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十三話 俺的魔法活用法 3
「おや? なんか騒がしいな」

 朝……とはいってももう昼近いが、宿で一泊して起きだした俺達は、なんだか下が騒がしいことに気が付いた。

 下の階を覗いてみると、おかみさんがなにやら心配そうな顔をしているし、周りの見慣れないおっさんやおばさん達も、そんなおかみさんをどうにか励まそうとしているように見える。

 しかもあわただしく鎧や武器まで手にしている所を見ると、戦前のようで物々しい。

「どうしたんです? なんか大変そうですけど?」

 流石にただ事でないことぐらい察することが出来た俺達も、話を聞こうと降りてゆく。

 するとおかみさんは焦りを隠そうともせずに俺達に言った。

「あんた達 ***を見かけなかったかい!」

「……ってーと、あのリボンの子のことかな?」

 ここにいない知り合いの顔を思い出して、自信なさげに言ってみると、おかみさんは頷いた。

 だが今起きてきた人間がそんなことを知っているはずもない。

「残念だけど見てないです。どうかしたんですか?」

「そうなんだよ、あのバカ。森に入ったかもしれないんだ……」

「森に?」

 森というと、昨日まで物騒だと話していた森のことだろうか?

 それは確かに心配な話である。

「すまねぇ、俺が余計なこと言っちまったばっかりに……」

「そうだぞ! 馬鹿野郎!」

 周囲にどつかれているのは、皮の鎧を着たおっさんだった。

 このおっさん、森での薬草の採集を生業にしていたらしく、昨日も酒場でそのことを話題にしていたらしい。

 そこに食いついたのがリボンちゃんというわけである。

「ついつい森の中にある薬草のこと話しちまって。それならお父さんが治るかもとか昨日言ってたし……ほんとにすまねぇ!」

 おっさんは謝りながら、本当にすまなさそうに頭を下げていた。

 この近辺の森はかなり危険な、魔獣と呼ばれる動物まで出没する物騒な森らしいのだが、それでも普段ならまだよかったのだそうだ。

 ただこの二・三日何故か魔獣の活動が活発になってきていて、余計にみんな心配しているらしい。

「他の奴らにも昨日、熱心に薬草のことを訪ねて回ってたそうなんだよ……」

 そして今朝になってリボンちゃんの姿が見えず、探していると。森の方に走ってゆくリボンちゃんを目撃した人がいたらしいのだ。

 それでなかなか帰ってこないリボンちゃんをいよいよ探しに行こうというわけだ。

「あの子が何も言わずに、何時間も帰ってこないなんてこと今までなかったんだ。
ひょっとしたら何かあったのかも……」

 不安そうなおかみさんも含めて、周りの人達の表情も心配そうに陰っているようだった。

「……なんか大変そうじゃのう」

 カワズさんも心配そうにしていたが、その後付け加えるように呟かれた台詞に、俺は身を固くした。

「……魔物があわただしいのはわしらのせいかもしれんがな」

「……どういうことだよそれ?」

 とっさにカワズさんを、話の聞かれない隅に連れ込む。

 するとカワズさんはやれやれと小声でその理由を口にした。

「昨日も言わんかったか? 魔力を感じる力ってのがあるんじゃよ。そういう力は人間以外の者、例えば野生の動物の方が敏感なんじゃ。お前みたいな天災並の魔力が近づいてきたら騒がしくもなるわい」

「……するってーとなにかい? この騒ぎの一因は俺達にあると?」

「間違えるなよ? 俺達じゃなくて、お前じゃ」

「……」

 俺は思わず気まずさで口を噤んだ。

 それは色々まずいんじゃないか? 精神衛生的に考えて。

 昨日知り合ったばかりとはいえ、小さい子が今、死にそうになっている。

 主に俺のせいで。

 タイミングが悪かった、そんなの知らなかった。

 色々と言い訳も出来るが、もう知ってしまったわけだし。

 通りすがりのお客さんが首を突っ込むべきじゃないとは思いつつも、どうにも嫌な汗が流れた。

 やっぱ、なんか悪いよな。

 いい宿を紹介してもらったわけだし、ならばいっそ恩として返しておくのもいいだろうか?

 慌ただしくなってきている中、気は引けたが俺は意を決しておかみさんを呼び止めた。

「それなら俺が森を捜してきましょうか?」

 だが俺の申し出が意外だったのだろう、おかみさんは驚いているようである。

「そりゃぁ、手を貸してくれるってんならうれしいけど……」

「たぶん大丈夫ですよ、これから歩き回る予定なんで」

 ぎょっとする一同の視線をさらりと受け流し、俺は努めてにこやかに頷いた。

 一番驚いているのがカワズさんだというのが納得いかないが。

「……本当にいいのかい?」

 しかしおかみさんも続く俺の言葉に、かなり慌てていたようだった。

「しっかり見つけてきますよ。あー、それと、もう三十分くらいみなさん、森に入らないで待ってて欲しいんですけど、いいですかね?」

「おいおい、まさか一人で行くつもりか! いくらなんでもそりゃ無茶だ!」

 すぐに、冒険者風の男が疑問を口にするが、適当にごまかしておく。

「まぁどっちにしても本当に森にいるかどうかもわかりませんから。ちょっとした秘策もありますし」

「秘策ってあんた……!」

「俺魔法使いなんで。とにかく、今から三十分です。それじゃあ行ってきます」

 そう言うと、俺はばっさりと話を打ち切って外に出る。

 時間もないことだし、これ以上呼び止められるのも面白くないだろう。

 よそ者のたわごとと切って捨てられないうちに、俺は森に向かうことにした。


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