伊那市美篶の根津喜明さん(37)は、農薬と化学肥料を一切使わずに有機栽培した野菜を詰め合わせて発送する「ねつ野菜」を設立した。見た目をあまり気にせず、味と鮮度、安全にこだわり季節の野菜を育てている。形がいびつで虫食いの穴が開き、土付きのまま届く野菜がかえって珍重され、首都圏中心の顧客に喜ばれている。
農業するため18年ぶり帰郷 地元に生まれ育った根津さんは高校卒業後 、都内でデザイナーや障害者福祉の仕事をしてきたが 、小さな頃からあ こがれていたという農業をするため2年前、18年ぶりに帰郷した。
ところが、農作業どころか植物を育てた経験もなく「完全にゼロからのスタートだった」と根津さん。同市ますみケ丘の開拓者の名字の根津良平さん=故人=と知り合い、弟子入り。半年間住み込みで働き農業の基本を体で覚えた。
根津さんによると、師匠の良平さんは「畑は有機物さえあれば化学肥料や薬(農薬)はいらない。土の力を信じろ」と雑草や地中の虫、微生物などと一緒に野菜を育てていた。雑草の根が水と空気の通り道を作り、虫と微生物が土を活性化させることを教えてもらった。
約60アールの畑で約70種類の野菜を栽培する。季節に応じた野菜を多種類作ることで詰め合わせの内容を充実させている。生食用カボチャ「コリンキー」や、和からし「グリーンマスタード」など珍しい野菜も多い。農閑期はわらを乗せた土の中で保管した野菜を発送する。
新しいこと何でも試す スーパーの店頭に並ぶような形がそろい、きれいな野菜作りは目指していない。農業未経験者だけに既存の考えにとらわれず、新しいことは何でも試してみる。失敗と試行錯誤を繰り返すうち、畑に入れる有機物としてキノコ菌が有効だと分かった。
「ねつ野菜」から野菜を仕入れている都内で飲食店を営む金楽壮明さんは、「根津君の野菜は見た目はよくないが味が濃く 、今は店になくてはならない存在。特に葉物は 、この辺で仕入れた野菜がただの葉っぱに思えてしまうほど違う」と絶賛する。
根津さんは「毎日食べていると分かりにくいが、伊那産の野菜は日本一うまい。伊那は寒暖差や湿気の少なさ、水と空気の良さで何もしなくても質のいい野菜が作れる。農作業が楽しく、食べた人からの反応がうれしいです」と目を輝かせる。
詰め合わせは4〜5人用が2500円、2〜3人用が1900円、1人用が1300円。申し込み、問い合わせは根津さん(電話070・5451・0063)へ。