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四話 ここがどこだか教えてほしい 4
「……ふむふむ、なるほどなるほど。魔法を引きだすってのはこういうことか。
なんかデータをダウンロードって感じでお手軽だなこれ」

 どうせ俺しか使わないんだから、いっそもうダウンロードに改名しちゃおうかな?

 うん、そうしよう。

 いじっていると、なかなか楽しくなってきたわけだが。

 空から降ってくると言えばいいのだろうか? 

 イメージとしてはそんな感じだった。

 情報が、どこからか頭の中に流れ込んでくるのである。

 一度体に取り込んだ魔法はそれ以降、意識するだけで使えるようになるらしい。

 急に頭がよくなったような何とも言えない感覚は、なんだか癖になりそうだった。

 しかもダウンロードした魔法について、補足説明までついてくるという親切設計。

 仮に詠唱なんかあっても覚えられそうもないので、俺にとっては助かる仕様である。

「なになに? これくらいの大魔法になると結構魔力もいるわけだ。生贄? ヨリシロ? どうしようか?」

 補足説明を斜め読みすると、どうやらこの魔法には生き物が必要らしい。

 そんな時、ちょうどいい感じに鳴き声らしきものが耳に届いたのだ。

 鳴き声を追って窓の外を見ると、アマガエルが一匹、窓の縁で鳴いていた。

「おあつらえ向きだな……可愛そうだけど」

 罪悪感を覚えたが、俺は結局アマガエルを捕まえることにした。

 カエルを素手で捕まえるなど、小学生以来だったが、無事成功。

 アマガエルには毒があるので、手をよく洗いましょう。

 最後に部屋にあったチョークで床に図形を描き込んで、適当な器にカエルごと据え置くと、準備は万端である。

「……よし。それじゃあいっちょ試してみるか!」

 準備を整え、頭の中のイメージを明確にする。

 すると俺の中から先ほど読み取った魔法が外に向けて出て行くのを感じた。

 出て行った魔法は魔法陣になり、あたり一帯を埋め尽くしながら現実を書き換えてゆく。

 俺の中から魔力が奪われてゆくのと同時に、世界が変化してゆくのがしっかりと理解できた。

「さぁ、頼んだぞ! 死者蘇生!」

 魔法の結果を確信した時、俺は会心の笑みを浮かべた。

 そして俺は全人類が一度は夢見たであろう神秘の扉を開く。

 ゲコリと蛙が一声鳴いていた。





「…………なんだこりゃ?」

 気がつけば俺のいた場所は様変わりしていた。

 辺りはとにかく視界が悪く、霧が一面に立ち込めている。

 深い霧の中を黙って歩き続けると、そこが色とりどりの花が咲き乱れる、花畑であると気が付いた。

 花畑……そして、俺が使った魔法。

 実に嫌な予感しかしない。

 そして、行く先に待ち構えていたモノと目があって、俺はその嫌な予感が当たっていることを確信した。

 いつの間にか目の前には大きな川があり、小さな船と、ぼろ布を着た鬼が立っていたのである。

 ……うわぁ、ほんとにいるんだな鬼って。

 さっーと頭から血の気が引いてゆく。

 赤い肌に二本角のそれは、どこからどう見ても鬼以外の何物でもない。

 その鬼の目玉が、ぎょろりとこちらを向いて、俺は息を呑んだ。

『汝か? 黄泉への扉を開けたのは?』

「……思ったより和風だ」

『第一声がそれか……ここの風景はお前の死後の概念に左右される、見た目に意味はない』

「ああ、なるほど」

 いや、この死者蘇生、魂をあの世から連れ帰る魔法ということだったので、それっぽい事にはなると思っていたんだ。

 だけど、こうやって妙な場所に来て、実際に生きた鬼を目にすると……俺も日本人なのだなぁと思ってしまう。

 本当ならもっと色々あるのかもしれないが、俺程度の宗教観ならこんなものだろう。

『汝の望みはなんだ?』

 俺の戸惑いなんかまるで無視して、鬼が強面の外見にぴったりのドスの効いた声で尋ねてきたので、俺はようやく本来の目的を思い出した。

 そういえばちゃんと目的があってここに来たんだった。

「あー、実は、さっき来た爺さんを一人生き返らせたいんですが」

 内心一蹴されたらどうしようと不安だったが、鬼の対応は予想に反してそれなりに丁寧だった。

『……死者の復活は、本来ならありえぬ。それ相応の対価が必要になるが?』

「具体的にどのくらい?」

『魔力にしてお前の基準で言うところの30000』

「なら、一括で」

 思わず即答してしまった。

 なんだ結構安いじゃん? なんて言ったらまずいのだろうか?

 どうやらまずかったらしく、鬼はなんだかぎょっとしていた。

『な、何を言っておるのだ! 人であれば30000人を生贄に捧げてようやくと言う魔力であろう!』

「……いえ、まぁ一括で」

『……何で死なんのだお前は?』

 俺としてもよくわからないのでオズオズとそう言う。

 そんな俺に鬼は釈然としないようだったが、肝心の魔力が滞りなく支払われると、諦めたようにため息を吐いていた。

『むぅ……ならば致し方ない。少し待て』

 鬼はそのまま船に乗り、霧で見えない川の向こう側に消えていった。

 それから三十分ほどしただろうか?

 河原でぼんやりとしながら待っていると、手に何か人魂のようなものを持って鬼が戻ってきた。

『……ほら、約束のものだ受け取れ』

 鬼は船を着けると、俺に向かって人魂を手渡してくる。

 すると弱々しい火の玉が、よたよたとこちらに漂って来た。

 今にも消えそうなそれを恐々受け取って、俺は一応鬼に掲げて確認をした。

「この人? でいいんだよね?」

『ああ、間違いない。貴様の記憶から目的の人物だと確認している。間違いがあってはこちらの不手際だからな』

「はいどうも。……こんなに簡単でいいのかな?」

『いやいや! そんなことはないのだぞ? 普通はこんなこと出来んのだからな? 
ああ、ちなみに黄泉の門を開けることが出来るのは理を歪めたとしても一度きりだ。心せよ』

「えぇ!? そうなんだ……。爺さんに使うの早まったかな?」

『何ぞ言うたか?』

 おっと思わず本音が出てしまった。

 しかしそれとは関係ないが、せっかく返してもらった魂が、どうにも生きの悪そうなのがちょっと気になったのも確かである。

 そういえば魔力を俺に渡したとか言っていたし、一回しか使えない魔法なら、なおさら言っておくべきだろう。

「……いえいえ。ところで魔力を上乗せするんで、この人に元の魔力を与えたり出来ないですかね? なんか俺に渡しちゃったみたいな事言っていたんで」

 出来ることなら元の状態がいいだろうと頼んでみたわけだ。

 ただの思い付きだったのだが、鬼は人魂を改めて見直して、案外あっさりと許可してくれた。

『む? 確かに魂が壊れかけているな。壊れかけた魂を返却するというのもまずかろう。魔力を追加で出すというのなら修復してやるが?』

「じゃあ一括で」

 またもや即当した俺に、鬼ももはや言葉もないらしい。

『う、む……規格外な人間が来たものだな』

 いよいよ疲れた口調の鬼は、人魂に手をかざす。

 そしてぼんやりとした光を当てると、目に見えて人魂が元気になったのがわかった。

『さぁ、これでよかろう? さっさと帰れ、私も忙しい』

 最後にはしっしっと犬みたいにおっぱらわれる。

 口にこそ出さないが、もう関わり合いになりたくないと、その背中が語っていた。

 いや、呆れられても困るんだ。

 むしろ呆れているのは俺の方なんだからね?

 だって普通思わないだろ? 死者蘇生なんか本当に出来るなんてさ。
さて、むちゃくちゃしてしまいました。


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