十六話 俺的魔法活用法 6
「おかぁさん~!」
「何やってんだい! このバカ!」
「ごめんな……キャン!」
拳骨を落とされて涙目になるリボンちゃんと、おかみさんとの和やかな? お説教タイムに、村の人達もほっと一息ついたようである。
リボンちゃんはどつかれた頭をさすりながら涙目になり、おかみさんは俺に深々と頭を下げた。
「あんた達本当にありがとうね! 森に入った時にはどうしようかと思ったよ、こっちの話を聞かないで行っちまうし」
「いやぁははははは……」
そういえば、大した説明もなく森の中に特攻かましたのを思い出した。
俺自身も心配をかけたようで、リボンちゃんの事を笑えないようだった。
「うちの宿屋には一日と言わず何度でも泊まりに来ておくれよ! 安くしとくからさ!」
「はっはっは。ありがとうございます。でも当然のことをしたまでですよ!」
「……よく言うわい、こいつ」
そこ、ちょっとうるさいぞ? カワズさん。
俺の顔がにやけていると言っても、決して思惑通りに恩が売れたとかそういうことであるわけがない。
娘さんが助かってよかったという崇高なものだ馬鹿者め。
リボンちゃんはおかみさんの服をグイグイ引っ張って、まだ興奮の残っている様子で俺のことを話し始めた。
「お母さん! このお兄ちゃんすごいんだよ! なんだかお話に出てくる魔法使いみたいだった!」
「へぇ……この子がこんな風に言うなんて、あんたよっぽどすごい魔法使いみたいだね」
「いやいや、ただの魔法使いですとも。それよりもせっかくとってきたんですから、その薬草、使ってみては?」
しかしそのあたりの話はあんまり突っ込んではほしくないので適当な話を振ってみる。
リボンちゃんはそうだったと、握りしめていた薬草を村の人に差し出すと、全員が驚いた顔になった。
「よく採ってこれたなぁ。あんたが手を貸したのか?」
そう口に出したのは、リボンちゃんに薬草のことを教えたという男である。
「いやいや大したことはしてないですよ、この子ががんばったんです」
えっという表情をしたリボンちゃんにこっそり人差し指を立てて秘密とジェスチャーしてみた。
頑張ったのは事実だし、怒られてばかりというのもかわいそうだろう。
リボンちゃんは感心した風の村人達に笑顔でもみくちゃにされていた。
「あんた達! この子が調子に乗るからやめておくれよ!」
「いや、実際大したもんだよ。森の中に一人で行って帰ってきただけでも……」
「それだけ奥に入った証拠でしょうが! まったく!」
一喝するおかみさんに、リボンちゃんも褒めようとした男達もシュンとしていた。
「でもあんた達もありがとね。この子のために集まってもらっちゃって」
しかし最後におかみさんが全員に向かって頭を下げると、集まっていた人達はみな一様に気にするなと笑っていた。
「そんなこと当たり前じゃねぇか! お互い様ってもんだろ?」
「それに、この宿に***ちゃんがいなくなると、さびしくっていけねぇよ!」
「さて、俺らも戻るか! 早くもどんねぇとカカァに尻蹴っ飛ばされちまう」
違いねぇと笑いながら解散していく町の人達を見て、この村の団結力と言う奴に驚いてしまった。
昨今じゃなかなか見られない光景である。
「なんか、みんなすごいですね」
「そうかい? こんな所で生きていくには協力し合わないと駄目なのさ」
さも当たり前に言ってのけるおかみさんマジ男前だった。
しかし、おかみさんはそろりと逃げようとしていたリボンちゃんをがっちり捕まえて、ぎろりと音が聞こえそうな鋭い視線を向ける。
「あんたにゃ後でもう一回説教だからね。 まったく心配かけて」
「で、でも父さんの怪我に効くって聞いたから……」
「馬鹿! こんなもののために命かけなくても、ちゃんと治療は出来るんだ! 命を粗末にするんじゃない!」
「ううう……そんなぁ」
がちんともう一回殴られるリボンちゃんには悪いが、今回は仕方ないだろう。
実際死にかけていたわけだし。
しかし、ここまで関わってしまった以上、気になるのはその噂のお父さんである。
怪我をしているという話だが、森で見たあんな化け物みたいなのに襲われたのなら、薬草ぐらいで治るような怪我なのだろうか?
それとも逆にどんな大怪我でもすぐに治る薬草だとか?
いや、ここは異世界だけに、そんな薬草もあるのかなという気がしただけなんだけど。
「なぁカワズさん、あの薬草って一発で怪我が治ったりするようなもんなの?」
とりあえずカワズさんに小声聞いてみると、あっさり否定されてしまった。
「そんなわけあるかい。確かにいい傷薬にはなるがの」
あー、そうなんだ、残念である。
「やっぱり悪いんですか? ご主人」
結局どんなものなのか、おかみさんに尋ねてみると、おかみさんらしくない影のある表情で、今度はちゃんと答えてくれた。
「まぁねぇ……。怪我が結構深かったからね。動くようにはなりそうだけど、今迄みたいに鍛冶屋が出来るかは微妙でね」
信頼度が上がったのか、酒場で話していた時と違って、重めの話を聞けてしまった。
それは思った以上に大事なのではないか?
冷や汗をたらしつつ、迂闊な質問だったかと後悔した。
「……なんかした方がいいのかな? カワズさん?」
「どうかのぅ? お前さんの好きにすりゃよかろう?」
「そりゃそうだけどさ……」
単純に魔法を使えば、どうにかなるのかもしれないが。
しかしそれは何か違う気がするのだ、俺のあり方的に。
今の俺に魔法を使わないという選択肢はない。
ただ求められてもいないのに、ホイホイ使うというのも少し違う気がする。
今更な気もするが、基本的に魔法は隠すもの、であるとは思うんだよ。
じゃあどういう基準で俺は魔法を使うべきなのか?
その明確な基準を俺なりに作らなきゃいけないと、山を吹き飛ばした時点で考えてはいるのだが、今だ答えは出ていない。
思考の深みにはまりそうになった時、不意に袖を引かれた。
そこにはリボンちゃんがにんまりと満面の笑みを浮かべていた。
「ねぇお兄ちゃん! お父さんのお見舞いいこ!」
「あ、ああ……」
なんとなくおかみさんの方を見るとおかみさんも大きく頷いて。
「ああ、よかったら会ってやってくれるかい?」
と俺達に微笑ましそうな表情でそう言った。
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