ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
七話 ここがどこだか教えてほしい 7
「あーなるほどのぅ! これはあれじゃな! わしの翻訳魔法のミスじゃな!」

 なんだか一人で納得している爺さんは謎が解けたのがうれしいのか、ご満悦でした。

 こっちとしては冗談ではない話だが。

「……なんだよそれ」

 呆れ顔でそう言うと、爺さんは気まずそうに慌てだした。

「仕方ないじゃろ! 翻訳魔法は専門外なんじゃ! これでも結構頑張ったんじゃぞ? それに誤作動の原因はお前さんが異世界人だということも関係しとるじゃろうし!」

「あー、責任転嫁も甚だしいな、そういうもんなの?」

 何となく異世界旅行よりは簡単そうだというイメージがあったのだが、どうにもそうではないようである。爺さんは多分難しい顔をしていて、いかにも無理なんですとそんなポーズだった。

「いやなに、言語というやつは天然であるもんじゃないじゃろ? 意思疎通するために誰かが作ったもんなわけじゃ。
だから調整は難しいし、とことん繊細な魔法なんじゃよ。
わしも辞書や言語パターンをかなり意識してがんばったつもりじゃったが、名前となると話が違った。だから会話はすんなりと成立しておるが、名前は厳しかったというわけじゃ」

「またなんだか厄介そうだなそれ」

 あれだな外国語を訳すると、翻訳ソフトじゃ名前のとこだけ英文で出てくるようなもんなわけだ。

 しかもあえて原文の方の音声はカットされているっぽい。

 だから翻訳不能な名前の部分だけ、意味不明なノイズで聞こえるらしいと。

 二重音声にならないようにする工夫っぽいのだが、これでは名前を特定することすら出来そうになかった。

「それなら俺がちゃんとした翻訳の魔法落とすよ」

「いや、それはやめておけ。その手の魔法は重ね掛けするとわけのわからんことになるから、下手したらパーになるぞ」

「……じゃあ魔法解けよ」

「無理。ぎりぎりで突貫調整したから解き方がわからん」

 俺は無言でカエルの頭部にアイアンクローをかました。

「いたたたた! 何すんじゃお前は!」

「何すんだじゃないよ! どこまで人様の体にいい加減なことしてくれてんだ! このカエル!」

「……えへ♪」

「えへじゃないだろう!」

「仕方ないじゃろ! 死にかけの割にはよくやったと褒めてほしいくらいじゃわい! ええい放さんか!」

 ぺいっと俺の手を振り払い、爺さんは頭を撫でながら脱出すると面倒臭そうに言った。

「仕方がないのぅ……ちょっと待ておれよ」

 そして爺さんは俺の頭に手を置くと、何かぶつぶつとやり始める。

「……」

 しばらく黙って見ていたら、爺さんが俺のおでこをつついた。

 すると小さな魔法陣が一瞬光り、パッと目の前で散ったのだ。

「……よし、ちょっとおぬし、もう一回名前を言ってみぃ」

「……紅野 太郎」

「よし! 成功じゃ! コーノタローじゃな!」

「おお!!」

 ちゃんと返ってきた自分の名前に感動するとは思わなかった。

 それがお気に召したのだろう、爺さんは得意げに胸を張った。

「ふふーん! すごいじゃろ!……とはいっても、場当たり的に対応しただけじゃがのぅ。
お前の名前がこちらの人間に問題なく翻訳されるようにしただけじゃ。根本的欠陥はまた長い事研究せんと……無理じゃな」

「そこは頑張ってくれよ。するとなんだ……俺は人の名前を決して覚えられないかわいそうな子になったわけだな?」

 声に出してみるとやはり、かなり間抜けな状況である。

「……まぁ要約するとそういうことじゃな。だがわしの名前だけは教えておこうかの……どれ」

 そう言って、もう一度爺さんは俺の頭に手をかざすと、先ほどと同じような光が散っていた。

「わしの名前は***じゃ。覚えたか?」

「……悪い、聞こえない」

「なに? ふむ、やはりちぃと厄介そうじゃの」

 どうやらこの欠陥魔法、本当にあっさり解決出来るほど単純なものでもないらしい。

 うわぁ、本当もどかしすぎる。

「……まぁいいか。俺の名前が通じるようになっただけでも儲けものと思っとくよ。 元々人の名前とか覚えるの得意じゃなかったし。
……となるとニックネームで個人名を言うキャラづけとかしてみるとか?」

「ニックネーム?」

 苦肉の策だが、この際しかたがないだろう。

「そう、俺が勝手につけてそう呼ぶ。早速練習してみようかな? それじゃあ……爺さんのこと、これからカワズさんって呼ぶから」

「カワズさん? なんだかそこはかとなくむかつく響きじゃのぅ」

「そんなことないだろ。わりとチャーミングだろうがよ」

「そうか?」

「そうだろう」

ウムと力強く頷く俺は、割と本気である。

「うむぅ……、まぁええか。してどういう意味なんじゃ?」

「蛙」

「よしわかった、表に出ろ」

 こうして第二ラウンドが始まった。
爺さんの名前ではないですが、キャラ名が出てきました。
結構おちゃめなカワズさんです。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。