ちょっと気持ちが悪い表現があるので、想像力控えめでお読みください。
十話 ジャックの豆の木? 2
道中のどかな風景を酔い止め代わりに楽しんでいたら、急に馬車が急停車した。
何事かと顔を上げると、カワズさんは馬車を適当な茂みに隠して、静かについてこいと俺を促した。
「なんだよいったい?」
「静かにせんか、ついてくりゃわかる」
「なんだか嫌な予感しかしないんだけどなぁ」
わけもわからず付いて行き、藪の中を進むこと数分。案内された茂みの隙間から進められるままに覗きこむと、そこには動く人間がいたのだ。
何げに第一異世界人発見である。
しかし彼らはどこかピリピリとしていて独特の緊張感を離れていても感じ取ることが出来た。
「なにあれ?」
俺は指をさしてカワズさんにそう尋ねると、カワズさんはめんどくさそうな顔をしていた。
「兵隊じゃよ……ここは国境じゃからな」
「関所ってやつか、初めて見た……」
そこは確かに関所らしく、兵隊さん達が沢山いるらしい。
通りでみんな物々しい武装をしているはずである。
もう少し楽にしてくれてもいいのにとは思ったが、そういうわけにもいかないのだろう。
そして少しばかり人数が多い気がするのも気になった。
「なぁ? あいつら、ひょっとして俺達を探しに来たとか?」
不安になって尋ねてみると、カワズさんは首を振って否定した。
「いや、そうとも限らん。この辺りは盗賊や魔物がよく出るからのぅ。その討伐とも考えられる。
だいたい事が大きすぎて何が原因かなどわかりゃすまい」
カワズさんの言う「事」とは例の山の一件か。
山がなくなりました。どうすればいいですか?
もしそう尋ねられたら……俺ならなんて答えるだろう?
原因を調査しなさいぐらいは言うかもしれないが、それ以上何か思いつくとも思えない。
「……どっちにしろ、目的地に行くにはあそこを通らないといけないと?」
「そうじゃな」
何ともあっさりなカワズさんに、俺もうんざりしながら兵士達を改めて確認して見た。
一糸乱れぬその動きは、訓練されていることを俺でも容易に察することが出来る。
なるほど、まともに相手をするのはかなり面倒くさそうだった。
「さて……どうしようか?」
普通に越えるだけなら案外楽に行くのかもしれないが、しかしこっちには馬車がある。
食糧や寝床を捨てていくには、後三日はかかるらしい道中は厳しそうなので、どうにかしたい所ではあった。
「何か気を引ければいいんじゃがのぅ」
「じゃあ、いっそなんか魔法で……」
「なんじゃ? 関所ごと吹き飛ばすのかの?」
「……カワズさん、俺をなんだと思ってるんだよ?」
なんだか人聞きの悪いことを言われた。
人を破壊魔か何かと勘違いしているんじゃないか? このカワズ?
だとしたらはなはだ不本意だが、しかし何か言う前に、逆にじとっとした視線を向けられた。
「山を吹き飛ばした奴がなに言っても説得力ないぞい」
何を言い出すのかと思ったが、もっともな意見である。
何も反論出来やしない。
俺の負けである。
そこか勝ち誇ったようなカワズさんは敗者に何を言うわけでもなく、興味を兵士達に移したようだった。
「……どうしようかのぅ」
「気をそらせる物って言っても森と道しかないけど」
「そりゃそうじゃろ」
なにか、こう軍隊的なスキルでもあれば気を引くぐらいは出来そうだけど、あいにくとそんなものは持ち合わせてはいない。
精々石を投げるくらいだろうが、絶対見つかるだろう。
となると、やはり頼るのは魔法ということになる。
「いっそ空を飛ぶとか? こうきーんと」
「アホか。空なんぞ見つけてくださいと言ってるようなもんじゃないか」
思いつきの案は即座に却下された。
他には動物とか山賊とか、適当に騒ぎでも起こしてくれたらいいんだろうけど、そんなに都合よくは……いくかもしれない。
「ならこんなのどうよ? 大量のミミズが地面から這い出す魔法を……」
「却下! 気持ち悪いわ!」
「あー。それじゃあ、蛇の大群がなだれ込んでくるとか?」
「……なんで大群系が主なんじゃ?」
「いや、森に沢山いるかなって。じゃあ……森の木が突然動き出すとかどうよ?」
先の二つが気持ち悪いし、危なそうなのは認めよう。
最後に本命の魔法っぽい提案をすると、それでもカワズさんは嫌そうに顔をしかめていた。
「うぁ……。なんでそんな気持ち悪そうなのばっかりなんじゃよ? 兵隊に何か恨みでもあるのか?」
「そんなことはないけど……あれだよ。俺なら絶対嫌だから。パニックにはなるかなと?」
「……そりゃ大パニックじゃろうがな。うーむ……その中じゃ一番最後が比較的ましかのぅ?」
「えー、個人的にはミミズがおすすめなのに」
「却下じゃ」
案の定バッサリと切り捨てられてしまった。残念。
どっちにしても大量の問題はありそうだったが、どれでも盛大に気はそらせることだろう。
俺は、あらかじめ植物を操る魔法をダウンロードしておく。
何気に役に立ちそうな魔法である。
少なくともこれから先、野菜の心配はしなくてよさそうだ。
「それじゃ、さっそくやってみようか?」
「なんだか不安じゃが、では頼むぞ」
だがまぁ、そんなことを言い合いながらも、俺達が二人そろって笑いを堪えているのは明らかである。
茂みの中から関所を眺め、ニヤニヤといやらしい笑いを浮かべる二人組。
今見つかったら確実に不審者としてしょっ引かれるに違いない。
しかし、このなんとも言えないドキドキ感はなんだかドッキリの仕掛け人にでもなった気分である。
「じゃあ行くぞ? ……植物達よ、派手に兵士を脅かせ!」
掛け声とともに、光る魔法陣が現れて、俺の魔力を持っていく。
魔力は森に溶け、辺りの茂みに予定通り変化が現れた。
このまま俺の命令通り、森が動き出す……はずだったんだけど。ただそれはどこか様子がおかしかったのだ。
どこからか、変な地鳴りがし始めたのがその始まりだった。
「……む?」
カワズさんの唸る声が聞こえ、俺もなんだか嫌な予感する。
だがすべては遅かった。
ズボン!!
いきなり一帯に響く轟音と震動。
それは揺れなんて生易しいものじゃなく、俺達の体は気が付けば見事に天高く突き上げられていた。
「ぎややああああああ!!」
「ぬおおおお! おぬしなにをしたんじゃ!!」
いきなりとんでもない勢いで体が飛んだと思ったら、気が付くと遥か上空にカワズさん共々吊られていたのである。
マントに引っかかっているのは木の枝らしく、それが俺達をまとめてドッキリさせてくれた張本人らしかった。
「……いったい何が起きたんだ?」
ふらふらする頭をはっきりさせて辺りを見回すと、隠れていたはずの森は姿を消し、ただ空があった。
というか空しかなかった。
当然だろう。
俺達が今引っかかっているのは天まで届いている巨木の中腹だったんだから。
「……お前さん、どんな魔法を使ったんじゃ?」
「どんなって、植物を操る魔法を……」
「なんて命令した?」
「……派手に兵士を驚かせろ」
「……確かに驚きはしたじゃろうな」
「…………だなぁ」
どうやらまたやってしまったらしい。
カワズさんは黙って天を衝くように聳える植物を見上げて、わざとらしく俺に聞こえるようにため息を吐く。
「お前はちっとは加減を学ばんといかんらしいなぁ」
「……返す言葉もございません」
さすがに俺もこればかりは、素直に謝る他ないだろう。
ここからだと下の関所が豆粒みたいに見える。
そこで小さな人影が大わらわで騒いでいるのが見えた。
絶対大パニックだろう。
うむ、やらかしてしまったことに変わりはないが、どうやら目論見自体は一応成功したらしかった。
「とりあえず……どうしようか?」
となるといつまでも宙吊りというわけにはいかないだろう。カワズさんの声の方に呼びかけてみると、疲れぎみの声が返ってきた。
「降りるしかあるまい? どうやって降りるかが問題じゃが……」
「……むむむ。ならこんなのどうよ? テレポート!」
「テレポート?」
「そう! 降りるところを見られるわけにもいかないし! 瞬間移動すんのさ! 馬車まで!」
俺が思いつきの提案をするとカワズさんが押し黙る。
「……」
「どうしたんだよ黙り込んで?」
「そんな便利な魔法があるなら、最初から素直に関所の向こうにテレポートとやらをすればよかったんじゃないかのぅ?」
「……そだね」
気がついても後の祭りだった。
しかもあっさりテレポートまで成功してしまって、俺もなんだか泣けてきた。
ところでこのでっかい木「ジャックより愛をこめて」とか書置きを残しておいたら例の豆の木と同じように呼ばれたりしないだろうか?
ちょっと試してみようかな?
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