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十五話 俺的魔法活用法 5
「大丈夫?」

「……ヒック……うん」

 ようやくリボンちゃんも落ち着き始めたそんな頃、カワズさんはのこのこ現れた。

 そんなカワズさんには、冷ややかな視線とごく端的な感想をプレゼントするとしよう。

「カワズさんマジ役立たず」

「なんじゃ開口一番! これでも慣れない森を急いできたんじゃぞ!」

「……それにしたって遅いじゃないか。ちゃんと魔法は解かずに来たってのに」

 森の道案内は継続中なのである。

 そしてテレポートしたと言ってもそんなに遠くというわけでもない。

 じっとカワズさんを眺めていると、カワズさんは数秒後にだらだら汗を流し始めて、ついっと視線を逸らした。

「……怪我も無いようじゃし、よかったんじゃないか?」

「やっぱり寄り道してやがったな! こっちはでかい犬と鉢合わせたり、大変だったんだぞ!」

 ちなみにあの犬は軽くジェスチャーで追い払うと、好機と見たのか、まっすぐ森の奥に逃げて行った。

 木があろうが、岩があろうがまっすぐである。

 進行方向にあるものことごとくを粉砕する犬に、どっちが化け物なんだと一言言ってやりたかった。

 だがあれと遭遇したと言うのに、この森の中で一番難儀したのが子供に泣きつかれた事というのが何とも締まらない話だ。

 そろそろいいだろうと、俺は今まで中腰だった腰を伸ばす。

 だが完全に泣き止んだわけではないリボンちゃんは、まだギュッと俺の服を握りしめていた。

 しかしカワズさんとも合流したことだし、いつまでも子供連れでこんな場所にいるのも問題だろう。

 俺はやんわりとリボンちゃんの手を繋ぎ直して、そのまま手を引いて村に連れて行こうとしたが、何やら手ごたえがあって、立ち止った。

 不思議に思って視線を戻すと、リボンちゃんはしゃくりあげながらも、なぜか動くそぶりを見せないのである。

「どうしたの?」

「まだ……薬草……とってないの」

「あらー……」

 涙の余韻を残しているくせに、リボンちゃんははっきりそう言ったのだ。

 この子、まだ薬草取る気満々だ。

 相当根性の座った子であるのは間違いないらしい。

「あー、その薬草、どんなかわかる?」

 一応尋ねてみると、リボンちゃんはスカートのポケットからくしゃくしゃになった紙を取り出して俺に手渡してきた。

 そこには葉っぱと花らしき絵が描いてあり、特徴が説明してあるらしい。

「こんな葉っぱの草……だって、おじさん言ってた。それで……この時期になると……赤いお花が咲くんだって」

「なるほど、って言っても俺、薬草探しなんてしたことないしな」

 ざっと見回してもこんな草は見当たらない。

「大丈夫! 私ちゃんと場所聞いてきたから! だからお願い! お兄ちゃん達も手伝って!」

 しかしリボンちゃんは必死に俺に頼み込んで来たのである。

 涙目の女の子に、懇願されてかなり怯む。

「うーん。どうしようかな?」

 しかし村の人達がすごく心配しているのも知っているだけに気が引けた。

 第一、探すのを手伝うのもめんど……もとい、はっきり言って山歩きの知識すらない俺が探し出すのは難しそうだった。

 しかし俺はぴんときた。

 植物関連の魔法なら仕入れているじゃんか。というか絶賛使用中じゃないか。

 となれば簡単なことである。

 俺はこほんと咳払いすると、不安そうなリボンちゃんの頭を撫でた。

 探せないなら向こうから来てもらえばいい。

 幸い三十分にはまだ少し時間がある。

「わかった。ちょっとなんとかしてみるわ」

「?」

 口で説明する自信がなかったので、とりあえずリボンちゃんには見ていてもらおう。

 ちょうどいいので、せっかくだからリボンちゃんに完全に泣き止んでもらえる細工もしてみるとしよう。

「さてこの辺り一帯だ、一種類ずつここに集まれ!」

 楽しくな、と心の中で付け加えておいた。

 まぁ呼びかけとは言っても、強制的に集めているだけなんだが。

 ただ、植物というやつは俺よりもよほどセンスがあるらしい。

 言葉を発した途端、リボンちゃんの息をのむ音が聞こえた。

 地面からポコリと双葉が顔を出す、それを合図にみるみるうちに色とりどりの花が咲き乱れて、地面を飾り付けたのだ。

 力強く樹木が絡み、花は花弁を揺らし、踊る。

 花粉が舞い、胞子が破裂して景気よく宙を漂いながら、キラキラと輝いていた。

「もういっちょ!」

 俺が指揮者のように手を振る。

 するとそれに合わせて盛大に花の渦が森を彩った。

 次から次にめまぐるしく変化する森の情景に、少女は見入っているようだった。

 舞台のような演出に、俺も胸の高鳴りを感じてしまったくらいである。

 やるじゃないか森。

 リボンちゃんも泣き止んだし。

 しかし、やりすぎると森の形が変わりそうだったので、程よいところで止めておくことにしよう。

 もっともその時にはすでに俺達の周りは軽い花園のようになっていたが。

「なかなかのもんじゃのぅ」

「……すごい! おにいちゃんすごいよ!」

 いいもん見たという風のカワズさんに、目を真ん丸にしたリボンちゃんの視線が何気に気持ちいい。

 特にリボンちゃんは大興奮だった。

「さてと、これと似たような草は……」

「あっち! あそこで揺れてる!」

 おお、どうやらまたしても俺の声に反応したらしい。

 さて目的のものを見つけることには成功したが、ふとこんなにも言うことを聞いてくれる植物を引っこ抜くのはいかがなものかとか考えてしまった。

 そんな俺の横をとことこと歩いて行ったリボンちゃんは、容赦なく目的の草をひっこぬくと輝かんばかりの笑顔でそれを俺に見せてきた。

 ですよね。

 でも可愛かったので良しとしよう。
植物操作大活躍すぎますね。


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