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2話
「あ~、暇だなあ~」

俺はコタツに潜り込むとうつ伏せに倒れ込んだ。
美春と伊織はまだ帰って来ていなく、1人で無駄な時間を持て余していた。

「…ただいま」

すると、ちょうどよく伊織が帰ってきた。
リビングの戸を開け俺の姿を見つけると伊織は口を開いた。

「早いな、莉那。もう帰ってきてたのか」
「おかえり。というか、お前はもう少し早く帰ってくるべきだ。お前に夜遊びは早すぎる。あたしの相手をしてれば十分だ」
「……おい、今まだ”4時半過ぎだぞ”。どこが夜なんだ」

一応、時計を確認した伊織が呆れた声を出す。

「小学生は4時には家に居るべきだ。分かったか、この野郎」
「どう頑張ってもそんなことは不可能だ。そして、滅茶苦茶な自分の意見を言うだけでなく、私に対しこの野郎とまで言うか。これはあれだな。自分の部屋で宿題でもしようか」
「ああっ、待ってください伊織様。スミマセンでした、あたしが悪うございました」

そそくさと部屋に篭ろうとする妹の足を掴み、暇な俺は懇願する。

「このままだと暇過ぎてどうにかなりそうなんです! 一緒に遊ぼうぜっ、いや、遊んで下さいっ!」
「暇って…お前、確か美春姉さまに今日の夕飯作っておいてねって頼まれてなかったか?」
「……………あ、そうだった」

確かに学校に行く前にそんな事を頼まれていた気がする。今の今まですっぽり忘れていた。

「じゃあ、準備ヨロシク。私は宿題を…」

再び部屋に行こうとする妹を、今度は羽交い絞めでホールドして動きを封じ込める。

「手伝って下さい。伊織様…」
「断る。1人で作ってくれ。今日の宿題は量が多いんだ」

暴れて俺の羽交い絞めから逃れると伊織は少し怒ったように言う。
それを見て俺は不敵な笑みを浮かべた。

「伊織。あたしの料理の腕は知ってるだろう?」
「…うっ」
「もし、ここであたしを見放したらどうなるかなあ。おかわりたくさん作っちゃうかもね~」
「ぐ、ぐぬぬ…。それは、い、イヤだ…」
「じゃあ、自分がどうすべきか分かるよね?」





「よし、料理を始めよう。何を作ろうか?」
「…不本意だが、自分と美春姉さまの胃袋と健康の為だ。仕方ない」

何とか伊織を説得(?)した俺は青いエプロンを付けた。
渋々といった感じで、伊織も赤のエプロンを装着している。

「…莉那。まずは、冷蔵庫を確認しろ」
「はいは~い………って見事に何もないな」

冷蔵庫の中身はほとんど空だった。
卵と見たことのない調味料があるだけで、料理の知識が”カップ麺”とかそのぐらいのレベルしかない俺には、たったこれだけで何が作れるのか見当もつかない。

「ふん、これでは何も作れんぞ。あたしのやる気は0になった」
「料理に決定的に必要なのは、『作る側の腕』だ。それに『愛情・材料』と順に続く。なのに、『腕なし・愛情なし』のお前が食材でも誤魔化せないとなると、これはいよいよ非常事態だ」

そう言うなり伊織はキッチンを出て行き、リビング脇に置かれている電話の受話器を手に取った。

「ねえ、何してんの?」
「見て分からないのか? 出前だよ。で・ま・え。……あ、もしもし――」

俺は速攻で伊織から受話器を取り上げた。

「ダメだ。第三者の介入は認めん」
「固いこと言うなよ。たった電話1本で我が家に笑顔が戻るんだ。これぐらいは安い出費だろう?」
「あれ? もう既にあたしがお金出すのは決定してたのね」
「当たり前だろうが。お前が作ってくれと頼まれているのだからこれぐらい普通だろ」
「…とにかく、出前は禁止。このままじゃあたしが”ダメな姉”というレッテルを貼られてしまう」
「もう手遅れだよ…」

他の戸も全部開けて、俺は何か簡単なものが作れないものかと思案する。
そして、俺はある材料を見つけた。

「お? なあ、このパンケーキなんかはどうだろう?」
「パンケーキ? 良いよ、それ良い! でかしたぞ莉那」
「そうでしょう、そうでしょう。楽に出来るし、美味しいし」

意見が合った俺と伊織は、早速パンケーキ作りにとりかかる。
伊織はどこか嬉しそうに生地を掻き混ぜている。そうか、確か伊織の好物の1つだったっけ。

「よし。創作シェフのあたしがこれよりも更に美味しいものを作ってやろう」
「……え? お、おい、莉那?」

俺はフルーツ缶・オレンジジュースなど甘いものをあるだけ取り出すと、全て伊織の混ぜていた生地にぶち込んだ。
伊織は甘党だったからな。これでいいはずだ。

「…あ、ああ。私の糧が…死んでいく」
「じゃあ、焼くぞ!」

…。

……。

………。

「あ、あれ? 固まらないぞ」
「…当然だ。生地がゆるすぎる」
「残ってる粉は?」
「…もう無い」
「ええっ? じゃあこの液体たちどうするの?」
「どうする、だって? そんなの決まってるじゃないか…。食べ物の恨みは怖いんだぞ…」
「い、伊織? め、目がイってる…ちょ、ちょっと…?」

そして俺は、奇天烈な味のパンケーキの生地を美春が帰って来るまで永遠と飲まされ続け、数日間お腹を壊すハメになったのだった。
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