十七話 俺的魔法活用法 7
「お父さん! 薬草持ってきたよ!」
「おお! ***! ありがとうな! でもあぶねぇことはもうすんじゃねぇぞ?」
「お父さん、お前を探しに行くって、今にも飛び出しそうだったんだよ?」
「うん……ごめんなさい」
家に案内されると、さっそく家族の感動のご対面です。
宿屋の裏手の家に案内された俺達は、親子の心温まる再開に立ち会っているのだが……普通に落ち着かない。というか居辛いです。
「……なんかお見舞いでも持ってきた方がよかったかのぅ?」
「……いいんじゃない? なんかこう、流れみたいなもんだし」
「ふむ」
部屋のベッドに寝ていたのは筋骨隆々の、おかみさんと同じくらいの歳のご主人だった。
引き締まった肉体は、俺と比較するならヨーグルトと鋼ほどの隔たりがあるだろう。
鍛冶屋すげぇって感じである。
しかし今は痛々しい包帯が腕にまかれていて、弱っているのも見て取れた。
「そっちの人達は?」
ご主人もやっとこちらに気が付いてくれたらしい。
俺が軽く会釈をすると、おかみさんがにこやかに紹介してくれた。
「ああ、***を助けてくれた人達だよ」
そう紹介されたとたんご主人は慌てて俺達にお礼を言ってきた。
「こりゃぁ、娘がご迷惑かけまして! ありがとうございます!」
「いやいや、全然そんなことはないですよ」
大喜びで頭を下げるご主人に、本当に大したことをしていない身としては恐縮だった。
「森まで探しに行かせちまって、面目ねぇ。本当は俺が行かなきゃいけねぇのに……」
「いくらなんでもその怪我なら寝ててください」
「いや! こんな怪我ぐれぇなんです! 母ちゃんに殴られてなきゃ間違いなく!」
ガツン。
ご主人が力説していたら、なんだか鈍器のようなもので殴られた音がした。
「何言ってんだいあんたは! 恥ずかしい!」
「……さすが母ちゃん、容赦ねぇぜ」
ベッドに突っ伏したご主人と、赤くなったおかみさんがなかなかシュールである。
なるほど、こうやって無茶を止められたわけか。
怪我人にも容赦ないツッコミは見習うべきなのだろうか?
……いや、危ないな、あれは普通に死ねる気がする。
「ねぇ、私が持ってきた薬草使ってみて!」
「ああ、そうだな! ありがとうな!」
「えへへへへ」
しかしご主人は、嬉しそうに笑うリボンちゃんを見て、すぐさま復活すると相好を崩していた。
それにしてもこのご主人デレデレである。
ダメージを感じさせないデレップリは隙しかなかった。
リボンちゃんが大好きなんだろう。
リボンちゃんも頭を撫でられネコのように気持ちよさそうにしていて、なんとも微笑ましい光景である。
おかみさんがその横で、今しがたリボンちゃんが採ってきた薬草を乳鉢ですり潰している様だが。他にもいくつかの草を入れて、出来上がったそれが、例の傷薬らしい。
「ほら、お父さんに塗ってあげな」
「うん!」
リボンちゃんはおかみさんから乳鉢ごと薬を受け取ると、布にそれを塗りつけていた。
まさか、これを湿布のように傷口に張り付けるのだろうか?
だがその見た目は、何歩譲ろうと潰した草、緑色の青汁のような見た目は、見るからにしみそうである。
俺は思わず顔を顰めるが、ふと見ていて思いついた事があった。
目の前には重傷の患者さんがいて、怪我で苦しんでいると。
ふむ……、これは試してみるにはちょうどいいかもしれない。
「……」
「どうしたんじゃ?」
「いや、ちょっとね」
カワズさんが目ざとく俺の様子に気が付いたらしい。
俺は何か言われる前に二人に話しかけていた。
「……なぁ、その薬ちょっと貸してくれる?」
「え? うん、いいよ」
不思議そうなリボンちゃんと、愛娘との団らんを邪魔されてちょっと不愉快そうなご主人だったが、そこはあえて無視させてもらおう。
「なんだい?」
「すいませんけど、ちょっと見せてもらっていいですか?」
「ああ、そりゃ構わねぇけど……」
薬を受け取ってご主人の傷を見てみると、それは素人目に見ても深い傷だとすぐにわかった。
しかし、俺とてただ単に傷薬を塗るためにわざわざリボンちゃんから薬を取り上げたわけじゃないのだ。
「俺が貼っても?」
「? あんた医者かなんかなのか?」
「……似たようなもんです」
俺はさらりと嘘を吐きながら、薬を塗った布を傷口に張った。
ご主人はやはり一瞬顔をしかめるが、ここからが本番である。
俺はそのまま布に手を当てて、魔法を使ったのだ。
それは森に入る前ダウンロードしていたある魔法である。
すぐさま魔法陣が現れて、暖かい光があふれ出た。
「……こいつは」
ご主人の呟きが俺の耳に届く。
そして数秒後、誰もが言葉を失うような奇跡が目の前で起こっていた。
傷がまるで逆再生のように癒されていたのだ。
骨が、肉が、皮が、本来あるべき姿に戻り、元の機能を取り戻してゆく。
光りが収まる頃には、傷口など元からなかったかのように綺麗に塞がっていた。
「「「「……」」」」
覗き込んでいた全員が言葉を無くす。
そりゃそうだ、俺でさえ度肝を抜かれるほどに、効果は抜群だったのだから。
「おぉ……、こいつはすげぇ! あんた……何したんだ?」
「え、えーっと。何のことです? これは娘さんの薬草が効いたんでしょう? ねぇ?」
さも当然のようにそうアピールすると、俺の言いたいことを悟ったように、ご主人はハッとする。
そして目じりに涙を浮かべながら何度も頷いていた。
「……ああ! その通りだな! ありがとな! ***!」
「うん!」
はははとひきつった笑顔の俺と、蝦蟇の油っぽいものを体から滲み出しているカワズさんは明らかに変だったが、幸い喜んでいる彼らには気が付かれてはいないようだった。
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