特集ワイド:安倍首相の「後ろ向き」教育改革
毎日新聞 2013年02月12日 東京夕刊
本田さんは言う。「道徳を名目に国家が人の心の中に踏み込もうとしている。しかし『このような人物であれ』と画一的な人物像を押しつけるのは教育ではありません。子供の多様性や主体性を可能な限り尊重すべきです。新しいアイデアや意外な発想を生かしてこそ、社会の活力の源になるはずなのに」
寺脇さんは、安倍首相の教育観には「大きな矛盾」があると指摘する。「授業時間を増やし、学力を上げ強い国にという一方で、道徳心も高めたいという。しかし詰め込み教育で競争させ、人を蹴落としてでも金もうけする力を育めば道徳心は下がります。安倍首相の上半身は精神主義の保守思想だが、下半身は新自由主義。いったいどちらをやりたいのか」。そして、本物の道徳心を学ばせたいなら「心のノート」より、総合学習の中で地域のお年寄りと触れあう時間を作る方がずっと意味があるというのだ。
第1次安倍政権時代からのもう一つの“宿題”が「週5日制」の見直しだ。先月には「土曜日授業復活」の検討を文科省が始めたことが報じられた。「脱ゆとり教育」を掲げる新学習指導要領は安倍首相自ら前回政権時に導入を進めたもの。「強い国」づくりのために学力低下は放置できないというわけだが、寺脇さんは反論する。「学力低下説に根拠はありません。文科省の国立教育政策研究所も否定している。国際学力調査の順位が下がったのは他国が伸びただけ。相対的な問題です。そもそも授業時間が長ければ学力は上がるのか。ならばOECD(経済協力開発機構)の学力調査で世界上位のフィンランドの授業時間が日本より短いのはなぜですか?」
「教育は量より質」と本田さん。「OECDは学力以外に、学校でIT(情報技術)機器をどれくらい活用しているか、実験授業をどのくらい導入しているか、生徒にとって自由度の高い授業ができているかなども調べている。日本の順位は散々です。教室に多くの子供たちを押し込め一斉型授業ばかり行っている。むしろそちらの方が問題でしょう」。民主党政権は「全学年35人以下学級」を5年間で中学3年まで拡大する計画だったが、政権交代後の来年度予算案では見送られた。
安倍首相が「ゆとり教育」を目の敵にするのは学力の観点からだけなのか。「ゆとり教育は『個』を大切にする。それが安倍首相には『公』をないがしろにしていると映るのではないか」と寺脇さんは分析する。
前回の教育再生会議で盛んに議論されたのが「親学」。子守歌や母乳による育児奨励などの「緊急提言」が検討された。超党派の国会議員でつくる「親学推進議員連盟」の会長は安倍首相その人だ。