」

 浅く首筋を傷つけようとでもしたのだろう。

 しかし、俺にそんなもので傷をつけられはしない。

 害意あるものを遮断する結界は、いつだって何枚かは張ることにしているのだ。

 今日の結界の効果は……俺に直接ダメージがあるような行動をすればそれは自分に返る。

 ナイフは折れ、そして傷つけた本人にもだ。

「……え!」

 自分の首筋に痛みを感じたんだろう、驚いて女の子は飛び退くと、とんでもない速さで部屋の隅に逃げていた。

「情けないのぅ、あれくらい素早く反応せんかい、こうシュッっと!」

「……無理だって。俺ってば運動不足の現代人よ?」

「……いったいこれは」

 女の子は呆然と呟いて、部屋を見回していた。

 どうやらさっきのは頭もはっきりしないうちに、とっさにやっていたらしい。

 どこのプロだよと。いや、なんのプロなんだと。

 まさか寝起きに人の喉笛掻っ切ろうとする女子高生がいるとは思わなかった。

 しかし女の子はそれから何の言葉も発さずに、部屋の隅から真ん丸な目をして俺のベッドや、家具やステレオなんかを見回している。

 そしてほっと安堵した顔をしたと思ったら、腰が抜けた様にその場に崩れ落ちたのだ。

「私は……帰って来た?」

 誰に発した疑問なのかはわからない。

 しかし、その言葉で俺は彼女が異世界の人間であると確信出来た。

 だがおそらくは彼女の期待を裏切る言葉を、今から言わなければならないというのは実に心苦しかった。

「残念だけど、ここは君の世界じゃないよ」

「え……ええ!」

 俺を改めて見て、さらに驚く女の子。

 相手もよくわからずに殺しかけたとかやめてほしい。

 もちろん見て驚いているのは俺の格好だろう。

 Gパンに黒いシャツ。

 ちなみにクローゼットには、同じ物が十着近くある。

 すでに複製は終わっているので、いっそずっとこの格好でいこうと思っている。

「大丈夫? まさかいきなり殺しに来るとは思わなかったわ。こっちの世界に染まりすぎじゃないか?」

 笑い混じりの、ほんの軽いジョークのつもりだったんだが、次の瞬間別の意味で俺は硬直していた。

「ぐっ……う……ひっく」

「な、なに?」

 いきなり女の子の表情が強張ったと思ったら、ポロポロと大粒の涙を流し始めたからだ。

 予想外の事態にたじろぐ俺。

 女の子の涙というのは、予想以上に俺の精神を追い詰める効果があったらしい。

「あーあ、な~かした。タローそりゃあんまりじゃろ」

「俺のせいかな!」

 ここぞとばかりに攻め立て、ニヤニヤ笑うウザい蛙に構っている場合ではない。

「うぅぅ……」

「え! ちょ! ごめんね! 悪気はなかったんだよ!」

 ウェイウェイウェイ! ちょっと待って!

 何で殺されかけてこんなに必死に謝ってるんだ俺?

 とにかく女の子が泣き止むまで、俺はひたすらおろおろしていたのは間違いない。
そろそろ女の子の一人でも出してみるかと頑張ってみましたが難しいですね。


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