二十七話 竜の招待 1
不気味な薄暗い雷雲に、獣の唸り声のような不気味な音が鳴り響く。
雷の鋭い閃光が、窓から部屋に差し込んでいた。
後はカワズさんの試作機に、こいつを取り付ければいい。
俺はにんまりと目的の達成を見た。
カッ!!
青白いフラッシュが部屋を照らし出すと、俺は大きく目を見開く、そして……。
「ふははははは! ついに……ちゅいに完成だ!」
折角かっこよく科学者風に決めようと思ったのに、失敗しちゃった、太郎です。
「……噛んじゃった。ってよく考えたら魔法使ってたら意味ねぇや」
すぐに指を鳴らすと、窓に映してあった稲妻エフェクトが消え、いつもの爽やかな妖精郷が顔を出した。
映像を映すことに関しては、格段にうまくなってしまった俺である。
とりあえず仕切り直して、俺は恐る恐る目の前の鏡にタッチした。
魔力を吸い出される感じは……ない。
タッチされた鏡にはぼんやりと青い画面が映し出され、かわいくデフォルメされたカエルのロゴが現れた。
ちなみにこのロゴ、描いたのはトンボちゃんだ。
しかし今はそれは置いておくとしよう。
しっかりと起動した画面に、俺は思わず腰を浮かせて、狂喜乱舞した。
「イッヤッホぅ!!」
カワズさんは諦めた、しかし俺は諦めなかった。
魔法創造で何度も検索をかけ、ようやく見つけたのだ。
「カワズさん! 出来た! 出来たって!」
「はぁ? 寝ぼけとるんじゃないか?」
「そんなわけないだろう! ついに出来たんだよ!」
気晴らしを兼ねて湖で釣りをしていたカワズさんに、出来たばかりのパソコンもどきを持っていくと、普通に信じてもらえなかった。
そりゃないだろうカワズさんだ。
「ほんとだって! とりあえず見てくれ!」
カワズさんに完成品の魔法パソコンを見せると、やはり露骨に薄い反応だった。
「ふむ、こいつはこの間作った試作機じゃないか? 何をしたんじゃ?」
「こいつに魔力を自分で溜める魔法をかけたんだ!」
「……ほんとかそれ?」
疑わしげなカワズさんに、俺は笑顔で頷いた。
「ああ! カワズさんが妖精郷を見つけた時、言ってたろ? あのラインとかスポットとかって。
たしかあれも魔力だって言ってたから、利用出来るんじゃないかと思ってさ、検索してみたらあったんだよ! ラインの魔力を使う方法ってやつがさ!」
無いならよそから持ってくればいいじゃないと、覚えたての単語で検索してみたら見つけたのだ。
見つけてしまえば後は早い。
カワズさんは、非常に興味があるようだが、はしゃぐのはプライドが許さない様である。
「ほ……ほう、それは興味深い話じゃな。だがありゃぁ人間の魔法に使えるような代物じゃないぞい? いうなれば加工前の油みたんなもんじゃ」
「だろ? そしたら、その魔法を使うには魔石ってやつが必要らしくて、この魔石を作る魔法ってのがまた魔力馬鹿食いすんの」
「ま、魔石を作ったじゃと!!」
だが俺が得意げに解決法を自慢すると、カワズさんが声を荒げた。
水を差されて眉間にしわを寄せる俺だったが、カワズさんは俺の視線に気が付くとハッと我に返って露骨になんでもない風を装っていた。
口笛、出てないぞカワズさん。
いったいなんだというのだろうか? さっぱり理解不能である。
「……どうしたんだよカワズさん」
「い、いや? なんでもないんじゃよ? 大したことじゃないんじゃ。あれじゃよ、しばらく黙っておると、声を出す時ちょっと大きめに出しちゃったりすることあるじゃろ? それで……その作った魔石というのは、どんな感じなのかの?」
「……ああ、いくつか試作品を作ったんだけど」
変だとは思いつつ、ポケットの中にしまっていた失敗した魔石を取り出すと、カワズさんの目の色が思い切り変わった。
例えるなら……欲に目がくらんだ顔だ。
「……」
魔石を右に動かしてみる。
カワズさんの目線が露骨に魔石を追った。
さらに左。また追う。
これは……この魔石とやら、何かある。
俺の瞳はきらりと輝いた。
「まあ、これはちょっと魔力を少なく籠めちゃってさ、小さかったからもう捨てるよ」
そして魔石を振りかぶると、湖に投げてみたのだが。
「……こんの、ばっかやろぅ!!」
顔色をいきなり変えたカワズさんは、なんと湖に飛び込んだのである。
これには俺も驚いた。
しかもカワズさんの泳ぎはバタフライだった。
手の中にある魔石を眺めて、どうしたものか悩む。
どんな反応をするかと思って、小石を投げたのだが。
「冗談だから戻ってこいよー」
流石に素潜りを始めたあたりで気まずくなって、魔石を振り回してカワズさんを呼び戻すと。
あ、帰ってきた。
「……」
ぽたぽたと水滴を滴らせ、湖から這い上がってきたカワズさんは無言である。
「え、えーっと、よ! 水も滴るいい男!」
「意味わからんし! そういうことしたらいかんのじゃないかの!」
そして、涙目で怒られてしまった。
さすがにちょっとかわいそうだったが、欲に目がくらんだ自業自得のような気もする。
「いやだって、まさか飛び込むとは思わなかったし……」
「ふん! その石の価値を少しでもわかっていたら飛び込みたくもなるわい」
カワズさんはすねてゲロゲロ鳴いていた。
しかし、そんなに値打ち物なのかこの変な石。
見た目、光沢のあるだけの真黒な石なのだが、宝石にしては普通に地味だと言えるだろう。
「……やっぱ高いんだなこれ?」
パッと見そんな風には見えないんだけれど。
手の中で魔石を転がしていたら、カワズさんはようやく諦めたのか、ため息交じりに白状し始めた。
「……ああ、その小さな魔石でも売れば屋敷が買えるぞい。
だがそれだけじゃない。
そいつは魔法使いなら喉から手が出るほど欲しいもんなんじゃ」
「へぇ、こんな石がねぇ。なんでまた?」
「はぁ……それは自分の魔力を溜めておけるんじゃよ」
カワズさんはじっと魔石から目を離さずに言うが。
「……溜めておけるとどうなるの?」
俺が今一わかっていない風に尋ねると、何か言いかけたカワズさんだったが、すぐに諦めていた。
「……まぁお前さんにはあんまり関係ない話じゃがな。いざという時に魔力をストック出来るのは強みなんじゃ、普通は。
しかも溜めた魔力は、後から上乗せして使えるんじゃよ。例えば100魔力があるものが100の魔力を溜めこめる魔石を持っておれば、200の魔法が使える。単純に二倍はかなり大きいじゃろ? 普通は」
カワズさんの恨みがましい視線はこの際スルーでOKである。
「……へぇ、そりゃあ大した石だけど、あんまりありがたみはないかな? 作れるし」
まぁ結局はそのあたりの感想で落ち着くのである、作れるし。
「……ああそうじゃろうよ! ったく! これだから物の価値のわからん奴は!」
「おいおいカワズさん、物の価値なんて所変われば変わるもんだぜ? 異世界なんかに来たらなおさらだって」
「まぁそうなんじゃがの……。魔石はとにかく希少なんじゃよ。まぁもっとも、小さい奴ならせいぜい貯めておけるのは10や20が関の山じゃし。大きいものとなれば50くらいは貯められるんじゃが、そのくらいの大きさからガツンと値段も上がってくる。500まで溜められるものがあると聞くが、そこまでなると国宝級の代物じゃ」
「へぇ。すごい。カワズさんの半分くらい?」
「……そう言われると実にしょぼく聞こえるからやめてくれ。だが言うなれば、熟練の魔法使いが命を懸けて使わねばならない、魔力分じゃ」
「……なるほど。それはすごいかも」
言い方次第で印象は変わるものである。
確かに、魔力を使い切ったら死んでしまうんだから、1000魔力があったとしても1000魔力を喰う魔法は使えない。
そういう意味で、これの補助はずいぶん助かるのだろう。
ようやく理解の色を俺が示すと、カワズさんも大きく頷いた。
「そうなのだ! 他に魔石と同じことをしようとしたら、人を生贄にするしかないんじゃよ」
「そういえば、俺が召喚された時、虐殺がどうのと物騒なこと言ってたっけ?」
「ああ、生き物からも魔力を絞り出すことは出来るんじゃ。だからこれは魔法使いにとって命に近い価値がある。いくら積んでもこれを手に入れたい魔法使いは、それこそいくらでもおるよ」
カワズさんは重々しく頷いて、きっぱり言い切った。
「だけど使っちゃうんだけどね」
そして俺もきっぱり言わせてもらった。
せっかく苦労して見つけたのに諦めるなんて事出来る訳がない。
とは言ってもそんなに貴重なものだというのなら、多少の安全装置も考えておかねばならないか。
分解すると自爆する魔法でもつけておこうかな?
こっそりとそんなことを考えてはいたが、やはり使うのは決定事項である。
カワズさんもその辺りはもう慣れたもので、あっさりと納得していた。
「わかっとるよう、もったいないのぅ」
未練はたらたらのようではあったが、これがないと今までの研究成果が全部水の泡になるのだ、ここは使うしかないだろう。
「まぁともかく完成したんなら、配り歩かなくっちゃな。もう転送魔法の箱は?」
「出来とるよ。だがそれは気が早いのではないか? まず増やさねば始まるまい?」
これから量産することでも考えているのだろう、カワズさんはうんざり露骨に嫌そうな顔をしていたが。
残念だがカワズさん、俺には秘策があるのだよ。
「ふっふん。カワズさん、俺がその辺の事、何も考えてないとでも思ってたのか? ちゃんとそのための魔法ならダウンロードしてるって!」
パソコンプロジェクトはここからが本番なのだ、すでにその方法は開発積みだ。
俺はあらかじめダウンロードしていた魔法をパソコンもどきにかけると、対象がもこもこと動き出す。
そして……。
「うわぁ……気持ち悪いのぅ」
カワズさんが漏らしていたが、パソコンもどきは俺たちの目の前でアメーバみたいに分裂したのだ。
気持ち悪そうにそれを見るカワズさん。
増え方はこんなだが、もちろん中の機構も同じものである。
「ほらすごい! 複製の魔法!」
「……ふ、複製じゃと?」
「そうだよ、一から作るのはテクニックがいるけど、ここにあるものを複製するなら割と簡単ってこと」
ちゃんと必要な魔力は持って行かれるが、安いものである。
「お前さんと一緒におると、わしの価値観も壊れ気味になるわい」
「なんだよ、面白いだろ?」
「ああ面白いよ。腹がよじれそうじゃわい」
にやりと笑みを浮かべるカワズさんに満足した俺は、いよいよこれをどこに持っていくか考え始めた。
海か……それとも山か?
前提条件として、ライン上でなくてはならない。
魔力の供給が出来て、食い物がうまい、もしくは有益になりそうな技術を持っている。
面白そうな相手と言うのも捨てがたい。
ともかく条件を満たす相手を見繕わなければならないというのは、土地勘のない俺にはなかなか骨である。
「誰かこいつを渡すのにちょうどいい相手がいないもんかなぁ」
「そうじゃのう……」
そんなことを呟いて、湖のほとりに身を投げ出すと、いきなり俺の頭の上がモリモリと盛り上がり始めたのだ。
ぎょっとして飛びのいたら、地面が割れて何かが出てくる。
「それならば、手始めに妾がそれの引き取り手を紹介してやろう」
薔薇がぞろぞろと湧きだし、聞き覚えのある声が聞こえると、前回とは少し違う色合いの女性がにょきにょき生えてきたのである。
「女王様?」
俺達が顔を上げると、そこには妖精の女王様が薔薇に囲まれて微笑みを浮かべていた。
この登場シーン、いくつかパターンがあったんだ。
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