July 09, 2006

【cinema】WALKABOUT 美しき冒険旅行

b59f6746.jpg ニコラス・ローグの『WALKABOUT 美しき冒険旅行』(WalkAbout / 1971 / 英)を観る。

 父とともにピクニックに出かけた高校生の姉と幼い弟。だが父は荒野の真ん中で車を止め、無理心中をしようとする。子供たちは岩に隠れて逃げたが、父はピストル自殺し、車も炎上させてしまう。荒野に取り残された二人の姉弟。水や食料を求めてオーストラリアの原野をさまよううち、アボリジニの少年と出会い、彼に助けられながらともに旅をすることに…。

 授業で発声練習をする女生徒たちの声と、オーストラリアの民族音楽のような奇妙な音が入り交じる。その音に合わせて次々とショットが切り替わる冒頭のシーン。「実験映画」のような印象。オーストラリアの原野を映した旅のシーンでも、所々にこのような実験的な映像と音の組み合わせが見られる。面白いのだけど、どうもこの実験性が、物語の世界に私を引き込んでいくのを邪魔しているというか…。

 邦題は『美しき冒険旅行』となっているけど、『険しき…』のほうがあってるんじゃないかと思わせるほど、実際は過酷な旅だ。水気のない赤土色の大地を、そして砂漠を、姉と幼い弟は延々と歩く。土と砂とで全身汚れた姿。すぐに干上がってしまうような水たまりの水を飲む。そんな姉弟のもとに現れたのは、蠅のたかるいくつものトカゲを腰にぶら下げたアボリジニの少年。三人はアボリジニの少年が射止めたカンガルーやトカゲの肉を食べつつ、旅を続ける。
 それでもやはり、広大な自然風景を映した映像は幻想的で美しい。湖で裸になって人魚のように泳ぐ少女。沈んでいく茜色の大きな夕日。そして、言葉の通じないアボリジニの少年との微笑ましい交流シーンも。

 アボリジニの少年は少女に恋をする。でもそれは私たちの身近にある恋物語のようなロマンティックなものではない。廃屋にたどり着き、そこで一緒に暮らそう、そして子供を作ろう、という少年の言葉は、少女に伝わることはない。少女にとって少年は都会の家に戻り着くまでの旅路で、しばらく一緒にいただけの存在。少年がその黒い体に白い線で模様を描き、体や髪に鳥の羽を挿して踊る求愛の踊りは、彼女には恐ろしいものとしか感じられない。少女にとって少年は得体の知れない異文化そのものであり、決して恋愛の対象などにはなり得なかったのだ。
 …あんなダンスされちゃあ、そりゃ逃げたくなるよね、とも思うんだけど、少年が不憫で仕方ない…。

 白人の高慢さが所々に描写される。広野に響く銃声。アボリジニの少年が走って追いかけ、やっと槍で仕留める獲物を、白人たちは遠くからいとも簡単に撃ち殺す。出会ったばかりの少年に「水が欲しい」と叫ぶ少女は「Water!! Water!! You must understand! ...」と誰もが英語を理解できるべきだと思っている。

 ひとときの異文化間の男女の交流。それは永遠のものにはならなかった。ただ、ラストシーンは印象深い。少女は都会に戻って成長しても、時折あの冒険旅行のことを思い出すのだろうか。大自然に抱かれた、甘美な思い出として…。

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