太陽と紫外線を正しく知る |
紫外線はリクガメには必要不可欠なものです。そのことは一般的に知られていても、紫外線に効能や特性についてはあまり知られていないのが実情です。このコラムでは紫外線に関する基本的なことと、間違いに陥りやすいことをご紹介します。
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太陽光には目に見えない光が含まれています。人間の可視領域は概ね波長400〜770nmとされており、波長400nm以下の不可視光線が「紫外線」と呼ばれます(ちなみに波長770nm以上の不可視光線が赤外線です)。紫外線には波長ごとに大まかに分けて次の3種類が存在します。 |
UVA (波長315〜400nmの長波長紫外線) 大部分が地上に到達し、曇天でもあまり到達量が減少しない。ガラスを透過する。人間の場合は真皮に作用し防衛反応により皮膚を奥から黒くする。日焼けサロンで使われており、また車で仕事をする人はこの作用で日焼けすることが多いですが、長時間浴びた場合の健康被害が懸念されています。 |
UVB (波長280〜315nmの中波長紫外線) 大部分は成層圏オゾン層に遮られている。ガラスを透過しない。人間の場合は表皮に作用し、短時間に多量に浴びると皮膚が赤く腫れ上がる。赤く日焼けしてヒリヒリするのはこの作用。皮膚や眼に有害な紫外線で、オゾン層の減少による到達量の増加が問題視されています。 |
UVC (波長14〜280nmの短波長紫外線) 成層圏オゾン層に遮られ地上には到達しない。生命に細胞破壊をもたらす有害な紫外線。研究施設の殺菌灯などで利用されています。 リクガメにおける紫外線の効能 |
リクガメにおいてはUVAは正常な脱皮を促すものとされています。UVAは爬虫類用のバスキングライトなら普通に発しており、またガラスを透過するため窓を閉めた室内でも得られます。それほど意識する必要は無いでしょう。 |
リクガメにおいて最も意識すべきは「UVB」です。リクガメの表皮に存在するコレステロールは熱によって7-デビドコレステロールに変化し、これにUVBが作用することでプロビタミンD3が生成されます。プロビタミンD3は血中に溶け出し肝臓に運ばれ変化し、さらに腎臓においてD3ホルモンとして血中に分泌されます。D3ホルモンは小腸においてカルシウムを血中に取り込み、取り込まれたカルシウムを骨形成する役割を果たします。 |
重要なのはビタミンD3は草食では得られないということ。ビタミンD3の添加剤なども存在しますが、ビタミンD3は脂溶性であるため脂質が必要であり、しかしながら草食ではその脂質もほとんど得られないのです。また腎臓のホルモンの貯蔵量はとても少なく、過剰に摂取すれば肝臓に障害が出る恐れもありますので、UVBの作用で生成されるプロビタミンD3の形で皮膚内に蓄積されるのが最も好ましいのです。 |
※ 無論人間にもUVBは必要ですが、顔や手など体の一部に1日15分程度の曝露で十分量であるとされています。 リクガメは室内で保温飼育されることが多いため太陽光を得られる機会が少なく、その場合UVBを与える方法としては概ね「日光浴」と「人工照明」の2点になりますが、この与え方に問題があると命取りになりかねません。以下では一般的に陥りやすい誤解や誤りについてご説明します。
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ガラス越しに日光浴をさせてもUVBの照射は受けられません。アクリル板でも同様です。紫外線透過アクリルというものも存在しますがとても高価です。透明のビニールはサランラップのような極めて薄いものなら多少のUVBを透過しますが、厚さ50ミクロンのポリエステルフィルムではほぼ遮断されます。 必ずしも直射日光は必要無い |
日光浴と言うと「太陽の光を直接浴びること」と思われがちですが、UVBを得るための日光浴には必ずしも直射日光は必要ありません。UVBは曇天でも晴天直射の4割程度が地上に到達しており、うす曇りなら晴天直射の8割以上が地上に到達します。晴天直射の4割でも人工照明に比べればUVB量は遥かに多く、「今日は曇ってるから日光浴が出来ない」と考えるのは完全な誤解です。 |
また光は反射するものであり、日陰でも可視光線の届く明るい場所には反射によって紫外線も到達しています。晴天時の日陰は概ね上記曇天時と同レベルのUVBが存在するとされています。前項で「UVBはガラスを透過しない」と書きましたが、逆に言えば直射日光が差さない室内でもガラス窓を開けさえすれば乱反射によって射し込むUVBは得られるのです。 |
直射日光にこだわるあまりカメを熱中症にさせてしまう例も後を絶ちません。太陽光には大量の遠赤外線が含まれており、照射を受けた物体は分子の振動により自ら発熱します。したがって遠赤外線の照射を受けた物体は気温以上に熱くなるものなのです(アスファルトが素手で触れないほど熱くなるのと同じ)。人工的な限定された場所で日光浴を行う場合、カメの転倒などが思わぬ事故に繋がりかねません。特に夏場の日光浴は完全に日陰になっている場所で行うのが無難です。 |
※ 紫外線は太陽が真上に近付くほど地上への到達量が多くなります(真上からの光はオゾン層を最短距離で通過出来るからです。斜めからの光はオゾン層を斜めに通過するため、通過距離が長くなり遮られる量が多くなります)。したがって一日では正午頃が最も多く、一年では6〜8月が最も多い時期になります。UVBはカメにとって必要な紫外線ですが浴び過ぎるのは有害です。 人工照明の距離 |
人工照明としてはUVBを発する蛍光灯などが一般的に使われますが、これらのUVB到達距離は非常に短く距離によっては役に立たないものになってしまいます(概ね30cmの距離が適正とされているようです)。人工照明の位置や角度を工夫し場所によって照射距離が異なるようにするのも一手です。 蛍光灯カバーの罠 |
水槽用の蛍光灯カバーには蛍光管を水から保護するために照射面に透明カバーが付いているものがありますが、これは絶対に外してください。カバーがあるとUVBが遮られてしまい何の意味も持たなくなります。
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